69ーまた魔魚
結構、上流まで来たと思うのだ。俺は、ピカに乗っているから平気だけど。横を歩いているニコ兄が少し心配なのだ。
「にこにい、らいじょぶ?」
「平気だぞ。俺は毎日畑で動いているからな」
「おぉー、かっちょいい」
「アハハハ」
何故かディさんが笑っているのだ。
「ロロのお兄さんも、お姉さんもみんなカッコいいよ」
「うん」
そうなのだ。リア姉、レオ兄、ニコ兄、みんなカッコいいのだ。
みんながいてくれるから、俺は毎日楽しいのだ。リア姉、レオ兄、ニコ兄の側が、1番安心なのだ。
川幅が少し狭くなる程、上流へやって来た。少しだけ、川の辺りが開けている場所に出たのだ。そこには、ププーの木が数本だけ生えていた。
「あ、いっぱいあるのら!」
ププーの実が、まだたわわに生っていた。でも、どれももう完璧に色付いている。あと1日でも遅かったら、大半が熟れ過ぎて落ちていたのではないかという位だ。熟れたププーの実の甘い匂いが辺りに漂っている。
「ギリギリだったね〜。今日来て良かったね」
ほら、ディさんもギリギリだと言っている。
お昼前まで掛かって、この場所まで歩いて来たのだ。かなり上流まで来ている。川の流れも急になっているみたいだ。
そこをパシャッと何かが跳ねた。
ん? 何だ? お魚さんかな?
「レオ! 釣るわよ!」
リア姉が張り切っている。だから、今日も釣り竿を持って来ていたのか。
もしかして、また魔魚なのかな?
「リア、レオ、離れた場所から釣らないと危険だよ」
「はい、ディさん」
釣り竿を持っていた、リア姉とレオ兄が川から少し距離を取る。
「でぃしゃん、あぶないの?」
「そうだよ。魔魚だからね、人影が見えると川の中から飛び掛かってくるんだ」
「ぴぇ……」
思わず、横にいたニコ兄の腕にしがみ付いてしまったのだ。
なんだ、なんだ? この世界のお魚さんは皆攻撃的なのか? 前に釣った魔魚も、食いつこうとして飛び跳ねるとか言ってなかったか? 食いつくとか、飛び掛かってくるとか物騒なのだ。
「ロロ、魔魚だって」
「にこにい……こわわ」
「離れて見ていような」
「うん」
ディさんは手に小刀を持って待機している。
「釣ったら直ぐに締めないと危険だからね」
「前とは違うおしゃかな?」
「そうだよ。この辺りの上流にしかいないんだ。白身で淡白なんだけど、唐揚げにするととっても旨味があって美味しいんだよ」
「ひょぉ〜、たべたいのら」
「ね、楽しみだね」
それに、この魔魚の卵の塩漬けにレモン汁やオリーブ油等を加えてペースト状にしたディップが高級品なのだそうだ。
だから、この魔魚は良いお値段でギルドが買い取ってくれる。貴族が通う様な高級レストランに売るらしい。
早速、レオ兄が釣り上げた。
体に白い斑らがあって、背中とお腹が鮮やかな黄色だ。前に釣ったお魚より一回り程小さい。30センチ位かなぁ? お腹がぷっくりしているから、卵を持っているのだ。
すると、ディさんが小刀を魔魚の頭に思い切りよくぶっ刺した。
「え……」
「この魔魚は、こうしておかないと、臭みが出てしまうんだ」
「びょぉ〜」
リア姉とレオ兄が、次から次へと釣り上げる。
「入れたら直ぐに食い付くわ!」
「全然、警戒していないんだね」
そりゃそうなのだ。こんな場所まで普通の人達は来られないだろう。魔獣がバンバン出てくるのだ。
ほら、今だってピカが瞬殺で倒している。
「わふぅ」
「え、しょう?」
「わふん」
「ありゃりゃ」
魔獣も、残ったププーの実を食べに来るらしい。ん? あれは何だ?
ププーの木に寄りかかる様に生えている、小さな木の幹にまぁるい白いものがあるのだ。直径10センチ位かな? 大き目のシイタケみたいで、それよりもフワフワ感がある。平たいのではなく、厚みがあるのだ。
「にこにい、あれなぁに?」
「なんだ?」
「あの白いまぁるいの」
俺は、ププーの木の下を指差す。短い人差し指でごめんね。
「え……あれって……ディさん!」
「ニコ、どうした?」
「あれだよ、あれ! 図鑑で見た事あるぞ! あの白いマッシュ!」
ニコ兄も一緒に指を刺す。
「ニ、ニコ! あんなのよく見つけたね!」
「違うんだ、ロロが見つけたんだ!」
「凄いよ! 僕でもあまり見た事がないよ!」
ん? 何なのだ? 珍しいものなのか? てか、美味しいのか?
ディさんはその白いマッシュを横目で見ながら、手は魔魚をぶっ刺している。グサッとね。
「ロロ、残念ながら食べるものじゃないね。あらゆる状態異常を完全に回復させるポーションの材料なんだ。普通は手に入らないんだよ!」
なんだ、食べ物じゃないのか。ちょっぴり残念なのだ。
まだまだディさんは、魔魚をぶっ刺す。グサッ、グサッとね。
「何言ってんだよ! あれは本当に見つからないんだ。ダンジョンの深層にしかないと言われていたんだ! こんな場所に生えていたんだね。態々、こんな場所まで誰も来ない。そりゃ見つからないよ。アハハハ」
ほぅ。それは珍しいのだ。ディさんの手はまだ止められない。ずっと魔魚をぶっ刺している。俺はそっちの方が気になるのだ。
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