62ー舐めてたね
4人をバインドしてからピカの行動は早かった。
「わふッ」
「キュルン」
「ぴか……ちろ……」
ピカが俺を背中に乗せた。どうやって乗せたのかは分からない。とにかくフワリと宙に浮いて、そっとピカの背中に乗せられたのだ。
そして、ピカの魔法なのだろう。俺が落ちない様に、見えない何かで固定されたのだ。え? これって俺もバインドなの?
「わふぅ」
だって落ちたら痛いよ? なんてピカは言うのだ。確かに、落ちるのは嫌だ。仕方がない。
それからピカは走った。階段を上がり、邸のドアをブチ破り、湖の畔を走り抜け木立の中に入って行ったのだ。
俺は助かったらしい。ここからどうやって、街まで帰るのかは分からないけど。ピカに任せておけば大丈夫なのだ。
「キュルン」
「ちろ……ありがと」
もう体を動かせない俺を、チロが一生懸命癒そうとしてくれている。
でも、まだ赤ちゃんなのだ。回復が追いつかない。それでも出血は止まってきた。
ああ、ポーションを飲めたら直ぐに回復できるのになぁ、て思っていたのだ。
その時だ。ヒュ〜ッと風が吹き目の前に広がる木立の空間がグニャリと歪んだ。これは前にも見た事があるぞ。
「ロロ!」
「あ……」
どうやって来たのか? どうして俺の居場所が分かったのか? そんな事、全然考えられなかったのだけど。
何故か、ディさんが目の前に現れたのだ。
「でぃしゃん……」
それから俺は意識を手放したのだ。
お昼寝していなかったし。投げられたり叩かれたりしたし。
身体も痛くて……ちょっと疲れたのだ……ディさんを見たら安心したのだ。
ああ、良かったのだ。
◇◇◇
(レオ視点です)
僕は『うまいルルンデ』から、ギルドに戻った。
姉上とマリーを取り敢えず家に帰した。姉上やマリーは冷静じゃいられない。
本当は僕だって冷静じゃない。でも、2人よりはマシだ。
それに、もうニコが戻っている頃だ。家に誰もいなかったら、ニコも心配するだろう。ロロの話をしたら、余計に心配してしまうだろうけど。
「レオ! ギルマスに聞いたよ!」
「あ、ディさん」
滅多にギルドにいない人が、目の前に現れたんだ。
エルフのディさんこと、ディディエ・サルトゥルスルさんだ。
滅多にいない人なのに、ピカが狙われた時といい今回といい。きっと気にかけてくれているのだろう。
街でロロの噂を聞いて、ギルマスなら何か知っているだろうと駆け付けてくれたらしい。有難い事だ。
「じゃあ、僕はロロを助けに行ってくるよ」
ちょっと畑に野菜を採りに行って来るね。みたいな感じで、ディさんがサラッと言った。然も当たり前の様にだ。
「え!? ディさん、待って。どういう事ですか?」
「レオ、覚えてないかな? 僕が以前、ロロにアミュレットをあげただろう?」
「あ……」
「あれでロロの居場所が分かるんだよ」
そうだった。ディさんが初めてうちに来た時だ。お守りだと言ってロロの首に掛けていた。
「ディさん! お願いします! ロロを助けてください!」
「任せてよ。レオは安心して、家でロロを待っていてあげて」
「はい!」
ああ、なんて巡り合わせなんだろう。こんなに頼もしい事はないぞ。
ピカが一緒にいるだけでも、大丈夫だろうとは思っていたけど。ディさんがロロを助けに行ってくれるという。しかも、ディさんには居場所が分かるんだ。
もう安心だ。ロロ、無事でいてくれよ。
早く帰ってみんなを安心させてあげよう。きっとみんな心配している。
そして、ディさんが言った通り家に帰って待っていたんだ。
◇◇◇
(ディさん視点です)
「でぃしゃん……」
一言そう言ったまま、ロロは意識を失ってしまった。
なんて酷い怪我なんだ。ピカの背中で、グッタリとしている。確か、ロロはポーションを持ち歩いていた筈なのに。飲む余裕もなかったのか?
「ピカ、魔法でロロが落ちないようにしていたのか?」
「わふん」
「ああ、チロは癒そうとしていたんだね」
「キュルン」
ほう、流石に神獣だ。きっとピカの力で、逃げ出して来たのだろう。
チロはまだ赤ちゃんだから、全部癒す程の力はないのか?
こんな小さな子に、何て酷い事をするんだ。怒りが込み上げてくる。
ああ、可哀想に……痛かっただろうに……片腕が動かなかったのか。きっと骨折しているな。肋骨はどうだろう? ロロのプックリとした頬が赤黒く腫れている。口の中を切ったのか? 血の流れた跡がある。
酷い事をする。僕は絶対に許さないぞ。このまま放ってはおけない。
そんな事を考えながら、僕は回復魔法を使った。回復魔法で傷を治せても、体が本当に回復するのは時間が掛かるだろう。
「それにしても酷い……ハイヒール」
ロロの体を光が包み込み消えていく。これで、大きな怪我は治った筈だ。
回復魔法を使った事で、ロロの頬の腫れも引いている。あの酷い状態のロロを、レオ達に見せる訳にはいかない。
そして、クリーンもだ。ロロの血がついた服を見たら心配するだろう。
意識が戻ったら念のため、ポーションを飲むように言っておこう。
僕は、ロロをそっと抱き上げる。チロが慌ててロロのポーチに入って行った。
「ピカ、戻るよ」
「わふん」
「僕に掴まれる?」
「わふ」
ピカが僕にピタッとくっつき前足でしがみ付いてきた。
「アハハハ、可愛いなぁ」
「わふ」
僕は、レオ達が待つ家へと転移したんだ。
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