83ーうぇっぷしッ!
「ロロ、言いたい事を言っていいんだよ」
「れおにい……えっとぉ……ボクは……帰ってこられたから……けがもでぃしゃんになおしてもらったし……らから、らいじょぶなのら」
「ロロ……」
「れおにいと、りあねえにまかしぇるのら」
ちびっ子特典だ。困ったら、自分より年上の人に丸投げできる。ここで、その特典を使ったのだ。
「う、うぇ、うぇっぷしッ!」
息が詰まる様な空気の中、俺は盛大にクシャミをしてしまった。しかも、全身で思いっ切りだ。ああ、びっくりした。
「ロロ……」
「お鼻が、むじゅむじゅしたのら」
「アハハハ」
「フフフ」
「あらあら、ロロ坊ちゃまったら」
なんだよぉ。俺、クシャミをしただけなのだ。だって我慢できないだろう? 出るものは仕方ないのだ。
でも何故か、俺のくしゃみが切っ掛けで場の空気が少し和らいだのだ。狙った訳ではないのだよ、本当に。
「実は、リアを覚えているんだ」
クラウス様がそう話し出した。
リア姉だって学園に通っていたのだから、顔くらいは見た事があるのだろう。
「アウレリア・レーヴェント……ある意味、有名な令嬢だったからな」
……なんだと?
「姉上……」
「わ、私、何もしていないわよ」
えぇ〜……みんな疑いの眼差しなのだ。だって、フィーネだってリア姉の事を覚えていたのだろう? 学年が違うのに。
なんだっけか……たしか『令嬢なのに、やたら剣が強いと有名』て、言ってなかったっけ?
クラウス様は、リア姉と同い年なのだ。学年が同じなのだから、フィーネより覚えがあっても不思議じゃない。
「最初は気付かなかったんだが……」
クラウス様がリア姉と会ったのは、教会のバザーの時だ。あの時、直ぐには思い出さなかったらしいのだが、学園へ戻った時にふと思い出したらしい。
「突然退学したと、噂になっていたのを思い出したんだ」
なるほどね。ところでさ……
「れおにい……」
「ロロ、どうした?」
「ちゅぢゅき、食べてもいい?」
「ああ、まだ途中だったんだね。いいよ。ニコも食べてしまいな」
「おう」
そうなのだよ。忘れられていたけども、ニコ兄と俺はまだ食べ終わってなかったのだよ。だから、食べよう。
「あらあら、お茶を入れましょうね」
出た……マリーのお茶攻撃なのだ。
誰にでも、どんな時でもお茶を出す。そして、皆を巻き込む。マリーの必殺技なのだ。
「どうぞ座って下さい。お食べになりますか? フォリコッコの卵がありますよ」
レオ兄まで勧めているぞ。まあ、いいか。重い空気よりいいのだ。
「なんと……フォリコッコ!?」
「レオ、それは魔鳥じゃないか」
「はい、庭で飼っているんですよ。表の柵の中にいたでしょう?」
「なんと……!?」
「魔鳥を飼うのか? 飼えるものなのか?」
「ええ。毎朝、卵を産んでくれるんです。美味しいですよ」
「そ、それは食べてみたいな。ね、父上」
「いや、そんな。謝罪に来たのに頂く訳には……」
「構いませんよ。なんせ1個が大きいんです」
そんな話をしている間に、マリーが出してきた。ご自慢のお茶と、コッコちゃんのふわとろオムレツだ。今日はチーズ入りバージョンなのだ。
ちゃんと、刻んだトマトのトッピング付きだ。美味しいぞぅ。
「さあさあ、どうぞ」
「かたじけない」
「いただきます」
ほら、フォークを入れると中からトロットロのチーズが出てくるだろう? 半熟加減もベストなのだ。お口に入れたら感動するのだよ。
「むふふ」
「ロロ、どうした?」
「らって、にこにい。じぇったいに、うまうまなのら」
「そうだな」
まあ、ニコ兄と俺はまだ食べるよ。モグモグモグと大人しく食べる。
「ロロ、口の周り」
「ちゅいてる?」
「うん」
「あとれふくのら」
「そうだな、また直ぐに付くしな」
「しょうしょう」
モグモグモグとね。
「クフフフ……」
クラウス様が、俺達を見て笑っている。何故に?
「クラウス、私は忘れていたらしい……」
「父上?」
「とても美味しい。心まで温かくなる」
「父上……」
「いかんな、涙もろくなってしまって……」
目頭を押さえながら、領主さんが少しずつ話し出した。
「毎日、朝食は慌ただしくて戦争の様だった」
「ええ、確かに。料理を味わうなんて、できませんでしたね……」
朝から令嬢が、お付きの侍女に当たりまくるのだそうだ。少しでも気に入らない事があると、ギャンギャン喚き、物を投げつける。その音が邸宅に響くのだそうだ。
そんな中で、取り敢えず朝食を摂る。母親である夫人は……
「あらあら、また何かしたのかしら? 仕方ないわねぇ」
と、優雅に笑っているらしい。
余りにも、それが日常になっていて、異常なのだと思う事さえ忘れていたと。
その内忙しい事もあって、領主様は別に食事を取るようになっていたそうだ。
家が、安らげる場所ではなかったのだ。
「レベッカは赤子の頃から、よく泣いて愚図る子だった。それが、成長と共に収まるのではなく、成長と共に愚図り方も酷くなっていった」
「母上が、全てレベッカの思うままにさせていたそうなのです。可愛い、可愛いと。家族なのだから、私達は気付くべきだったんだ。もっとしっかりと、躾けなければならなかったんだ」
「クラウス、それは父親である私がしなければならない事だ。ロロくんが無事で良かった。本当にすまない事をした」
ふむふむ。なるほろ。後悔してるのだね。モグモグモグ。
「まりー、りんごじゅーしゅちょうらい」
「はいはい」
ちょっと、お喉が詰まったのだ。
「フフフ……」
また笑われてしまったぞ。何故に?
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ロロのくしゃみ『うえっぷし!』お気に入りなのです。^^;
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