70ーディさんの弓
「ディさん、あれ育てられないか?」
「あれは無理だね。薬草と違ってキノコの一種だから湿度や土が違うと育たないんだ。そもそも、土から生えていないだろう?」
へぇ〜。でも、キノコなら合う木を持って帰ったらいいのではないのかな?
ふむふむと顎に手をやる。ちびっ子なのに、熟年感があるぞ。
「ロロ、何考えてんだ?」
「にこにい、マッシュが生えてるあの木を、しゅこし持ってかえっても無理なのかな?」
「なるほど、木か……」
ディさんが、魔魚に小刀をブッ刺しながら考えている。手は休めないのだね。リア姉とレオ兄が、次々に釣っちゃうから。
「ちょっとペースが早いよ。こっちは僕1人なんだよー」
なんて言いながら、お魚さんの頭をぶっ刺している。あぁ、無情なのだ。
「ロロ、木を持って帰ってどうすんだ?」
「え……わかんない」
「なんだよぉー、肝心のとこが分かんないのかよぉ」
「えへッ」
だって俺は、椎茸を栽培している場面をテレビのニュースで見ただけなのだ。
そんな詳しい知識は全然ない。
「ニコ、あの木を少し切って持って帰ってみよう。ダメ元だ。レオ、リア、もうお魚はいいだろう!?」
「そうですか?」
「でも、ギルドで高く売れるのよ! 新しい剣帯が欲しいの!」
あらあら、リア姉はお小遣い稼ぎになっているのだ。まだ釣りたいらしい。
リア姉が使っている剣は、父から贈られたものなんだ。リア姉が学園へ入学する時に貰ったそうだ。
だから、リア姉はとっても大事にしている。どんなに疲れていても、毎日必ず剣の手入れをする。
「この剣が、私を守ってくれている気がするの」
と、本人も言っている。大切な剣なのだ。剣帯も、父から貰った物の筈なのだ。リア姉の瞳の色と同じダークブルーで、綺麗なお花模様の刺繍がしてある。絶対に1点モノだろう。
「切れてしまいそうなのよ。だから、仕方ないわ」
なるほど。それだけ、使っているという事なのだ。
剣帯かぁ。俺にはまだ作れそうもないのだ。作れたらなぁ。皮に模様を彫って凝るのになぁ。
刺繍じゃなくて、皮に模様を彫刻するのだ。もちろん付与もしたい。もっと手が大きくなったら挑戦してみたい。
「何? ロロ」
「でぃしゃん、ちゅくれないなぁって思って」
「剣帯を作りたいの?」
「うん、リア姉の。きれーなもようをほるのら」
「ロロは物作りが好きなの?」
「ん〜、わかんない」
だって、俺の基準はリア姉やレオ兄、ニコ兄に必要かそうでないかなのだ。
必要なら、それにお守りを込めて作りたい。ポーションだってそうなのだ。
リア姉とレオ兄が、もしも怪我をした時の為なのだ。
そろそろ、お腹が空いたのだ。マリーのお弁当を食べたいぞぅ。
――キュルルル……
ほら、俺のお腹が鳴っちゃった。ペコペコなのだ。
「ロロ、お腹空いたな」
「うん、にこにい。しゅいたのら」
「そうだね、お弁当にしよう」
ディさんが、まだ魔魚を釣っているリア姉とレオ兄に声を掛けた。
「ロロのお腹が鳴ってるよー!」
「アハハハ! お弁当にしよう。姉上」
「分かったわ」
もう沢山釣ったのだ。ディさんが次から次へと、小刀で頭をブッ刺しピカが収納していく。
良い臨時収入になるのだ。
「僕も新しい弓が欲しいんだ」
おや、レオ兄もらしい。レオ兄は、普段は主に槍を使う。その槍も、父から貰ったものだ。レオ兄も、毎日丁寧に手入れをしている。
弓はこの街に来て、冒険者をする様になってから買ったのだ。だからきっと、今使っている弓より良い物が欲しいのだろうね。レオ兄は弓も上手になったから。
「レオは弓を使うんだ」
「はい、ディさん。僕は、槍と弓です」
「僕は弓には煩いよ」
何故なら、エルフだからだそうだ。
エルフはみんな弓が得意なんだって。勿論、ディさんも弓を持っている。
「国の長老に作ってもらったんだ。宝物だよ」
そう言って見せてくれたのだ。
ほうほう、使っている木自体がきっと良い物なのだ。何も知らない俺でも、良い物だと分かるぞ。
葉っぱの模様が彫ってあり、意匠を凝らした一級品だね。て、ディさん、今どこから出したのだ? 手品なのか? ディさんは手品までお得意なのか?
「ああ、マジックバッグだよ。エルフはみんな持ってるよ。そうか、レオ達は持っていないんだね」
「だってディさん、マジックバッグは高いですよ」
「そうだったね。エルフは作れる人が結構いるから」
ほう、エルフって凄いのだ。ディさんが持っていたのは、腰のベルトに通してある小さなポーチだ。それがマジックバッグなのだという。いいなぁ。
俺達の国では高価なマジックバッグが、エルフの国では普通にみんな持っている。
弓と一緒に長老さんから貰うのだそうだ。
「エルフは長命種だけど、子供が少ないんだよ。だから、そんな事ができるんだね」
しかも、話を聞いて驚いたのだ。エルフは弓に矢を使わないのだそうだ。
「エルフは魔法が得意だからね、魔法の矢を射るんだ」
「ひょぉー!」
びっくりなのだ。魔法の矢って、一体何なのだ? 是非とも、見てみたいぞぅ。
「ロロ、あそこに魔獣が出て来たね」
「うん」
俺達に気付いたのか、ププーの実を食べに来たのか。それほど大きさのない、猪と豚を足した様な魔獣が、のっそりと現れたんだ。魔獣の証拠に、額に小さな角が2つある。
お読みいただき有難うございます!
感想や誤字報告も有難うございます。
これからも読むぞー!と、応援して下さる方は、是非とも評価やブクマをして頂けると嬉しいです。
宜しくお願いします!




