52ーロロの知らない事 1
フィーネとマティ、意外に気が合った。貴族なのに、偉ぶった態度を取らない。僕達と対等に接してくれる。きっと、それが心地よかったんだ。
ポーションを提供した一件から、僕達はパーティーを組んでいたんだ。フィーネ達が長期休暇を終え、学園に戻るまでの期間限定のパーティーだ。
今日もフィーネとマティ、リア姉と一緒にダンジョンへ潜っていた。その帰り道、突然言われたんだ。
普通に『今日も頑張ったねー』と、話すような感じで。
「リア、レオ。あなた達、貴族よね?」
「え……?」
「私、リアの事覚えていたのよ。最初はどっかでみたわね……て、程度だったんだけど。一緒にいる内に思い出したの。リアは学園で、令嬢なのにやたら剣が強いと噂になっていたから覚えているわ。武官家系としては気になったのよ」
と、フィーネに言われたんだ。
学園の授業で、令嬢が剣を使う事なんてないはずだ。どうしてそんな噂がたっていたんだよ。リア姉、一体何をしたんだ?
リア姉が目を合わさない。目が泳いでいるぞ。これは何かやらかしてるな。
僕達の事は、隠していた訳じゃない。いや、隠していたのか。敢えて、フィーネ達に話そうとしなかった。
利用したくなかったから……いや、違うな。他の生徒達の様に、見下した冷たい目で見られるのが怖かったのかも知れない。
「姉上……話してもいいですか?」
「レオに任せるわよ」
僕達の境遇について全部話をした。両親が亡くなった事。叔父に突然追い出された事。学園を退学した事。
そして……
「貴族簿ってあるだろう? あれを閲覧したかったんだけど、僕達にはできなかったんだ」
「レオ、貴族簿は成人した貴族しか閲覧できないのよ」
「え? そうなの?」
「そうよ、知らないの?」
僕達はそんな事さえ知らなかったんだ。
僕達の境遇を全部話しても、フィーネとマティの態度は変わらなかった。それどころか、一緒になって考えてくれたんだ。
「その叔父って人、胡散臭いわよね」
「姉上、この国の貴族の継承順位からいうと、先ずはレオですよ。次にリアだ。リアが訴えた様に、レオが成人するまでの間、リアが継承できる。その次が叔父になる筈ですよ」
「え!? どういう事なの?」
「リア、その叔父って人だけど、継承の手続きをする時に何か誤魔化している可能性が高いという事だよ。実子のリアやレオがいるのに、2人を差し置いて叔父が継ぐなんて不自然すぎる」
「そんな……」
「クソッ! 僕達はどれだけ甘かったんだ!」
悔しかった。マティでさえ、当然のように知っている事を僕達は知らなかったんだ。
フィーネはリア姉の1歳上、マティは僕の1歳上。それだけでは、理由にならない。
僕達は、何も知らない嬢ちゃんと坊ちゃんだったんだ。情けなかった。
「レオ、貴族の継承等については、学園に通っていたらきっと今頃学習する事だ。そう、落ち込むなよ」
貴族の継承については、僕達が学園にそのまま通っていたら教わっていただろう事らしい。
それにしても、これであの叔父が怪しい事が確定した。
「姉上……」
「レオ、怪しいと分かっても今の私達には何もできないわ」
「そうだね、僕達はもう貴族じゃないから」
「待って、レオ」
マティがまた何か引っ掛かったらしい。
「レオ達はもう貴族じゃないのか?」
「おかしいわね」
「継承していないだけで、貴族である事には変わりない筈だよ」
マティの話だと、爵位を剥奪されるか家名の断絶。若しくは親から絶縁される……そうでない限りは勝手に貴族籍から抜く事も抜ける事もできないらしい。
「レオ達のご両親は亡くなっている訳だから、継承しなくても貴族籍はそのままだ。その叔父が勝手にレオ達の貴族籍を抹消する事はできない筈だ」
あの叔父が、家に乗り込んできた時に言われた。
この家は自分が継ぐ。だからお前達はもう出て行け。と、言われたんだ。
それで、もう自分達は貴族じゃなくなるんだと思い込んでしまった。
胡散臭い叔父だと思っていたのに、どうしてそんなにアッサリと思い込んでしまったのか。それだけ、僕達の両親は良心的で常識のある人達だったんだ。僕達は両親に守られていたんだ。
「でも、もう家を出てしまった」
「レオが言う様に貴族簿ね。どうにかして閲覧できないかしら」
「姉上、兄上に相談してみましょう」
「そうね、父上より兄上の方が良いわ」
なぜなら、フィーネ達の父親はとっても脳筋らしい。令嬢にしては、脳筋気味のフィーネでもそう思うのだそうだ。
「いや、でも……フィーネとマティに迷惑を掛けるのは……」
「どうしてだよ。どこが迷惑なんだ?」
「そうよ、マティの言う通りだわ。迷惑なんて思って欲しくないわ」
ああ、涙が出そうだ。家を追い出されてから貴族には冷たい仕打ちしかされなかった。リア姉の婚約者だってそうだった。
なのに、この姉弟は僕達の力になってくれようとしている。
迷惑なんかじゃないと言ってくれる。
「レオ、お願いしましょうよ」
「姉上、そうですね。フィーネ、マティ、頼んでもいいかな?」
「もちろんよ!」
「そうだよ。僕達はもう友達じゃないか」
『友達』そんな甘い言葉、忘れてしまっていた。僕達にはもう関係のないものだと思っていた。
ロロが持っていたポーションが縁で知り合いになり、冒険者として一緒にパーティーを組む事になった。これは、ロロが繋いでくれた縁なんだ。
ああ、まだ貴族も捨てたもんじゃないんだ。
一筋の光が見えた気がした。
お読みいただき有難うございます。
今日はレオ視点のお話でした。ロロが知らないところで、姉兄は動いていたのですね。
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