第101話 渚さんと迷い人探索
「ウルミ? その人が機械獣を止めてくれたってのか?」
渚の問いに従騎士団の全員が頷いた。その中でケイが代表して口を開く。
「そうです。ウルミ先生は僕らの顧問で、騎士の中でも屈指の実力を持っているブレードランナーですから」
「ブレードランナー?」
さらなる渚の疑問には横にいたルークが答える。
「強化装甲機でも高機動型にカスタマイズされた機体を操る乗り手の呼び名で、アイテールソードなどの近接武器を持って戦うんだ。まあ機械獣相手なら立ち回り方次第じゃ銃よりも強いからな」
「アイテールソード? それってチェーンソーとは別の武器だよな」
「ああ。アイテールライトを宿した刃とブーストがついて加速する機剣のひとつだ。切れ味に関してはチェーンソーよりも鋭い」
「そんなものがあんのかよ。それも欲しいな」
「あげねえよ」
ビィがツッコミを入れるが、ケイが「待って」と言ってビィを制した。
「アイテールソードをお望みであれば騎士団に掛け合います。それで先生の救助をお願いできるのなら」
「ちょっと待てケイ。狩猟者相手に騎士団の備品を渡すのか?」
ビィが突然の提案をしたケイを睨むが、ケイも険しい表情で言葉を返す。
「ああ、そうだよ。少なくとも現状で僕らに選択肢は少ない。けど、この人たちの戦闘能力があれば、もしかすると先生を救えるかもしれない」
ケイの言葉に団員全員が黙り込む。少なくとも彼らにはもう継続して探索していられるほどの力はなかった。食料などを保管していたビークルはすでに放棄し、乗っているビークルも戦闘用の備蓄のみである。渚たちが動かなかければ、彼らに残された手段は撤退のみなのだ。
とはいえ、ウルミの救助も渚たちが動くつもりでなければどうにもならない。その提案に渚が眉をひそめると、ルークが挙手して口を開いた。
「ナギサ、リンダ。アイテールソードの件は置いておくにせよ、ウルミさんを助けるのには俺も賛成したい」
「おいおいルーク、相手は百鬼夜行だぞ?」
実際に百鬼夜行の光景を見たことがある渚が眉をひそめる。ウルミを助けたいというのは渚も同じではあるが、百鬼夜行と正面から当たれば助からないと渚は理解していた。
「まず百鬼夜行が出ているというのが……気になる。それにルートは彼らが確認しているから正面衝突はないはずだ」
ルークの言葉にケイが頷く。その反応を見ながらルートが話を続けていく。
「人数を絞ってすぐ逃げ出せるように対応すれば無理な話ではないと思う。何より様子を確認しておきたいんだ。狩猟者の仕事としてな」
「あんたがそこまで言うならまあ……リンダはどうだよ?」
「そうですわね。わたくしもルークに賛成ですわ。どうせやることは変わらないのでしょうし」
渚たちはここに緑竜土を探しに来ているのだ。であれば……という表情のリンダを見て、それにミケも声をあげないことから反対ではないと理解した渚が「まあ、そうだな」と口にして頷く。それにビィが手を挙げた。
「なら俺が一緒に行くぜ。大体あんたらウルミの姉ちゃんの顔も知らないだろ」
「僕も一緒にお願いします。一応依頼主になりますし」
「ちょっとケイ、大丈夫なの?」
アイが心配そうな顔をしたが、ケイは「問題ないよ」と言って微笑む。
「損傷は強化装甲機内部での衝撃で受けた打ち身と外傷だけだったし、あのメディカロイドは優秀だったからね」
今も治療を続けているミランダを見ながらケイがそう返した。
「ただアイ、君は戻れ。大破した強化装甲機を回収し団員をまとめて一度カワゴエシティまで下がるんだ」
「なんでよ。私だって」
「ビィと僕が行くのに副団長の君まで来てどうするのさ。今回の消耗は大きい。団員の安全を守るのも副団長の役割だ」
そう指示したケイにアイは何かを言いかけたが、声に出すことなく飲み込んで頷いた。
「すぐ戻ってきてよ。ウルミ先生を連れて」
「分かってるよ」
そこまでのやり取りを見ていたルークが頭をかきながら口を開く。
「んー、話はまとまったようだな。とはいえ、夜に動くのはな。出発は早朝だ。それまでは君らも自制してもらえると助かる」
「分かっています。そこまで無茶は……いえ、そもそも戻ること自体先生には止められていましたから」
ケイがそう言って団員たちをまとめて今後についての打ち合わせを始めた。
一方で渚たちの方も回収したパーツやアイテールを分け、いくつかは硬貨に変えてからその日は休息に入った。そして翌日、アイとカモネギ従騎士団の団員たちは渚たちが動くよりも早くクマガヤタワーを離れ、その場を後にしたのであった。
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『アイたち見えなくなったな』
『うん。まあ、彼女らなら大丈夫だよ。どちらかといえば危ないのは僕たちの方だろうし』
すぐに瘴気の霧で見えなくなったカモネギ従騎士団の向かった方角を見ながらケイとビィがそんなことを口にし合う。どちらもまだ十二歳とのことで、やはり仲間たちとの別れは不安であるようだった。とはいえ、彼らもすぐさま移動を開始することになっており、ふたりともすでに武装しヘルメットも被っている。あとは渚たちの準備が整い次第、出発であった。そして、ケイとビィの元にバイクに乗った渚が近付いてくる。
『ああ、そうだ。ふたりとも強化装甲機には乗れるのか?』
『乗れるのかって……俺は訓練中だからな。ケイの方はかなりの腕だぜ?』
『ビィ、騎士と同じ腕前の人に止めてよ』
ケイが情けない顔をするが、渚は気にせずビークルの上に乗っている強化装甲機を指差した。
『そんじゃあケイ。お前、うちの強化装甲機に乗ってくんねえか?』
『僕が? 昨日壊したばかりですよ? それにあなたの方が腕は確かだ』
『いやー、あたしはそもそもこっちの方が楽ちゃー楽なんだよ』
渚がそう言って自分のバイクをパンパンと叩いた。
その一輪バイクは左右にライオットシールドを付け、後部座席に武器が積み重ねられた重武装となっている。なおルークは自前の一輪バイクを、リンダとクロはビークルの上に乗っていた。それから戸惑うケイにルークが近付いて声をかける。
『まあ、ナギサはバイクの腕も確かなんだ。それこそ強化装甲機の操縦よりもよほどな』
『ハァ? 便利過ぎんだろ。なんなんだよ、お前は?』
『あたしにもよく分からん』
便利な女扱いされた渚が首を傾げた。
『とはいえ、正直ビークルで逃げる場合には強化装甲機はデッドウェイト過ぎてな。戦いに参加しなくてもソレで逃げてくれるだけでも助かるんだが』
『いえ、使わせてくれるならありがたいです。戦力として数えてもらっても問題ありません』
ケイが慌ててそう返すとルークは頷き、それからビィを見た。
『そっちの君には予備のバイクを貸すが、乗れるか?』
『バイクなら得意だよ。というか、まだ予備のバイクがあんのかよ』
色々と詰めすぎだろうとビィは思ったが、文句を言える筋でもないし、実際に役には立っていた。個人で所有するには重武装過ぎるが、そうした狩猟者がいないわけではない。ただ維持費がかかる上に管理も難しく、価値があるだけに狙われることも少なくないというだけのことで。
『それじゃあ出発するか。ルーク、向かう先は北東だな?』
『そうだ。百鬼夜行のルートはクマガヤの隣のフカヤエリアの北側へと向かっていったということだから』
ルークが自分の端末に埼玉圏の地図を表示して、とある一点を指さした。
『騎士のウルミさんが生きているとすれば、地形が複雑なアラカワ渓谷に逃げ込んだ可能性は高いだろう。だから俺たちはこの渓谷の周囲を探索するぞ』
【解説】
アイテールソード:
正確に言えばこの武装はブレイドの付いたブースターと考えた方が正しいものである。それは双剣であり、駒のように回転して凄まじい勢いで敵を斬り裂いていくが反面アイテールの消費は激しい。




