第107話 渚さんとシューティングスター
『あれがウルミという人物かい。機体はボロボロだけどあの動きを見る限り、ギリギリの一線は護っている。ここまで戦い続けながらあの状態を保ち続けているのだから驚異的な腕前だね』
飛び出してきたウルミの動きを見てミケがそう口にする。
確かにウルミの機体は損傷が多いが、可動部位にダメージはなく、戦闘にほとんど支障が出ていないのは渚が見ても分かる。
(そうだな。あれがケイたちの先生か。けど、こっちはこっちでヤバい)
渚は迫るブレードマンティスの攻撃を、センスブーストを発動させて避けていく。さらに続く攻撃を補助腕のメテオファングでさばきながらショットガンを撃って反撃するが、ブレードマンティスは散弾のほとんどを避けてしまう。
(やっぱり当たらないか)
渚が苦い顔をする。ショットガンは弾を散開発射し広範囲にダメージを与えるものだが、相手は散弾の範囲を解析してダメージを最小に抑える形で避けているようだった。また、それほどのことが可能な演算能力を有しているという点でクロが単独で乗っ取れなかったのも当然だろうと思われた。
『クロ、どうですの?』
『まだ本来の性能は発揮できませんが、腕一本相手ならばなんとかなります。リンダも気を付けてください』
『ええ。けど、サブマシンガンもほとんど避けられてしまいますわね』
一方でクロとリンダの方は片腕となったもう一体のブレードマンティスを相手取っていた。クロは機体性能を完全に掌握できてはいないが、それでも片腕のブレードマンティス相手ならば抗せている。ただ一緒に戦っているリンダのサブマシンガンはほとんどが当たらないようだった。
またケイとウルミはキャリアスカラベを蹴散らし続けており、渚はその状況を確認しながら対峙しているブレードマンティスと距離を取る。
『渚、負荷がそろそろ限界だ。君も後どれくらい保つか分からないよ』
視界に映っているセンスブーストの負荷メーターはレッドゾーンに近付いていた。渚はそのことに焦りを覚えながらも、眉間にしわを寄せてブレードマンティスを睨みつける。
『畜生。こんなん、どうやって倒すんだよ?』
『タンクバスターモードなら問答無用でやれるんだけどね』
タンクバスターモードなら避け切れぬほどに拳を広げて相手にぶつければ良いだけだ。もっともそれは一回限りの大技。ジャイアントスカラベを確実に倒せる手段でもあるし、ブレードマンティス一体だけに使うのでは割に合わない。
『あとは弾道を予測されない長距離からの狙撃か、火力を集中させれば行けるだろうけどね』
『ルークがいればなぁ。それに火力を集中ってのは……ケイがまっ先にやられちまいそうだな』
渚の言葉にミケが『そうだろうね』と返す。
現時点で最大火力のガトリングレーザー持ちであるケイは強化装甲機を操作こそできるものの、近接戦闘ではウルミにも渚にも及ばない。今はキャリアスカラベを相手にしているから良いものの、下手に撃ってブレードマンティスに狙われればすぐさま仕留められてしまいかねなかった。
『っと、危ねえ』
再び接近してきたブレードマンティスの攻撃を受けて渚が避ける。
ここまでの攻撃パターンの蓄積がセンスブーストを使わずとも渚に回避を可能とさせていたが反撃には至れない。
『大丈夫かドクロメット!』
だが、そこにウルミの強化装甲機が仕掛けてきた。振るわれる双剣をブレードマンティスが受け止め、そしてギリギリと緑の火花を散らしながら両者が斬り合いを始めた。
『助かったよウルミさん。あんたそのカマキリ野郎頼めるか?』
『問題ない。騎士を舐めるな』
ウルミがそう言いながら剣を振るい続ける。その斬撃は鋭く、渚の眼でもほとんど追えないほどだ。その様子に渚も頷き、それからジャイアントスカラベへと視線を向けた。
『じゃあ頼んだ。あたしはあのデカブツをやる』
『承知した。こちらは任せておきなさいドクロメット』
その返事を聞いた渚は踵を返してジャイアントスカラベへと身体の向きも変えると、マシンアームを突き出した。
『良いのかい渚?』
『ああ、ウルミさんがいるしな。だからあたしは邪魔なアレを潰しておくさ!』
そして鋼鉄の腕の内部からアイテールライトが発せられ、巨大な緑の握り拳がその場で生み出される。それにはケイとウルミが驚きの声をあげるが渚は構わず駆け出し、マシンアームのブースターを最大加速させた。
『キャリアスカラベが来ているよ』
『まとめてぶっ飛ばすさ!』
その姿はまるで緑の流星だった。
一直線に突き進むソレは飛びかかるキャリアスカラベを蹴散らして、そのままジャイアントスカラベの持つ鉄の残骸の塊をも粉砕し、その先にある腹部を貫通して背の装甲をも突き破って、巨大な穴が開いた巨体がゆっくりと崩れ落ちていく。
『まったく、なんなんだいコイツらは。ま、私も負けていられないか』
さらにはブレードマンティスをウルミの強化装甲機が十字に斬り裂き、
『クロ、押さえててください!』
『はい、リンダ。さあトドメを!』
またクロが押さえつけた最後のブレードマンティスもリンダがマシンレッグに仕込んだアイテールナイフで斬り裂いて破壊した。
そして残りはキャリアスカラベのみ。それらもケイがガトリングレーザーで一掃し、渚たちはようやく勝利を収めることに成功したのであった。
【解説】
ジャイアントスカラベ:
キャリアスカラベの上位種。全長6メートルある巨大な機械獣で、キャリアスカラベの回収した資材を纏めて運ぶ役割を担っている。特定の攻撃手段は持たないが、その巨体でのタックルはそれだけでも十分に脅威である。




