71ーマリーのお弁当
「見てて」
そう言って、ディさんは矢のない弓を構える。そこに、光る矢が現れたのだ。何も無いところにだ。これが、魔法で作った矢なのか!?
綺麗なエメラルドグリーンで、しかも光っている。先端が尖っていて、ちゃんと矢の形をしているんだ。
こんな事が出来るエルフって、存在自体が別物だと痛感させられてしまう。圧倒的な力の差だ。
ディさんは顔色一つ変えずに、それをヒュンッと射る。風圧で、キラキラした髪が後ろに靡く。弓を射る、しなやかな姿勢と相俟って一枚の絵画の様だ。
まるで吸い込まれる様に、矢が魔獣に命中した。しかも、頭を狙っている。
「ぴょぉ〜! でぃしゃん、しゅごいしゅごいッ!」
「アハハハ、そうだろう?」
思わずパチパチと拍手をしてしまった。俺1人だけど、拍手喝采なのだ。劇場なら、スタンディングオベーションだ。
ディさんが、長い睫毛の目でバチコーンとウインクをした。カッケーな。
俺もやりたい! 無理だけど。弓を持って構える事さえできないぞ。ちびっ子用の弓ってないのかな?
「僕のは、エルフの皆が使う風魔法の矢なんだ。でも、エルフの中でも最強と呼ばれている人は、マジックアローと言って魔力そのもので矢を作り出すんだ。凄いんだよ。僕なんか全然敵わない位に強いんだ」
「ひょぉー!」
びっくりしまくりなのだ。SSランクの、ディさんが敵わないなんて想像もできないのだ。
エルフって、俺達とは次元が違うのだ。だって、転移だってできるのだもの。そのお陰で、俺は助かったのだ。
「僕は長距離の転移はできないよ。長老なんて国を跨いで転移するからね。レオやロロは魔法が使える方だと思うよ。魔力操作の訓練を怠らない事だね」
ふむふむ。ポカポカぐるぐるなのだな。よし、今日からまた寝る前に練習しよう。
ディさんの話に、よくエルフの長老さんが登場する。それだけ、尊敬しているのだろう。
でもきっと、ディさんは長老さんと仲良しなのだ。そんな表情で話すのだ。
さて、マリーのお弁当なのだ。その前に、またレオ兄が魔石を置く。そうなのだ、この魔石に付与するのも出来る様になりたいのだ。
今日は野望が3つ増えたのだ。
マジックバッグを作ってみたい。
魔法の矢を作れる様になってみたい。
リア姉の剣帯を作ってみたい。
どんどん増えていくのだ。どうしよう。もう覚えきれない位なのだ。
「ロロは戦う方じゃないんだね」
「え……むり」
「アハハハ、無理なの?」
「うん、こわわ」
「そうかぁ、まだちびっ子だからね」
もしかして、エルフはちびっ子でも強いのか? 俺みたいなちびっ子でもさ。
「とんでもなく強いよー。身体強化をするからね」
ああ、もう分からない言葉だらけなのだ。お腹が空いたから食べよう。
「ロロ、手を出して」
「あい」
「クリーン」
「れおにい、ありがと」
「さ、食べよう」
俺はまだクリーンでさえ、レオ兄にしてもらっている。先にクリーンを出来る様にならなきゃな。
「いたらきましゅ」
「いただき」
マリーの作った、相変わらず大きなサンドイッチを両手で持ち、あぁ〜んと食べる。
今日はベーコンエッグサンドなのだ。勿論、卵はコッコちゃんの卵なのだ。目玉焼きじゃないけど。
一緒に挟んである、トマトとレタスが新鮮で美味しいのだ。
「うまうま」
「な、美味いな」
「マリーさんのサンドイッチは大きいんだね」
「しょうなのら」
「ふふふ、マリーはいつもね」
「昔っからだね」
そうなのか? マリーの大雑把なところは今に始まった事ではないらしい。
俺は、その大きなサンドイッチを頬張りモグモグと一生懸命食べる。一口が小さいから、俺は食べるのが大変なのだ。普通はこれを半分に切らないか?
「ピカ、チロ、うまうま?」
「わふん」
「キュルン」
美味しいらしい。ピカはマリーの大きなサンドイッチもパクッとあっという間に食べてしまう。
チロは相変わらず、胸肉を茹でたものをブチッと噛みちぎって食べている。ワイルドなのだ。
「今日は楽しいな」
「うん、にこにい」
俺が攫われた事件から、過保護になったのはピカとチロだけじゃない。
みんななのだ。特に、ニコ兄。リア姉じゃなく、意外にもニコ兄なのだ。
こうして、一緒に外に出る時には俺のそばを離れない。必ず手を繋いで横にいる。
心配掛けてしまったのだと痛感するのだ。
ニコ兄が俺に言って聞かせる。
「このシールドの中だと安全だからな。出たら駄目だぞ」
「うん」
俺も知っているのに態々念を押す。心配性なのだ。
それにしても、今日はまだコッコちゃんを見ないなぁ。コッコちゃん、捕まえたいのに。
でも、ププーの実はまた採って帰ろう。
その前に、食べたら俺はお昼寝だ。瞼が勝手に閉じてきて、我慢できないのだ。
ピカに寄り掛かってお昼寝なのだ。
「アハハハ! ウケるよー!」
むむむ……スヤスヤと気持ちよくお昼寝をしていたのに、なんだか周りが騒がしくて目が覚めちゃったのだ。
「ふわぁ〜……」
大きな欠伸をして、寝惚けまなこを擦りながら周りを見る。
「アハハハ! 本当だ! お座りしてるよー!」
ディさんの声なのだ。見るとコッコちゃんがちょこんと座っている。
「何かありましたか?」
と、でも言いたそうな表情でキョトンとしている。
それを指さしながら、ディさんがお腹を抱えて笑っているのだ。
お読みいただき有難うございます!
またまたコッコちゃんの登場です。今回は何羽捕まえられるでしょう?
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