第87話「ブラッドムーン」
セイメイは馬に跨り、帰路につくと風化した遺跡を眺めながら、昇る月と重ねてイーリアスの美しい映像美にやられて激闘の事なんて忘れてしまうほどだった。この美しい光景が現実と仮想の境目を人間の脳が無くしてしまうのだ。いつか融合してしまうのではないかと錯覚するほどに…。
馬を走らせていると、人影が見えた。その数は徐々に数を増していく。
2人…3人…6人…
「マスター!!ゆっくりとこちらの足に合わせるように増えていっているよ!?」
「クリス!手綱を緩めるな!そのままスピードをあげるぞ!」
「マスタァー!反対側からも来るぞぃ!」
ソロモンはセイメイの馬と並列して警告してくる。やがて人影は合計10数名に膨れ上がっていた。
「ん~狙われたな。」
「そんな悠長な分析せんでええじゃろ!!それより、どうするんじゃ??戦うんか?」
「メディオラムまで距離があるな…。」
しばし、考えたセイメイは分散を試みる。
―――この先は森が広がり、コウジクの道か。このままだと足の速いヤツに追いつかれる。
「ソロモン、お前と俺が分かれることが今は得策だな。そっちにクリスとルカを預ける。俺とスカルドで、こちらに来た数は請け負うとしよう。それで何が目的かわかる。少なくとも俺の首は安い。一時の幸福を相手に与えても俺は痛くも痒くもない。メディオラム地方へ入れば死んでもメディオラムでの復活で早い。今はルカの存在とソロモンの指輪が大事だ。最短の距離で逃げろ。俺は迂回ルートでいく。」
「セイメイさん!!」
「これは命令だ。なぁに、現実の俺が死ぬわけじゃあない。くだらんメンツのやり取りに全滅の方が気分が悪い。さぁ、いけ!!!」
「マスター、いつもの奴じゃ。」
クイックタイムとコンセントレーションを受ける。
「まだありますよ、マスター。」
ルカがオーラクリスタルを唱えて打つ。
「なんだ?これはステータスが…!!」
身体が輝き始めた。
「全ステータス限界突破していやがるッッ!!」
「マスター、あなたの持っている“武人の怒り”の三倍の時間を有しています。次は打てません。さぁ蹴散らして合流するのです。あなたには、そんな暇人の相手をする時間などないはず。仲間が待っているのでしょ?」
―――そうだ。俺には俺を待つ仲間がいる!コイツ…ただのAIじゃあねーな…。人間に近い感情と思考をインプットされてロールアウトされている。グスタフとの違いはココか…。
「ああ、任せろ!ルカ!!お前に愉快な仲間達を紹介してやるッ!!たくさんの友達を作れッ!!!」
「マスター。死ぬんじゃないぞぃ。」
「ああ!スカルド!ついてこい!」
「はい!」
「セイメイさん!私も!!」
「バカヤロー!!お前じゃ足手まといなんだよwww地形が開かれているわけじゃないんだ、お前に不利だ。小回り聞く職じゃなきゃ囮は出来んよ!それより、万が一の時はお前が盾になれ。ルカとソロモンなら、お前をブーストUPして利点を最大限に引きあげてくれる!二人を頼んだぞ!!」
そういうと、セイメイはソロモン達と別れ、迂回ルートの森の道を走り抜けていき、見えなくなっていった。
~東の森~
ソロモンを逃がしたセイメイは森を走り抜けている。森の木々の間から月明りが零れている。
スカルドは後ろを見て、人数を数えていた。
「セイメイ様!1/3がこちらにいます。」
「やはり目的はソロモンとルカか。スカルド、おまえ精霊魔法ってのは地形で変化するのか?」
「地の利を生かした職業ならいいのですが、魔法の効力が若干上がるぐらいですね。」
「それって、威力が上がるという事か?」
「いえ、効果時間が伸びるといったものです。5秒が6秒になったり、ダメージが5%上昇するとか、そのレベルです。また装備によって前後もされます。」
「そうか。格段に上がったら、チートになっちゃうしなwそれでも、今はその付加価値がありがたい。」
「わかりました。但し、過度の期待はしないでください。」
「OK!んじゃあ戦いやすい場所はどこだ?」
「少し開かれていればセイメイ様の青龍偃月刀も当たりやすいはずです。あ!あそこはいいところでは??」
スカルドが指さした先に少し開かれている場所をみつけた。
「よし!!そこで戦うぞ!!やばくなったら俺を置いて逃げろ。いいな!?」
「そんなこと…!」
「これは命令だ。反論は聞かん。」
セイメイは馬を跳び箱のように飛び降り、腰に携えた刀を抜く。せまり来る黒子の集団がセイメイに襲い掛かる。
心眼の悟りッッ!!
相手の裏側に回り後ろを取る。
剣聖神道流 “絶影”
相手の影を踏みながら、刀で影を縫うように切り刻んでいく
そう、絶影とは相手の影を縫うのではない。
自分の影を縫いながら駆け抜ける技なのだ。
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本来、刀は一振りに気合を込めて振るのだが、いくつかの剣術の中でも実践向きでない剣術を選んだのにはセイメイなりの理由があった。
サムライの職は、いくつかの刀剣術を選ぶ。
それは、陰流・陽流、そして、神道流の中から選ぶ。
なによりも、上泉伊勢守陰流が人気だ。剣術の派生ではあの柳生十兵衛と技を覚える事も叶うのだから。
また、陽流は剣術と体術をミックスさせた刀術なのだ。
無論、ゲームの仕様上、どれも威力は統一されているが、神道流を選んだには理由があった。
ゲームには関係ないが、神道流には古来、建御雷神のより授かりし剣術が神道流にはあった。時の塚原卜伝が鹿島神宮に千日参詣を行った経緯がある。この事により開眼剣術となっている。
セイメイは塚原卜伝の書を学生時代に出会い、暇な時をこの本と過ごす。その影響があってこの剣術を選択したのであった。
そして、セイメイはスキルポイントを腐るほど溜め込むと全てのスキルをマスターしたのであった。
そのため、くしくもランカーの称号を手にしてしまったという経緯がある。
そう、剣聖神道流の剣聖とは、塚原卜伝を慕って名付けている。
本来、神道流だけでいいのだが、スキルコマンドや決めゼリフのようにいうのは、塚原卜伝が好きであるが故にそうなったとの事だ。
さて、話を戻そう。
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4.5人のプレイヤーを薙ぎ払い、瀕死の敵を間髪入れずに、青龍偃月刀に持ち替え大車輪を打ち払い相手を瞬殺していく。
「流石、セイメイ様!!」
スカルドが喜んでいるとこちら側のリーダーにお会いすることになる。
パチパチパチパチ
拍手をしながら、森の闇から出てくる男がいた。
「さすがだねぇ。伊達にグラマスじゃあないなとは思っていたが♪ご立派♪」
「よう、大将。部下がこんな目にあっているのに余裕綽々とは恐れ入ったぜ。」
「僕が親玉??よしてくれよ。あくまでリーダーを預かっているに過ぎない。みてみなよ、どれも成長途中のプレイヤーだぞ?」
「ほーん。闇雲に攻撃させて観察とはな。」
「観察だななんて…。」
「僕はただ、彼らの意志を尊重しただけさ。彼らもこれで学んだろ?格上には格上の戦い方が存在するってことをね。」
「こいつはお前の鉄砲玉じゃねーんだぞ?」
「おおこわっ!ヤクザ映画じゃないだ。そんな物騒な言い回し方はやめておくれよ。」
「ほーでは聞くが、俺はどいつと話してんだ?人間の言葉をしゃべるなよ。ネズミ風情が。」
「あ゛あ゛??城持ちだからって調子に乗るなよ。」
「おまえさぁ、キレるのは勝手だが、先に襲ってきているのはお前らだぞ?俺の名は言わなくても知っているから名乗る気もないが、お前はどこの馬の骨だ?名前を名乗れよゴミ。」
男はさきほどまで怒りをあらわにしていた表情から一変、元の穏やかな顔に戻る。
「おっと、これは失礼。まだ名乗っていなかったようですね。それはこちらに落ち度があるね。」
改まって男は口を開く。
「初めまして。僕の名前は、アークスだよ。今から君を殺す相手だよ。セイメイ。」
「んだよ、躾のなってねーガキに用はねぇ。お前のママが後ろで泣いているぞ?」
「ママは関係ないだろ!!」
「ママ、ママってうるせーガキだな。子供はもう寝る時間なんだよ。」
剣聖神道流 “蜈蚣”
地面すれすれに体を低く走り抜けアークスの横腹を斬り抜く
セイメイは後ろを取ると、刀をアークスの頬に刃を向ける。
「お前のようなガキはいくらでも見てきた。バカの一つ覚えのように突っ込んでくる。ガキは未熟な上にヒマを持て余していて、親の脛をかじって生きているのが当然の如く、その上、蝶よ花よと大事に育てられたビニールハウスの野菜と同じだ。そのくせ、やたらヘタな大人がやる真似事をすることしか脳がない。蛙の子は蛙って昔から言われている言葉の通りだ。親の顔がみたいぜ、ったく。」
「せー…。」
「あん?きこえねーよ。」
「うるせぇー!!っていってんだよ!おっさん!!」
「ああ、そうだ。おっさんだ。そのおっさんにゲームで負けてんじゃねーよ。クソガキがッ!」
セイメイは問答無用に首をはねようとする。
すると、攻撃がスカる。
「なにッ!?」
ササッッ!!
「ほう、忍者か。のわりには俺より遅いんじゃねーか。」
「忍者じゃない。アサシンだ。」
「おっとこれは上位職様か、さぁどうする?おしゃべりを続けるなら、2:1問答無用でお前を倒す。お前に構っている暇はないんだよ。」
森の闇に隠れたアークスへ声をかけた。
廻りを見渡すセイメイの後ろから光り輝く刃がセイメイを襲う。
「セイメイ様!後ろ!!」
「!!」
セイメイにアークスの強襲が舞い降りる。
月夜に舞う真っ赤な血飛沫は月を赤く照らした。





