96ーディさんとマリーと一緒
自然な蔓のカーブが難しい。大きく、うねらせているから。
「ん〜、むじゅかしいのら」
「ああ、坊ちゃま。そういう時はですね……」
マリーに少し教わる。なるほど〜。
「しょっか。ここをこうしてぇ……ちょびっとかさねてぇ……」
「そうです、そうです。お上手ですよ」
「ふふん、ありがと」
いい感じだ。糸の色も変えているのだ。葉っぱより蔓の方が、先っぽより根本の方が濃い緑にしている。緑色で濃淡もつけたいのだ。本格的なのだよ。
でも、刺繍は午前中でおしまいなのだ。何故なら……
「ロロー! 来たよ〜」
ほら、またディさんがやって来た。今日はね、一緒に教会へ行くのだ。
教会で待っていてくれたら良いのに、ディさんはお迎えに来てくれる。ディさんだって、心配性になっているのだ。
「でぃしゃん、こんちは〜」
「あ、刺繍をしてくれてたの?」
テーブルに出してあった、糸や布を見てディさんは覗き込んできた。
「しょうなのら。まら、見たららめ」
俺は体でそれを隠す。まだ見せられないのだ。
「えぇー!? どうして?」
「できあがるまれ、ひみちゅ」
「そうかぁ〜、秘密かぁ。アハハハ」
笑いながら、俺を抱き上げる。ディさんの見た目はとってもスマートだ。細いのだ。でも、俺を抱き上げる手は力強い。安心感がある。
「でぃしゃん、おひるたべた?」
「まだだよ」
「いっしょにたべるのら」
「うん、ありがとう〜」
そう言いながら、お外に出て行く。ディさんの向かう先は、もちろんニコ兄の野菜畑なのだ。
下ろしてもらって、ディさんと一緒に畑の中を歩く。
「立派だね。葉が艶々している」
「にこにいは、おじょうじゅ?」
「うん、凄く上手に育てているよ。こんなに美味しいお野菜が、この国で食べられると思わなかったよ」
ん? 『この国で』と言った。
「でぃしゃん、どこがうまうまなの?」
「お野菜かな? それはね、エルフの国だよ。お野菜もお魚やお肉も、凄く美味しいんだよ。パンだってそうだ。だから、僕はこの国で初めて食事をした時に驚いたんだ」
「へぇ〜。うまうまじゃなかったの?」
「美味しかったよ。でもね、エルフの国はもっと美味しいんだ」
それは凄いのだ。食べてみたい。エルフの国かぁ。遠いのだろうなぁ。
気付いたら、ディさんは手に沢山お野菜を持っていた。
「あらあら、ディさん。これに入れて下さい」
「マリー、有難う」
マリーが大きな籠を持って来た。もうよく分かっている。
大きな籠いっぱいに、お野菜を入れてキッチンへ持って行く。ディさんは袖を捲ってヤル気だ。
「葉っぱが大きくて艶々してるね〜」
なんて言いながら、鼻歌混じりにバシャバシャとお野菜を洗っている。
「お昼はサンドイッチにしましょうか?」
「まりー、たまごサンドがいい」
「はいはい。コッコちゃんの卵ですね」
「うん、ふわっふわに焼いて」
「ふわっふわにですね。分かりましたよ」
俺はテーブルの上をお片付けなのだ。庭先で日向ぼっこしていた、コッコちゃん達が中に入ってくる。
ジューッと、卵を焼く音がして良い匂いがしてきた。
「コッコ」
「ククッ」
「しょうらよ。こっこちゃんのたまごら」
何してるの? いい匂いがするね。と、話しかけてきた。
「コッコッコ」
「クック」
「らね、しょれはちょっとね」
ふふふ。良い匂いだけど、自分達の卵は食べる気がしない。と言っている。そりゃそうだよね。自分達が産んだ卵だからね。
お昼に、マリーが作った大きな卵サンドを食べた。ディさんは、自分で作った特盛サラダもムシャムシャ食べていた。
それから教会へ行ったのだ。マリーとディさんに手を繋いでもらった。俺達の後ろにはピカだ。
いつもと違う感じなのだ。ちょっぴり嬉しい。なので、俺の得意技スキップを披露しようではないか。
「えへへ」
「アハハハ。ロロ、ご機嫌だね」
「あらあら。ロロ坊ちゃま、躓きますよ」
「わふッ」
「ぴか、らいじょぶら」
はしゃいでいると、帰りに疲れちゃうよ? と、言われた。
ピカまで心配性なのだ。俺達の後ろを付いてくる。チロはいつもの様に、俺のポーチの中でお昼寝だ。
ずっと眠っているのに、家に置いて行くと拗ねちゃうのだ。チロも一緒に行きたいらしい。
「こっこちゃん、げんきかなぁ?」
「元気だよ。試しに卵を温めてもらってるんだ。孵化しているか、楽しみだ」
「へぇ〜」
もう、そんな事をしているのか。ほんの数日前に、話していたところなのに。
「次の日に、早速ビオ爺に話したんだ」
「成功したら良いですね」
「ね、本当だよ。そしたら、いい産業になるかも知れないしね。それに何と言っても、子供達が中心になって出来る事なんだ。こんないい事はないよ」
なるほど、なるほど。この街の産業に出来るのだね。それは良い事なのだ。
ルルンデは、卵の美味しい街として有名になっちゃったりしてね。
さすがに街中をコッコちゃんが歩いたりはしないだろう。いや、どうだろう? 不安なのだ。
「そうそう、エルザが話してましたよ。『うまいルルンデ』で、コッコちゃんの卵料理が好評なんですって」
「そうなんだよ。毎日数量限定で提供しているんだけど、直ぐになくなっちゃってさ」
へえ〜、なら『うまいルルンデ』のコッコちゃんは、元気に卵を産んでいるのだね。
お読みいただき有難うございます!
メンテナンス、やっと終わりましたね〜
すっごく変わっていて驚きました^^;
応援して下さる方は、是非とも評価やブクマをして頂けると嬉しいです。
宜しくお願いします!




