第103話 渚さんとフンコロガシ
機械獣の残骸の山から出てきたのは丸っこい虫のような形をした機械獣だ。
それは渚がこれまでに見たことがないタイプで、それらは掴んでいた機械の塊を手放すと渚たちに向かってすぐさま動き始めた。
『キャリアスカラベだって? どういうヤツらなんだリンダ?』
『掃除屋って言われてるんですの。攻撃は足の爪のみですが、殻が固くてライフル銃の対装甲弾では腹に当てないと動きを止められませんわ』
リンダの説明を聞きながら渚は迫るキャリアスカラベを観察する。確かに硬い装甲に守られているが、リンダの言う通りに地面に接している腹部は薄いようだった。そして渚がそう把握したのと同時にミケがフィルターをかけて腹の部分を赤く表示させる。
『サンキューミケ、あれに当てりゃあいいんだな。あ、ケイは下がって待機しててくれよ。ガトリングレーザーは燃費がかさむからな』
『そうですわね。わたくしたちから抜けて近付いた相手だけを倒してくださいましね』
『は、はい』
ふたりの指示にケイが緊張した声で返して頷く。それから渚はショットガンとアイテールチェーンソーを手に取るとバイクから降りて突撃し、リンダとクロもそれに続いていった。
『装甲かぁ。ミケ、チェーンソーで斬れるか?』
『問題ないんじゃないかな』
ミケの解答に頷いた渚がアイテールチェーンソーを起動させた。キャリアスカラベの群れとの距離まではあと数歩。けれども渚に緊張はない。ここまでの戦いが彼女を成長させ、対人戦に特化していた戦闘技術を対機械獣用に調整させていた。
(特徴は硬い殻の防御力ぐらいだろ。武器は足のみだし、まあ問題ないか)
『KIRYYYYYY!』
『センスブースト!』
機械でありながら咆哮をあげて襲ってくるキャリアスカラベに対し、渚は己の意識を加速させて相対する。
弾丸ほどの速度でもなければ見ながら対処できる渚は飛びかかったキャリアスカラベの剥き出しの腹へとショットガンを撃ちこみながら、スライディングして後方のキャリアスカラベの元へと近付いていく。そちらはまだ飛びかかっておらず腹部も地面とくっ付いて隠されていたが、であれば見えるようにすれば良いだけのことだった。
『補助腕でひっくり返すよ』
ミケが操る補助腕が目の前のキャリアスカラベをめくり上げ、眼前に迫った腹部を渚がチェーンソーで斬り裂いた。緑の放電を起こしながらキャリアスカラベの上半身と下半身が分断され、地面にゴロゴロと転がっていく。
『おおよその行動パターンは見えた。センスブーストを解くよ渚』
(大丈夫だ。コツは掴んだ)
一瞬で加速した状態が解かれた渚だが、戸惑うこと無く次のキャリアスカラベへと向かっていく。もはや『対処は確立』していた。飛びかかった相手へはショットガンを、腹を隠している相手には補助腕でめくって斬り裂いていく。
また少し離れた場所ではクロが誘導してリンダが攻撃を仕掛けていくパターンで残りのキャリアスカラベを相手しており、結局戦闘終了までに強化装甲機に乗っているケイまで機械獣が届くことはなかったのである。
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『いやぁ、先ほどは凄かったですね。ナギサさんだけではなくリンダさんもここまで戦闘に長けているとは』
戦闘終了後にアイテールのシリンダーだけを回収した渚たちは着地点からすでに離れて探索を開始していた。
山のように積み上がった機械獣の残骸はお宝の山に等しかったが、残念ながら数日もすればキャリアスカラベが全て回収する可能性が高いだろうとリンダが口にしていた。それには渚も勿体なさそうな顔をしていたが、ケイの先生を探さなければならないのだから、のんびりもしてはいられないのが今の渚たちの状況だ。
そして探索中にケイが口にしているのは先ほどの渚がとリンダの戦闘のことだ。ケイは渚だけではなくリンダの戦闘能力も相当に高いことに関心を寄せていた。一方でリンダの方は少しだけ複雑な顔をしている。
『いえ。最近強くなったのですわ。ちょっとしたキッカケがあって』
ちょっとしたキッカケとは当然クロのことである。弾道予測線と、短時間だがセンスブーストを使えるようになった現在のリンダの戦闘能力は渚に及ばないまでも以前に比べれば相当に引き上がっていた。またリンダの意志に同期して動くクロの誘導力も機械獣相手には十分に機能しており、それはキャリアスカラベを文字通り一蹴するだけの力を与えていた。
『キッカケですか。そういうのに巡り会えたというのは羨ましいです。今回、僕の出番はありませんでしたしね。この強化装甲機、騎士団でもあまりないぐらいに状態が良いからちゃんと動かしてみたかったんですけど』
『そうなのか?』
他の強化装甲機など渚は大破したケイの機体ぐらいしか見たことがない。だから渚には自分の強化装甲機と他との違いは分からなかった。
『ええ、この機体はフルプレートと言って騎士団の強化装甲機と同じ形式なんですが見る限りはほとんど新品同様です。まあうちのは発掘してから三百年ものも普通にありますけどね。それにしてもこんな真新しいのは乗ったことがない』
『うーん、そうなのか。見つけた場所にはもうなかったからなあ。それにしても三百年って長いよな。よく動いてるな?』
『このタイプは頑丈なのと耐久力があるのが売りらしいですよ。うちにはメンテナンスの技術は残っていますし、パーツは機械獣のものを流用してどうにか保たせてる感じですね。それにしても複座型のガンナーズバックパックなんてウチでもほとんどありませんよ』
その熱の入った言葉に渚は少しだけ圧倒されつつも『そ、そうか』と答える。
『けど、やらねえぞ。あたしはそいつはそいつで結構気に入ってんだし』
『ははは、是非騎士団に売って欲しいところですがその話は後にしましょう。僕に与えられたのは結構ガタがきてるものでしたから本当に羨ましい。いや、壊しちゃったんですけどね。ハァ……首都に戻るのが怖い』
自分の強化装甲機が破壊されたことを思い出したケイのテンションが一気に落ちていくのに苦笑しながら渚が正面を見渡す。
『ま、生きてるだけめっけもんだと思うぜ。それにこの探索も一応目印が見つかったしな』
そう口にした渚の視線の先にあるのは散らばった機械獣の残骸と、強化装甲機のものらしき無限軌道の跡だった。それはつまり、この場を強化装甲機で移動しながら戦闘を行った者がいるということだ。
『良かったなケイ。お前の先生、生きてここで戦ってたみたいだぞ』
『ええ。後は生き残っていてくれれば良いんですけど。え?』
突如として地面がわずかに揺れたことにケイが驚き、それに渚やリンダも目を見開きながら周囲を警戒する。
『なんだ?』
『瘴気のせいで音までは届いてないけど、何かしら大きな衝撃があったようだね』
ミケがそう答える。何かの爆発か、或いは天遺物が落ちてきたのか。場合によってはウルミが機械獣と戦闘をしている可能性もあると渚たちは判断をすると、移動速度を上げてその先へと進み続けた。
【解説】
ガンナーズバックパック:
強化装甲機に二連砲を装着させるバックパック。
なお強化装甲機はガンナーズだけではなく、別のバックパックウェポンに換装させて使うことも可能である。




