89ー図案と土人形
また自然にコッコちゃんが会話に入って来る。俺の足に体をスリスリしてくるのは良いんだけど、ふんわりとした尾羽がこそばゆいのだ。
「コッコ」
「クック」
もう行かなくてもいいよね~なんて言っている。何がいいのやら。分かっているのか?
「クック」
「しょう?」
「クッ」
分かっているそうなのだ。本当なのかよ。コッコちゃん、ギルドとか知らないだろうに。それよりもだね。
「でぃしゃん、みてほしいのがあるのら」
「ロロ、なにかな?」
ちょいちょいと、ディさんを家の中へと誘う。
「でぃしゃん、ここ。しゅわって」
俺はソファーを、手でペチペチと軽く叩いて示す。
「うん、なにかな?」
取り敢えず、ディさんはソファーに座ってもらって、俺は自分のお道具箱にしている大きな木箱を棚から出してもらう。
「まりー、あれ」
「はいはい」
マリーはもう分かっているのだ。刺繍糸や生地やらが色々入れてある俺のお道具箱。そこから、四つ折りにした紙を広げてディさんに見せる。
「これみて」
「これ……ロロが描いたの?」
「しょうなのら。でぃしゃんの刺繍、考えたのら」
「凄いじゃない。上手だ」
ディさんはそれをジッと見つめる。俺が描いた刺繍の図案なのだ。
葉っぱが沢山描いてあって、その葉っぱは蔦で繋がっている。地面から空を目指すかの様に、大きく畝り這い繁る蔦に元気な葉っぱが幾つも生えている。
ディさんが持って来たスカーフに刺繍する図案なのだ。
どうだ? なかなか良い感じではないかと自分では思う。力作なのだよ。よくこの小さな手で描いたと自分でも思うのだ。
女の子だったら、葉っぱだけじゃなくてお花もプラスするのだけど、ディさんは男の子だからね。葉っぱだけなのだ。
「なになに? 私にも見せて」
「ロロ、いつの間にそんなの描いてたんだ?」
「ふふふん」
ちょびっとお腹を……じゃなくて、胸を張ってみよう。色鉛筆があったら、綺麗に色を塗ったりできるのだけどね。そんな物は、無いし図案だからいいか。
「ロロ坊ちゃまは、毎日少しずつコツコツと描いていらしたんですよ」
「そうなんだ」
「ロロ! 上手だわ!」
と、また抱き着いてくる。リア姉、本当に怒るよ。油断も隙もありゃしない。
「りあねえ、らめ。くっちゅくのはらめ」
「ロロ! 冷たいぃ!」
ああ、もう。本当に泣き虫女神とそっくりなのだ。いかんよ、いかん。あんな大人になったら駄目なのだ。
「わふ」
「え、らってしょうなのら」
「わふぅ」
ふふふ。ピカがそんなに女神は酷くないよ。とか言うけど、そんな事はないのだ。
気が良いのは分かるのだけど、行動だよ。あれだと駄女神と言われても仕方ないのだ。
「刺繍はまらこれからなのら」
「うんうん、急がないからいいよ。凄いね。楽しみだ」
そうだろう? 頑張って刺繍するぞ。刺繍糸も色々買ってきたからね。マリーがちゃんと持って帰って来てくれていたのだ。楽しみだ。
「レオ、私達もジッとしていられないわ! 特訓するわよ!」
「ええー、姉上。今日は槍でやろうよ」
「剣よ! 私は槍なんて使えないもの」
「なら、僕がレオの相手をするよ」
なんだって? ディさんがレオ兄と槍で対戦するのか? それは見てみたいのだ。
「ディさん、槍も使えるのですか?」
「僕は何でも使うよ。弓が1番だけどね」
と、またバチコーンとウインクをする。本当、長い睫毛で風が起こりそうなのだ。
「ディさん、じゃあ先に私と対戦して下さいッ!」
「いいよ~」
あら、ディさんは楽勝ムードだね。リア姉は、ディさんの相手になるのかな?
リア姉は張り切って外に出て行く。
俺はまた、ピカとチロ、それに7羽のコッコちゃんと一緒に、家の前に並んで見学なのだ。
コッコちゃん、もう普通に柵の外にいる。誰も何も言わないし。
「コッコッコ」
「クック」
「コッコー」
あらら、また喋っているよ。
「わふ」
「キュルッ」
「え、しょう?」
「わふん」
コッコちゃんやピカとチロは、ディさんが余裕だと話しているのだ。
確かに、ディさんは木剣で打ち合いながらリア姉にアドバイスをしている。良く見ているね。
「リアは剣も力任せなの? 剣筋が丸わかりだ」
「エイッ! そんな事ないですッ!」
「ほら、右だ。次は左。もっと相手をよく見てみなよ」
「ハイッ!」
おお、ディさんがとっても先生っぽいのだ。いや、師匠なのだ。
よく見ていると、ディさんの足元が殆ど動いていない。軽く躱わしているのだ。駄目だね、相手になってないや。
俺はリア姉の特訓をみながら、土をコネコネ、ペッタンペッタン。
庭の土でピカの土人形を作っているのだ。ちょっとお水が欲しいなぁ。土が硬すぎるのだ。
トコトコと畑の方へ行って、水遣り用に溜めてあるお水を少しだけ器に入れて持って来る。
それだけの事なのに、コッコちゃんは付いてくる。直ぐ戻るから、待っていてくれていいのだよ。
「コッコッコ」
「うん、しゅぐなのら」
「クック」
直ぐそこでも付いて来るらしい。まあ、いいけども。
元の場所に戻って、土にお水を少しだけ加えてまたコネコネペッタンペッタン。少しずつ形にして行く。ここら辺をちょっとね、もう少しふっくりとかな? ピカさんはとってもイケワンだよね。
「わふ?」
「かっちょいいワンちゃんなのら」
「わふぅ」
だから、ワンちゃんじゃないよ。と、言っている。分かっているのだ。でも、まさかフェンリルなんて言えないだろう? みんなびっくりしちゃう。ニコ兄は喜びそうだけど。
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