第141話「名も無き策士の軍略」
「開門ッ!!」
ガラガラ…!ギィーーー!と二重になっている門を開ける。
馬に跨った最初の部隊は、ベルスの直轄部隊であった。鎧に身を包み、槍をもつ者、剣をもつ者、盾を構えてベルスを警護する者、それぞれがこの瞬間を今か今かと待っているようだった。
門が数名通れるようなスペースできると勢い良く飛び出ていく。ベルスは連突してくる馬に向かって、手綱を強く握り、愛馬へ突進のコマンドを押す。
ドゴゴゴゴゴゴゴン!!!
両陣営の互いの馬は仰け反り、突撃のオーラを相殺していく。また、数名がベルス達の突進を掻い潜ると、まってましたと言わんばかりの後続のギルメン達が剣をあるいは槍を突き立て、入り乱れた空間を袋叩きし、その命を消していった。
「どうだっ!?」
ファウストは見送ると同時に城壁に登り、門の下の戦況を伺う
「あのさぁ、魔法の指示!しなくていいの?」
物見台から降りていたマノがファウストにちくりという。
「そ、そうだ!!ポイズンレイクが届く範囲まで、ベルスさんを援護しろ!!」
既に城門前は占拠しており、味方に攻撃は効かないし無意味である。ベルスは射程範囲のギリギリまで飛ばす様に指示をしていた。
ベルス達の反撃は成功し、城門前から連合軍を退けていった。
「マスター!この後下がりますか?」
「既に夜が明けてきているッ!!占領戦の時間はまもなく終わろうとしてきている。ここで一人でも多くの敵をCTにぶち込め!!」
退却していく連合軍を横目に残存兵力を潰していくのだった。
「ちぃぃ!!おいムギ!!応戦するぞ!!??」
「下がるのよ!コウキッ!!」
「なんでだよ?!」
「作戦を知らないの?」
「仲間がやられてんだぞ?」
「これだからキサマは馬鹿なのだ。」
後ろから聞こえてきた声にムスッとする表情をみてムギは誰かを瞬時に判断できた。それは既にギルメンを携えて撤退の行動を取ろうとしていたハーネストだ。
「自ら死に戻りをして、命を軽んじて全体に迷惑がかかるということすらわからんお前には、どこの戦場にいったって活躍できるわけがない。」
「この野郎ォォ!!」
「いいか!?これが最後の情けだ。勝つ気があるのか?ないのか?ハッキリしろ!!この期に及んで、“エンジョイ勢です”なんて理由は通らんぞ?お前の仲間も、また他のギルドからも、白い目でみられるぞ?俺はこんな寄せ集めでもチームで動いていることをお前にわかってほしいだけだ。」
「……わかったよ!」
「いいか?“やられたなら倍にして返す”それを今から準備するんだ。さっさと合流ポイントに向かうぞ!」
ハーネストはMAPにピンを指すと、連合軍にしかわからない光の細い柱が立っていた。
「あそこに集まるんだ。いくらお前でもわかるだろう?」
「黙って聞いていれば…!」
熱くなるコウキを抑える様にムギがコウキを押しのける。
「ええ!わかりました!今すぐいきます。お先にどうぞ!」
そういうと、二人をおいてハーネスト率いるグラブレは合流ポイントへと馬をとばしていった。
ハーネストの背中を恨めしそうに睨むコウキをムギは落ち着かせる。
「誰彼構わず、噛みつくの。そろそろやめたら?」
ムギはため息交じりにコウキを諭していた。
「なんであいつは上からなんだよ!?」
「ハーネストさんは、強いからね。聖騎士は誰でもなれるとか言っちゃうくらいだからこのゲーム精通しているんでしょ?現に超難関クエストをいくつもクリアしているしね。」
「ちぃっ!気に食わねー野郎だ」
「はいそこまで。本当にハーネストさんとかうちのマスターからも愛想尽かされちゃうわよ?」
「ハーネストはどーでもいいけど、マスターはな…。何を考えているのかわからんけど、わかった。とりあえず、向かえばいいんだろ?」
「はいそうです。んじゃいこ?」
そういうと、ムギは馬を反しハーネスト達の後を追った。コウキはすぐにも向かってきそうなベルス達を尻目にムギを追いかける様に追従していった。
~合流ポイント~
ラピスは詠唱をしている。
それはベルスが進軍してくることを予測してのことだった。
車懸りを提案した張本人でもある。もともとの作戦はこうだった。
西門に連合軍を集中させ、東門を本陣のクーロンが攻め落とすという、啄木鳥戦法を取ろうとしていた。
そもそも啄木鳥戦法とは、孫子の兵法に半進半退の術として載っており、時の山本勘助はそれを熟知していた。川中島の戦いの際に堅牢で脅威である上杉謙信をどう打ち取ろうと模索している中、一羽の啄木鳥の餌取りを目撃、それをヒントに啄木鳥戦法を考案したと言われている。
つまり、今回も同様、兵を二つに分けて敵を誘い出す戦法を取ろうとしていたのだ。
最初に陥落したギルドが落ちてしまったため、正反対の位置を取ることができず、南門と東門を攻めるという形になってしまった。が、正直どこでもよかったのだ。
とにかく、二つの門を集中してどちらかを陥落させるという当初の目的はいずれにしても変わらなかったためである。無論、クーロンに伝える必要もなかった。それはラピスがいくら頑張ったところで城主になれるわけでもない。ただ、自分の知略と実力がどこまで通用するのかというのが知りたかったのだ。
無論、安易に陥落できるわけではないのは、ラピスは十分に知っており、そのためにいくつかの策を用意した。そのうちの一つが“城内から敵を引きずり出して包囲殲滅する”という実にシンプルな作戦をする事だ。無論、包囲するほどの人もいないので叶うことはないのだが、魔法が使えるというのはまた別の話だ。
ラピスは特大魔法を使用し、とある範囲を包囲殲滅という大それた計画を練っていたのだ。
ラピスの足元には大きな魔方陣が敷かれている。
本来、裸同然の行為ではあるが、なにしろ周りに敵味方などいなく、丁度いい頃合いに集まれればよいという考えでいたからだ。
単独では目立つが、時間内に仲間が集まれば隠れる。いずれ、募る仲間がラピスを覆うことにより、それは特大魔法を打っている素振りすら見せないというカモフラージュを施す事まで考えていたのだ。
それは現実のものとなっていた。
「おい爺ィ、引いてきたz…フン、貴様の読み通りというのが気に食わないが、今回は乗ってやる…!」
ハーネストは静かに目を閉じて詠唱するラピスをそっとしておいた。
―――こいつ、敵に回すととんでもなく厄介なやつだ。平然と敵の行動を読んでいたとすれば、とんでもないバケモノだ。そして、俺はとんでもないバクチ打ちに付き合わされているという現実を、嫌でも見させられている……!
ハーネストはなんともいえない悪寒が背筋を走り抜けていた。
城門前の制圧に成功したベルス達は追撃の手を緩めることがなかった。
正確にはできなかった一度、逆さにしたバケツをもう一度、同じ分量・質量を保たせることができないように人の高揚した気持ちを抑えるには同じ熱量でぶつからなければいけない。一部の突出したギルメンが残党を取り残したことに端を発する。
最初は追いつくのだが、ズルズルと決まり手となるスキルが当たらず避けられてしまい、それをみた他のギルメンがソイツを倒さんとすると、いつの間にか戦線は伸びるような形をとってしまった。
「おい!!城門さえ死守できればいいんだ!!戦果を求めていないぞ!!?」
しかし、ベルスの言葉とは裏腹に、フォルツァの軍勢は丘の麓まで伸びてしまう。
そんな矢先に黒い物体がフォルツァを襲う。
黒い物体は刃をイーリアスの太陽に照らしながら、残党狩りに手をだしたギルメンを一刀両断にする。それを制止していたベルスの目に嫌でも映してしまった。
ベルスはその姿を見ると何かとてつもない失敗感や喪失感を味わってしまう。
黒い物体は、イーリアスの日の出は黒い物体を照らし、黒く染め上げた甲冑は蒼黒く照らし、やがて太陽が完全に出ききるまでの数刻で赤黒く染め上げていくのだった。
ベルスは焦りと共に、生唾をごくりと飲み干した。
ベルスの目の前には、一度はプレイヤー達が思い描く暗黒騎士。そのままが目の前に立っていた。
それは黒を鮮やかに輝かせた出で立ちをしており、暗黒英雄という王道をゆっくり歩く存在が、そこに立っていたのだった。
既に、ベルスはラピスの術中にハマりつつあった。
太陽が昇り、西は穏やかな夜の静けさを一瞬で消し去っていった。





