97ー孵らなかった
ディさんが『うまいルルンデ』のコッコちゃんの話をしてくれる。
「オスカーさんに懐いちゃってさ。勝手に柵から出て来て厨房に入ってくるんだって」
「うちと、いっしょら」
「そうだね〜」
「ふふふ。コッコちゃんはお利口さんですからね」
平和な話をしながら、街の中を歩いて行く。もう、教会が見えて来たのだ。
卵はどうなっているのかなぁ?
「びおじい、こんちは〜」
と、手をふりふりしながら入って行く。
「おう、ロロ。元気だな?」
「うん、げんきら」
ビオ爺もまだ心配してくれているのだ。もう俺は、とっくに怪我は治っているのにね。
「ビオ爺、卵はどうかな?」
「変わりないなぁ。全然孵る気配がないんだ」
そんなに早く孵らないだろう? 鶏さんの卵って、孵化するのに何日掛かるんだっけ? こんな時には、ググりたいよね〜。無いけど。
「そうかぁ。1週間もあれば孵る筈なんだけどなぁ」
はやッ! たった1週間で孵化するのか? たしか鶏さんはもっと掛かる筈だぞ。
「ロロ、コッコちゃんは魔鳥だからね」
「しょうらった」
それでもだ。毎日最低2個卵を産んで、1週間で孵化していたら凄い数になるのじゃないか? 森の中がコッコちゃんだらけになっちゃうのだ。
あっちにもこっちにもコッコちゃん。そうなったら捕まえるぞ。
「卵の時点で狙われて食べられちゃうんだ。無事に孵っても、雛のうちに食べられたりするし。コッコちゃんは、弱いからなぁ」
おふっ、それは可哀想なのだ。沢山卵を産んでも、全部が無事に孵らない。その上、食べられちゃうなんてさ。きっと美味しいって、魔獣も知っているのだ。
「卵を温めていても、危険が迫ると放棄して逃げちゃうから余計だよ」
あらら。そんなに弱いのだ。じゃあ、飼っている方が安全で良いのではないか?
安全なのだから、育ってほしいのだ。
「ビオ爺、僕が見てみるよ」
「おう、頼む」
みんなで、教会の裏に出る。広場の片隅にある畑の近くに、コッコちゃんの柵が作ってある。なのにコッコちゃんは、そこにはいない。
外に出て、木陰に集まってお昼寝していたのだ。やっぱ、出ちゃうのだ。どこも一緒らしい。
「ハンナ、卵はどこかな?」
「あら、ディさん! ロロにマリーさんも、いらっしゃい」
「こんちは〜」
手をふりふりしている俺に、ひまわりの様な笑顔で手を振り返してくれる。ハンナはいつも、太陽の様な明るい笑顔なのだ。
「卵は今、子供達が見ていますよ」
「中かな?」
「はい、どうぞ」
俺達が、孤児院の中へ入って行くと、コッコちゃんが後を付いてきた。
「コッコッコッ」
「クック」
ここのコッコちゃんもお喋りなのだ。人見知りってしないのかな?
「うん、元気らった?」
「ククッ」
「コケッ」
「しょっか、よかったのら」
元気だよ〜。ここは安全だから良いね〜。と、話している。ね、やっぱ安全がいいよね。
なら、森のコッコちゃんも保護しちゃうか? 捕まえられたらの話だけど。
「ロロ、それは駄目だ。森の生態系を壊したら駄目なんだ。分かるかな?」
「うん、わかるのら」
そっか。コッコちゃんしか捕まえられない様な、弱い獣や魔獣もいるのだろう。そんな獣や魔獣にとっては、コッコちゃんは大切な食料なのだ。
それに、コッコちゃんが草を食べるから、森が保たれているという事もあるのだろう。
「ロロは賢いね」
ディさんが、頭を撫でてくれる。まるで、親目線なのだ。最近、ディさんは父性に目覚めたのだろうか?
孤児院の中に入って、みんなが集まっているリビングの様な部屋に行く。そこに子供達が集まっていた。
「あ、ディさん。ロロ、マリーさん」
「卵はどうかな?」
「ん〜、駄目だと思う。冷たいんだ」
いつも遊んでくれるニルスが言った。よく観察して考えている。いくら温めても冷たいままらしい。
子供達は、布を何枚も重ねて30センチはあるだろう大きな卵を大事そうに温めていた。交代でずっと付いていたらしい。
「どれどれ、ちょっと見せてね」
ディさんのエメラルドの瞳がキラランとゴールドに光った。もう覚えたぞ。精霊眼なのだ。
「ふふん」
「ロロ、何自慢気に胸張ってんだよ」
「しぇいれいがんなのら」
言ってやったぜ。堂々とさ。どう? ちゃんと覚えていただろう?
「ロロ、みんな知ってるぞ」
「ありゃりゃ」
なんだよ、そうなのか。折角、教えてあげようと思ったのにぃ。
「ああ、本当だ。駄目だ、孵化しないね」
「ええー、ちゃんと交代で温めてたのになぁ。ディさん、何でだ?」
「ん〜、どうしてだろう? ただ温めているだけじゃないのかも知れないね」
流石のディさんでも、そこまでは分からないか? なら、俺が提案してあげよう。
「こっこちゃんが、あたためてるとこを、でぃしゃんに見てもらうのら」
「なるほど、そうしようか。いい考えだね」
な、いい考えだろう? ふふふん。
コッコちゃんは、卵を産んで直ぐに温める訳ではない。朝イチに卵を産んだら、お腹が空くらしい。
朝ご飯を食べてお水を飲む。それから、今日も平和でいいね〜なんて言いながら一休みしてから『じゃあ、そろそろどっこいしょ』と、卵を温め始める。
なので、いつもはそれまでに卵を貰っちゃうのだ。しかも、一日中ずっと温めている訳ではない。自由に柵の外に出て、お昼寝していたりするのだ。結構、アバウトなのだ。
明日は、卵を2個だけ取らずに残しておく。温め始めた頃にディさんが、うちまで見に来るという計画なのだ。
お読みいただき有難うございます!
なろうさん、なんだか新しくなっちゃって、イマイチ使い方がまだよく分かっていない。^^;
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