66ーロロの回復の秘密
あれ……確かディさんが助けに来てくれて、俺は気を失ったんだよな? てか、体がどこも痛くないぞ。何でなのだ?
俺は、不思議に思いながらゆっくりと瞼を持ち上げたのだ。
「え……」
俺はびっくりしたのだ。何故なら、俺が寝かされていたのは水の上だったのだ。俺、半分浮いてね?
耳の直ぐそばで、水の流れる音がする。なのに、濡れてないぞ?
なんだ? どうしてこうなったのだ?
ゆっくりと首を動かしてみる。大丈夫だ、どこも痛くないのだ。
周りを見ると……抜ける様な青空に、ふわふわと白くて薄い雲が浮いている。周りには、色とりどりの花が咲き誇り微かに揺れながら、爽やかだけどどこか心安らぐ香りが辺りに漂っていた。
俺が寝かされていた場所は、その中を流れている小川だったのだ。
この場所は見覚えがある。あの泣き虫女神の世界なのだ。
「気がつきましたかぁー!?」
ズンッと、女神が顔を出したのだ。なんだ、直ぐそばにいたのか。
「よ、よ、良かったでずぅぅー! 良がっだぁぁぁー! ゔぁぁーーん!」
またギャン泣きしている。今日は特に酷い。キラキラとした綺麗な長い髪が、小川に浸かって濡れていてもお構いなしに、俺に抱きついて泣いている。
止めてほしい。涙じゃない水分がついちゃうのだ。てか、まだ体が動かないのだ。
「……水の……上? なんれ……?」
「グジュッ! こ、ここは癒しの小川なのですぅ! こうして癒しの水の力で癒しているのですぅ! 精霊の力も借りてますぅー! 女神の加護発動なのです! ぶぶぶちーん!」
鼻水をかむんじゃないよ。汚いのだ。
いやそれよりも、なんだと? 精霊だと? そういえば、俺の周りに小さな光がワラワラと集まっていたのだ。よく見ると、その光の1つ1つが精霊だった。
小鳥さんくらいの大きさなのだ。人型で、背中に蝶のような羽が付いている。その羽が、半透明でプラチナブロンドにキラキラと光っているのだ。
――おきたー?
――よかったー
――気がついたねー
――もう大丈夫だよー
と、小さな精霊さん達が口々に言っている。可愛いのだ。ありがとうね。
精霊にも驚いたけど、何より水の上に寝かされていた事なのだ。
「特別なのですー!」
……そうかよ。
「ギャン! こんな時でも塩対応なのですー! びぇぇー!」
またまた、両手で顔を覆いながらのけ反っている。もう、慣れたよね。
その女神が、しおらしく謝ってきた。
「ごめんなさいですぅ……」
「なんら……?」
「ロロが危険な目に遭っているのに、手を出せなかったのです」
「ぴかが……たしゅけてくれたのら」
「そのピカが狙われたのです」
「うん……れも……ぴかはわるくない」
「ロロー!!」
ああもう、ちょっぴりウザイ。いや、かなりウザイのだ。
「……で?」
「こんな時でもクールなのですぅ!」
「どうして……ボクはここに……いるのら?」
「表面的な体の怪我はエルフが回復してくれたのです」
「ああ……でぃしゃんら」
「この世界で、ロロの中身と魂を癒していますぅ」
なんだか、よく分からないのだ。
「怪我が酷かったのです。だから、緊急処置なのです。エルフの回復魔法だけだと、目覚めてからも痛みや後遺症が残るのです。心も傷付いているのです」
ああ、そんなに酷い怪我だったのか。ブンッて、投げられちゃったもんなぁ。確かに、衝撃的な出来事だったのだ。
「しょう……ありがと」
「ギャンかわ!」
はいはい、それはいいからさ。
「ぴかと……ちろは?」
「わふん」
「キュルン」
直ぐそばにいたのだ。ピカも、チロも情けない顔をしているように見えたのだ。
「ぴか、ちろ……ありがと」
「わふぅ〜」
「キュルン〜」
ピカがお顔をスリスリしてきた。チロもほっぺを舐めている。
怪我をさせちゃった。
回復できなかった。
と、ピカとチロの思いが頭に流れてくる。
「しょんなことないのら……ありがと」
いきなり女神が、カットしたフルーツを目の前に出してきた。なんだ、いきなりなのだ。
「食べるのです!」
「え……なんら?」
「この世界にある桃なのです。傷が癒えるのです! 美味しいですよ〜」
そうなのか? なら、あぁ〜ん。
もしかして、そこの木に生っている桃なのか? 俺が知っている桃より二回りほど大きい。
そういえば……たしか、仙果なんて果物が天界にはあるという。そんなお話があったのだ。
「ひゃぁ〜! ロロに食べさせちゃったのですぅー! あ〜ん、したのですぅー!」
はいはい、ありがとう。うん、甘くてジューシーで美味しい。俺の中では、ププーの実が1番美味しいフルーツだったのだけど、それよりもっと美味しい。
確かに桃なのだろうが、表現できない位に美味しい。びっくりなのだ。
「美味しいでしょう〜? これも特別なのです」
「ん……うまうまら。あぁ〜ん」
その桃を1個分食べさせてくれた。俺の口に入れる度に、女神が煩い。でも、体が動かないから仕方ないのだ。美味しいしね。
「はぁ~……良かったのです。これで、目が覚めたら元気なのです。お詫びなのです」
「ありがと」
「でも、ゆっくり動くのですよ。急に動いたら駄目なのです」
「うん」
しかし、驚いたのだ。まさか、この小川に癒しの効果があるなんて。
俺は、ディさんの顔を見て安心しちゃって、意識を失ったのだな。きっとその後、回復魔法を掛けてくれたのだろう。
また女神の世界に、来るとは思わなかったのだ。女神なりに、心配してくれたのだな。
「わふぅ」
「キュル……」
またそばにいてもいいかな? なんて、ピカとチロが聞いてきた。
「あたりまえら」
ピカもチロも、大事な相棒だ。お友達だ。可愛いのだ。
「これで大きなピンチは乗り越えたのです」
なんだと? だから前に『辛抱だ』とか言っていたのか? 分かっていたのか?
「具体的な事は分からないのです。未来は決まっていないのです。でも、神は手を出せないのです」
ほう、そうなのか。でも教えてくれたら、気をつけたのだ。
「それも駄目なのです。あの母娘が捕まらないと駄目なのです」
ああ、あの母娘な。強烈だったのだ。まさか、母親が関与しているとは思わなかった。優しそうな人だと思ったのにさ。
「ロロ、大変でしたね。ありがとうです」
「うん……」
そして俺は、また眠りについたのだ。
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