63ー許さないよ
(ディさん視点です)
「ロロ!」
「ロロ坊ちゃま!」
ほら、みんな心配して顔色が悪い。レオがロロを抱き寄せる。
「大丈夫だよ、気を失っているだけだ。回復魔法で治したけど、意識が戻るまで時間が掛かると思う。意識が戻ったら念のためポーションを飲ませてあげて」
「ディさん、何とお礼を言ったらいいのか……」
マリーさんが、僕の手を両手で握って頭を下げてきた。ポロポロと涙を流している。
きっと自分を責めていたんだろう。
「マリーさん、君の所為じゃないからね。こんな事をした奴が悪いんだ」
「……有難うございます」
「ロロ! ロロ!」
リアが名前を呼びながら、ロロにしがみ付いている。
「リア、静かにロロを寝かせてあげて」
「ディさん、だって……ロロが!」
「大丈夫だよ」
少し離れた場所で、静かにニコが涙を流していた。唇を噛み締め、両手が白くなる程ギュッと握り締めて。そんなに強く握ったら爪で傷めてしまうよ。
ニコのイメージだと、一番に飛びついて来そうなものを。
「ニコ、おいで」
それでも動かないニコに近寄り、そっと抱きしめる。
「ディさん……ありがとう……うぅ」
ニコの髪を撫でる。ああ、ずっと我慢していたんだろう。
「大丈夫だ。もう助かったんだよ」
「うん……助かった。良かった……ロロまでいなくなったらと思うと……ヒック」
そうだった。この子達は1年前に両親を亡くしているんだ。
その時の事を思い出したのだな。また大切な人を、亡くすかも知れないと恐怖だったのだろう。
「大丈夫だよ。目が覚めるまで時間は掛かるかも知れないけど、回復魔法で癒したからもう大丈夫だ」
僕は何度でも言おう。大丈夫だと。もう心配いらないと。
こんな良い子達が、どうしてこんなに辛い思いをするんだ。
「ピカ、教えてくれるかな?」
「わふ」
ピカに額をくっ付ける。エルフが使える念話というスキルだ。
本当はテイムしている魔獣や、エルフ同士で使うものなんだけど、ピカは神獣だからテイムしていなくても念話が使えるだろう。
思った通りだった。そうか、奴等なのか。僕は久しぶりに強い怒りを覚えた。
ピカは的確に奴等の居場所を教えてくれた。僕の頭に、一部始終をイメージで送ってきた。そして、奴等が今もバインドでそこに転がっているとも。
「ピカ、有難う。後は僕に任せてよ」
「わふッ」
お願い。と、ピカが言った。
よくロロを追いかけてくれた。よく逃げ出してくれたよ。
ワシワシとピカを撫でる。素晴らしい毛並みだ。まあ、奴等の狙いはピカだったんだけどね。
しつこい奴等だ。性懲りも無く、強硬手段に出たのか。
「わふぅ」
「ピカの所為じゃないよ。こんな事をする奴等が悪いんだ」
「わふ」
「ロロを守ってくれて有難う」
「クゥ~ン」
ちゃんと守れなかった。酷い怪我をさせてしまった。
ピカも悔やんでいる。尻尾まで元気がない。そんな事ないよ。ロロを盾にされたら手を出せないじゃないか。
「じゃあ、ピカ。後は頼んだよ」
「わふッ」
さて、僕は奴等を懲らしめに行こう。
「ディさん」
「レオ、どうした?」
「僕も一緒に連れてってください」
「レオ……」
目に憎しみを滲ませながらレオが言ってきた。
レオにこんな顔をさせるなんて。レオだってまだ子供なのに。
「ロロをあんな目に遭わせた奴等を許せない」
「レオ、後は僕に任せてほしい」
「ディさん、でも……」
「後は大人の仕事だよ。ロロを危険な目に遭わせてすまなかった」
「そんな、ディさんが謝ることじゃないです」
「いや、以前ピカを狙ってきた時に、もっと懲らしめておくべきだったんだ」
「ディさん、ピカを狙ったって事は……そんな! こんな酷い事をするなんて!」
「僕にも挽回するチャンスをくれないかな? 今度こそ、許さないよ」
「……ディさん、お願いします」
「ああ、任せて」
僕は微笑んで、レオの肩をポンポンと叩く。
そして、僕はもう1度転移した。ピカが教えてくれた邸宅を目指して。
木立に囲まれた、湖の畔に小さな邸宅が建っている。この一帯を治める領主の別邸だ。そこに、奴等はいる。
「さて、どうしてやろうかな」
僕は考えながら邸宅に向かった。
舐めるんじゃないよ。貴族だか領主だか知らないけど。今度は許さない。
邸宅の中へと入って行く。正面玄関には鍵が掛かっていなかった。
誰もいないのか? 奥から1人の侍女が出て来た。
「どちら様でしょうか? お約束はされていますか?」
「君は侍女かな?」
「はい、あなたはどちら様ですか?」
「ボクはディディエ・サルトゥルスルというんだ。悪いけど君、邪魔だから眠っていてくれるかな」
「え……?」
僕は侍女にスリープの魔法を掛けた。全く何も知らないで、この場所にいる訳じゃないだろうに。
こんな事をして、何も思わないのかな? そんなに貴族は偉いのか? これは歴とした犯罪だ。
エルフの国には貴族制度がない。人間の国の様な階級制度がないんだ。あるのは、ハイエルフかそうじゃないかだけだ。それも差別なんかじゃない。能力自体が違うんだ。
それに、エルフはロロの様なちびっ子をとても大切にする。種族全体で育てるんだ。
そんな国で育った僕には、到底理解できない。
「本当に、何て事をしてくれたんだ」
僕は邸宅の中を裏口に向かって進んだ。
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