91ーレオナルトの思い 2
(レオ視点です)
「ロロは眠ったの?」
「はい。ディさん、今日は有難うございました」
「いいって。僕がやりたくてお節介を焼いてるんだから」
「そんな事ないです。ディさんにはお世話になってばかりだわ」
「ふふふ。僕は君達をエルフの国に連れて行きたいよ。こんな堅苦しい国じゃなくてさ、自由に生きて欲しいな」
「エルフの国ですか?」
「そうだよ」
ディさんが話してくれた。エルフの国は大陸の中央にある大森林の真ん中にあるんだそうだ。
エルフしか辿り着く事ができない森の最深部。そこに、エルフの国がある。
貴族や平民という身分制度のない国。そんな国がある事自体が信じられない。あまり知られてもいない。
身分制度のある国で生まれ、貴族から平民になった。僕達は身分差別というものを身に染みている。その身分制度自体がないそうなんだ。そして、勿論差別はない。
何より、エルフは子供を大切にするそうだ。
「エルフはね、子供が少ないんだ。出生率が低いんだよ。その所為もあるけど、子供に対する考え方がこの国とは違うんだよ。子供は未来を担う宝だ。みんなで可愛がり育てる。エルフはそうなんだよ。君達みたいに才能豊かで良い子は、連れて行きたくなるね。本当にこの国で幸せなのか? と思ってしまう」
でも、それなら何故ディさんはこの国にいるのだろう?
確か、エルフはこの国にはディさん位しかいないと聞いた覚えがある。
「そんな事はないよ。この国には、僕以外に大使として駐在しているエルフがいるよ。商人だっている。王都にいるから、知らないだけだよ」
そうなんだ。知らなかった。
「それでも、僕は変わり者らしいけどね」
そう言って、ディさんは笑う。きっとディさんは、これまでにも同じ様に手助けをしてきたのだろうな。僕達みたいな子供を助けてきたのではないかな? そう思う。
ディさんは懐が深い。そして、温かい。愛情が豊かなんだと思う。
ディさんを見ていると、父上を思い出す。
父上は、厳しいという印象はなかった。どんな時でも、僕達を見守ってくれている感じだった。
実際、父上に酷く叱られた記憶がない。
「坊ちゃま達がお利口だからですよ」
なんて、マリーは言ってたけど。姉上は結構お転婆さんだったと思うんだ。
その証拠に、母上にはよく叱られていた。父上も一緒に、母上に叱られたりしていた。
でも母上は、姉上が父上から剣術を習うことに反対はしなかった。反対どころか……
「女の子でも、自分を守る術を身に着ける事は大切よ」
と、言っていた。母上は剣術なんて全く出来なかった。自分が出来ないから、姉上には身に付けて欲しいと思ったのかも。
いや、母上は魔法が得意だった。だから魔法で、自分の身を守れたのかも知れない。
剣術だけじゃない。領地経営だって、僕と同じ様に姉上は教わっていた。
僕が成人するまでの、ほんの数年でも必要になった時の為と話していた。まさか、こんな事になるなんて想像もできなかっただろうけど。
姉上と僕が学園に通うからと王都に出て来た。父上は領地と半々の生活になってしまった。それでも、子供達の側を離れる選択肢はないと話していた。
僕達が長期休暇に入ると、家族揃って領地に戻った。きっと両親は王都よりも領地の方が好きだったのだろう。
僕はそれも楽しみだった。僕も、王都よりも領地の方が好きだったんだ。
伯爵で領主だと言うのに、収穫期には領民達と一緒に作業した。大雨の日には、一緒になって河川や作物を見回った。領民達からも愛される領主だったんだと思う。
「私は、私の両親から教わった。言葉で、行動で、沢山の事を教わったんだ。レオ達にもそうありたいと思っているよ」
そう話してくれていた。
僕達に沢山の愛情と時間を掛けてくれた。それが、普通だったんだ。当たり前にこの先も続くと信じて疑いもしなかったんだ。
両親が亡くなるなんて、そんな事は考えもしなかった。
その当然の日々が、前触れもなく壊れた。一気に、足元が崩れ落ちた。
あの叔父夫婦は、僕達の両親とは正反対だ。絶対におかしい。
そう思い続けて、でも何もできなくて……1年だ。
やっと、ディさん達の力を借りて糸の先を掴む事が出来そうだ。
この1年は、僕達の意識を変えていった。何もかもだ。
マリーがいてくれるから、まだこうして姉上と2人でクエストを受けられる。生活費を稼ぐ事が出来るんだ。
マリーがいなかったら……まだ幼いニコとロロを連れて、どうしていたのか想像もつかない。
僕達が家を出る時に、突然やって来たピカにも助けられた。いつの間にか、ロロに寄り添う様に座っていた。
その、ロロの刺繍が切っ掛けでディさんと出会った。
僕は油断していたんだ。ずっと、気を張り詰めていた姉上と僕。
生活が軌道に乗って、冒険者としてもディさんやギルマスに認められて油断したんだ。
まさか、ピカが狙われてロロにあんな事が起こるなんて。いや、領主様に言った様に予測出来た事なんだ。もっと、警戒するべきだったんだ。
なのに、そこからもまた縁が出来た。
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