81ー情報通?
思わずレオ兄が声を上げた。
「うわッ!」
「やだ、レオ! どこ見てんのよ!」
ああ、あれは痛いぞぅ。バシコーンッて音がしたのだ。
「どれどれ、見せてごらん?」
「ディさん、いつ来たの?」
「さっき来たんだ。それでレオは気が逸れちゃったんだろうね」
「いや、ディさん。僕が余所見しちゃったから」
俺も一緒に、レオ兄の手首を覗き込む。真っ赤になっているのだ。
「ぴょぉ〜、いたいいたいら! た、たいへんら!」
「アハハハ。ロロ、平気だよ」
「らめ! まっかになってるのら! いたいのいたいのとんれけ〜!」
俺は思わず、レオ兄の手首をナデナデしたのだ。そしたら、あら不思議。
俺が撫でると、レオ兄の手首がペカッと光ったのだ。
「えッ!?」
「え、ロロ!?」
「おや?」
「ひょぇッ!?」
すると、レオ兄の赤くなっていた手首が綺麗に治っていたのだ。何も無かったかの様にだ。
「コケックックックッ」
「わふッ」
「キュルン」
うちは、人間以外の会話も交じるらしい。お喋りなのだ。しかも、人間より情報通だったりする。どうしてだ?
「え、しょうなの?」
「わふん」
「コッコ」
「キュルン」
「えぇー、しらなかったのら」
リア姉やレオ兄、ディさんがポカンとしているぞ。どうしたのだ?
ディさんが、目をキラキラさせながら俺の両肩を掴んで迫ってくる。
「ち、ちょっと待って。ロロ、幾つか聞きたい事があるんだけど!」
「なぁに? でぃしゃん」
デジャブなのだ。つい最近同じ様に、ディさんに迫られた事があったのだ。
「レオの手首、治っちゃったよ!?」
「ねー、よかったね〜」
「いやいやいや」
「ロロ、どうして?」
「いたいのいたいのとんれけーって」
「アハハハ! ロロらしいや!」
「ディさん、これって……」
「立派な回復魔法だね。普通は『ヒール』て詠唱するんだけど、ロロは違うらしいよ。アハハハ」
ディさんがウケているのだ。可笑しくないのだぞぅ。前世だとポピュラーな言葉なのだ。ちびっ子でもみんな知ってるぞぅ。
「それに、ロロ。コッコちゃんが話している事が分かるのかい?」
「しょうなのら。びっくりしたのら」
「そうかぁ、びっくりしちゃったのかぁ。アハハハ!」
「ロロ、ピカとチロだけじゃなくて、コッコちゃんも分かるのか?」
「れおにい、しょうなのね〜」
ふむふむ。そうなのだよ。いつの間にかね。だってうちのコッコちゃん達は、自然に会話に入ってくるからね。
「どうしてかな?」
「ボクは、ていまーらから」
ふふんと、ちょっぴり胸を張っちゃおう。
「いやいやいや。アハハハ!」
ディさんがずっと笑っているぞぅ。
「ロロ、僕もコッコちゃんをテイムしているけど言葉は分からないよ」
「え……」
「そうだね、僕も分からないよ」
「えぇ……?」
だって、分かるんだもの仕方がない。
「さっきは何て言ってたんだい?」
「ボクは、かいふくまほーが使えるようになったって」
「へぇ……ピカとコッコちゃんが?」
「しょう。チロもら。やっと使えたね〜って」
「やっと?」
「しょう。やっと」
またまた、3人がポカンとしているぞ。
「ちょっとピカ、詳しく教えて!」
そう言って、ディさんがピカに額をくっつけた。そんなので、分かるのか?
分かるらしい。ディさんは『念話』というスキルを持っている。エルフならみんな使えるそうなのだ。本当、エルフって凄いのだ。
その念話で、ピカに聞いたのだ。
俺は元々、回復魔法が使えるらしい。攫われて怪我した時も、自分で回復できた筈なのだ。
でも、まだちびっ子だからか、それとも魔法操作が未熟だからか使えなかった。それがやっと使えるようになったのだそうだ。
それって、もしかして女神の世界で癒してもらったからかなぁ? あの、超美味しい桃を食べたからかなぁ?
「わふわふ」
「しょっか」
ピカが、それが切っ掛けになったかもね。と、言っている。そうだよね。だって、今まで女神に呼ばれても使えなかったのだ。
「ちょっと、ロロ。見せて!」
おっと、今度は俺なのだ。ディさんが、じぃぃ……と俺を見る。これは精霊眼で見ているよね。だって、ディさんのエメラルドグリーンの瞳がゴールドに光ったのだ。
「本当だ。回復魔法全般使えるようになっているよ。前は適性があっても、まだ使えそうになかったのに。どうして? 何があったのかな、ロロ」
「えぇっとぉ……」
まさか、女神に癒してもらって桃を食べたなんて言えないぞぅ。
「けがしたからぁ……?」
ピョコンと首を傾げる。
「アハハハ! 悪い事じゃないし、まあいいか」
「え、ディさん。そんな感じでもいいんですか?」
「いいよ、いいよ〜! 君達兄弟はとんでもないねー!」
でも、笑っているディさんが、嬉しそうなのは気の所為なのかな?
「自分を守る力を持つ事は良い事だ。君達はその力を悪い事には使わないだろうしね。ロロはまだちびっ子だけど、回復魔法を使えたり付与できたりする。もっと訓練したら土属性魔法だって使える様になる。選択肢が増える事は良い事だよ」
ああ、そうか。心配してくれているのだ。あんな事があったからだ。
俺はまだちびっ子だけど、もし抵抗できる力があったら。
単純な腕力では大人に敵わないけど、魔法なら抵抗できるかも知れない。そしたら、みんなに心配掛けずに済むかも知れない。
なら、俺が選ぶ答えは1つなのだ。
「もっと、ポカポカぐるぐる頑張るのら」
「ロロは良い子だね~」
そしてディさんは、いつもの様に自分でお野菜を収穫して、特盛サラダを作ってバクバクモリモリ食べて帰った。
やっぱり、ニコ兄のお野菜目当てだったのだ。
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