84ー朝からディさん
領主様が聞いてきた。
「君はニコ君と言ったか?」
「おう」
「ニコ君は何歳なんだ?」
「俺は9歳だ。ほら、ロロ。両手で持たないと零すぞ」
「あい」
ニコ兄に言われた通り、両手でコップを持ってゴクンゴクンと飲む。
「ぷは……」
「ほら、口の周り」
「にこにい、またちゅくのら」
「分かってるよ。でも1度拭いとこう。痒くなるぞ」
「ん……」
と、俺は大人しくニコ兄に顔を拭かれる。
「レベッカも同じ9歳だ」
「そうですね。母上が甘やかし、私達が無関心だった。その所為です」
「それでも、駄目な事は駄目です。悪い事は悪いのです」
お、リア姉が発言しているぞ。
「いくら甘やかされたからと言って、人を傷付ける事に罪悪感を持たないのは、その子自身にも問題があるのではないですか? 思いやりとか、想像力の欠如ですよ。痛いだろうなぁ、悲しいだろうなぁ、辛いだろうなぁ。それを考える事が出来ないのですから」
お、リア姉がマトモな事を言ってるぞ。
リア姉だけでなく、みんな俺には何も言わないけどずっと怒っていたのだろう。
「おや、朝からお客様なの?」
呑気な声が聞こえた。毎度お馴染み、ディさんなのだ。
チラッと、領主様とクラウス様を見ていた。
「でぃしゃん、おはよ~」
「ロロ、おはよう。おやおや、お口の周りに卵が付いているよ」
「うん、あとれふくのら」
「そう、後でなの?」
「うん、またちゅくのら」
「アハハハ、そうなんだ~」
「さっき拭いたとこなんだよ」
そう言いながら、ニコ兄がまた拭いてくれる。でも、また付くよ。マジでさ。エンドレスなのだよ。
「コッコッコッ」
「わふ」
「あー、またコッコちゃん出て来てるぞ」
「ほんとら」
本当にね、どうして自由に出入りできるのかな? どうやっていつも出てくるのだ?
「フォーゲル卿、分かりますか? こんな温かい家庭を壊そうとしていたんですよ。こんな小さな子に酷い事をしたんだ」
「サルトゥルスル殿、それはもう……」
「兄弟4人とマリーさん達が、協力し合って健気に暮らしているんだ。あなた達が壊して良いものじゃない。あなた達は、自分の家族の事なのに無責任過ぎたんだ」
ディさんはもしかして、領主様が来ているのを知って朝から来てくれたのかな?
そんな気がする。だって、偶然なんて都合が良すぎるのだ。
「わふ」
「コッコッコッ」
「キュルン」
あれ、ピカとチロだけじゃなく、コッコちゃんまで俺の側にやって来たぞ。もしかして、みんな俺を守っているつもりなのか? コッコちゃんまでも、そうなのか?
「だいじょぶなのら」
ピカに手を伸ばして頭を撫でる。
「わふん」
「でぃしゃん、りょうしゅしゃまやくらうしゅしゃまも、傷付いているのら。あやまってもらったのら」
「そう、ロロはもういいの?」
「うん。みんなにたしゅけてもらった。帰ってこられたから」
「ロロ……すまない。本当に申し訳ない事をした」
クラウス様が涙を流しながら、頭を下げた。隣にいる領主様もそうだ。流石に泣きはしていないけど、辛そうな顔をしている。
自分の娘と奥さんなのだ。こんな事になって辛くない訳がない。
「君達にこれ以上、迷惑は掛けない。私達に出来る事があるなら、なんでも言って欲しい」
もう充分なのだよ。俺はね。みんなはどうなのだろう? 見ると、さっきまで怒りだけだったのが、辛そうな顔をしているのだ。
「では、フォーゲル卿。一つだけ力を貸してくれませんか?」
ディさんが言った。何なのだろう?
俺は分からないから、黙って食べておこう。
「この子達が、何故兄弟だけで暮らしているのかご存知かな?」
「それは……私は教会で会った時にマリーから聞いている」
「そう。なら話は早いや。この子達を追い出した叔父夫婦の事、爵位継承の事を調べるのに手を貸してもらえませんか?」
領主様は知らないのだろう。意味が分からないといった顔をしていた。
俺がマリーと一緒に、初めて教会に行った時だ。その時に、クラウス様と出会った。
マリーが簡単にだけど、俺達の事情を話していたのだ。
「レオ、勝手に進めてすまないね」
「いえ、ディさん。そんな事ありません。僕達では、貴族簿を閲覧する事ができないんです」
レオ兄とリア姉は、諦めていなかったのだ。俺は何も知らなかった。
のほほんと平和でいいね。なんて、思っていたのだ。
ニコ兄とユーリアは、朝食を食べ終えると畑に出掛けて行った。マリーの作った大きなお弁当を持って。
俺はというと……話を聞こうではないか。ムムムと、一生懸命お顔に力を入れてデンと座っていた。
腕組みなんかしちゃおうか。ちょびっとお偉いさんぽくしてみよう。ちびっ子なんだけど。
「ロロ坊ちゃま、マリーと一緒にお庭へ出ましょう」
えぇー、俺も話が聞きたいのだ。だって、俺は当事者なのに。
「ロロ、コッコちゃんを柵に入れておいてくれるかな?」
「れおにい、わかったのら」
仕方ないのだ。俺はまだちびっ子なのだ。ディさんがいるから、大丈夫なのは分かっているのだけど。
信じているのだよ、ディさん。
「こっこちゃん、ぴか、行くのら」
「わふ」
「コケッ?」
マリーと一緒に外へ出る。コッコちゃんはみんな柵のお外に出ていたのだ。「クックック」「コッコッコ」と鳴きながら、みんな俺を見ているのだ。
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