479ー魔力量がね
「れおにい、もうしゅこしらけまってほしいのら」
「ロロ、なんだい?」
「まら、みんなとあえなくなるのは、しゃびしいのら」
「ロロ……そんなことを考えなくていいんだよ。ロロが悲しむことはしないから」
「ちがうのら。しょうじゃないのら」
悲しいのじゃない。将来のことを思うとそうする方が良いと分かっている。だから、そうじゃない。ただ、ちびっ子の俺にはもう少しだけ時間が必要なのだ。いかん、泣いたら駄目だ。余計に心配を掛けてしまう。
「ろろ、たべような」
「うん、える」
「ロロ坊ちゃん、ゆっくりとでいいんですよ。急いで決めることではありませんから、まだまだ時間はあります」
ウォルターさんがそう言ってくれた。そっか、ゆっくりで良いのか。
「私も一緒にルルンデに参ります。行ったら色々教えてください」
そう言って、ニッコリとした。ウォルターさんも優しい。俺たちのことを真剣に思ってくれているのが伝わってくる。だって老骨に鞭打って、こんな遠い隣国にまで走ってくれたのだから。
俺たちはディさんの転移で辺境伯領までやって来た。そこからだって遠かったのだ。かなり無理をしたのだろう。その所為で身体を壊したのに。
だからルルンデでは、のんびりしてほしいな。
「どるふじいと、しぇるまばあしゃんを、しょうかいしゅるのら」
「はい、お願いしますね」
うん、大丈夫だ。俺の涙腺も頑張って耐えてくれた。本当に弱々で困る。
「エル! ロロ! 食べてるか!?」
大きな声のお祖父様がやって来た。手には骨付きの大きなお肉を持っている。豪快だな。
「おおじいじ、おぎょうぎわるいって、おおばあばにいわれるじょ」
「エル、それを言うでないぞ!」
アハハハ、ちびっ子のエルに注意されてる。
「ロロは魔鳥の丸焼きなんて初めてじゃないか?」
「はじめてなのら、うまうまら」
「そうかそうか! たくさん食べなさい!」
ワッハッハッハと笑いながらまた戻って行った。
「おおじいじは、おとななのに、おちちゅきがないんら」
「えー、しょう?」
「おー、しょうらじょ。いちゅもあんなら」
ふふふ、エルったら時々大人みたいなことを言う。エルも大人に囲まれてるからだろう。
皮がパリパリで中はとってもジューシーに焼き上げられた魔鳥の丸焼きに、じっくり煮込まれたスープ、それにサラダだ。サラダを見るとディさんを思い出す。きっと特盛サラダを嬉しそうに食べているだろうな。
デザートも出てきた。この領地ではとってもメジャーらしいナッツがたくさん入ったパウンドケーキ。
色んな種類のナッツが入っていて、甘さ控えめだけどとっても美味しい。表面に薄く塗ってある蜂蜜がこんがりと良い焼き色になっていて、表面は香ばしいのに中はとってもしっとりとふんわりしている。
「エル、ロロ、たくさん食べたか?」
エルのお父さんのフィンさんだ。テオさんのお兄さんでもある。家族が多いと覚えるのが大変だ。
「とうしゃま、おなかいっぱいらじょ」
「うまうまらったのら」
「そうか、それは良かった」
「ロロ、このケーキも美味しいだろう?」
「ておしゃん、ボクこのなっちゅけーきしゅき。とってもおいしいのら」
「な、ぼくもこれしゅきなんら」
「お前たちが冒険に行った林があるだろう? あそこでたくさん採れるんだ。この領地ではナッツが豊富に採れる。だから昔から食べられているケーキだ」
おっと、忘れてくれないらしい。俺とエルの冒険、とっても刺激的だった。怖い思いもしたけど、もう良い思い出になっている。
フィンさんの足元に、プチゴーレムがいた。エルに作った子たちだ。あれれ? フィンさんに懐いちゃったのかな?
「何故だか私の足元によくくるんだ。エルもちゃんと世話しているよ」
「うん、してるじょ」
エルに作ったプチゴーレムの、オーちゃんとドランちゃん。もうすっかり馴染んで、イッチーたちと一緒に毎日走り回っている。
この子たちも魔力をもらわないと、動けなくなってしまう。それでエルは毎日、魔力操作を頑張って練習している。
あんなに嫌がっていて、クリスティー先生の魔法講座も抜け出して叱られるくらいだった。なのに毎日朝と夜に、ポカポカぐるぐると頑張っている。エルはとっても良い子だと思う。努力もできるし、責任感もちゃんとある。
だけど当のオーちゃんとドランちゃんは、どうやらフィンさんに魔力をもらっているらしい。これはレオ兄の見立てだ。
「エルからまったく貰ってないわけじゃないよ。でもまだエルの魔力量だと足らないんじゃないかな? フィンさんの方が多いからね。それにエルと魔力の質がよく似ているんだ」
ほうほう、そんなことを言われてもエルと俺は、なんですか~? 状態なのだけど。
「いまは、とうしゃまのまりょくって、ことらな」
「そうだよ。もう少しエルが大きくなったら魔力量も増えるだろうから、エルだけでも大丈夫だと思うよ」
「わかったじょ」
「それで私のそばによくいるのか」
フィンさんが外に出ると、いつもピューッとやってきて足下をグルグル走り回るらしい。それで可愛いから、フィンさんも休憩の度に外に出るようになったそうだ。
「とうしゃま、ぼくがおっきくなるまれらじょ」
「ああ、それまで練習するんだぞ」
「おー」
大丈夫だ。エルなら俺がルルンデに帰っても、ちゃんと魔力操作の練習は続けてくれるだろう。




