460ーサシェができた
エルはまず生活魔法の習得からだね。これから毎日、ポカポカぐるぐるを頑張るそうだし。て本当かな? とエルを見る。
「ろろ、なんら?」
「える、ぼくといっしょに、ポカポカぐるぐるしゅる?」
「しょうらな! いっしょにしゅるじょ!」
よし、それなら大丈夫だ。俺が見張っておこう。
「あらあら。ふふふふ」
お祖母様が俺たちを見て微笑んでいる。家族が多いって良いと思う。誰かが必ず見ていてくれるって、ちびっ子の俺たちにとっては安心なのだ。
サシェの中に入れる花弁も乾燥させて、あとは詰めるだけ。
「ロロ、そっと入れないと粉々になっちゃうのよ」
「こなごなに?」
「そうよ、乾燥させているからちょっと握るだけで粉々になっちゃうのよ」
「ええー」
それは難しそうだ。乾燥させた物をまとめてお邸の中に持って行く。これからサシェを完成させよう。
「ろろ、もうできるのか?」
「うん、あとしゅこしら」
「しょっか。たのしみら」
ふふふ、エルと一緒に手を繋いで歩く。トコトコと。二人ともまだ3歳だから歩調が一緒なんだ。きっと周りが見ると危なっかしく見えるのだろうな。
そんな俺たちの後ろにはマリーだ。ずっとニコニコしている。そんなに可笑しいのかな?
「まりー、おかしい?」
「あらあら、違いますよ。お二人が可愛らしいのです」
えー、そうなの? 二人共まだ幼児体形で、ぽよんぽよんしているけどね。
「ろろ、はしるじょ!」
「うん、える!」
テッテケテーと手を繋いで走る。本人たちはとっても速く走っているつもりだ。
「エル! ロロ! 転んじゃうわよ!」
「おおばあば! らいじょぶら!」
二人でお邸まで走って行った。いつもはピカに乗って畑の中を走っている。俺たちの家の周りは畑が多いから、ちびっ子は歩き難い。ましてや走るとなると、とっても走り難い。だから、こうして広いお庭を走ると気持ちいい。
突然エルが聞いてきた。
「ろろは、もうしゅぐかえるのか?」
二人でお祖母様たちより先にお邸に到着した時に、俺の目を見て聞いてきたのだ。
「うん、らってボクのおうちは、るるんでらから」
「しょっか」
ちょっぴり寂しそうに見えるのは気のせいじゃないよね?
「える、いちゅれもくるのら」
「ほんとか?」
「うん、やくしょくなのら」
「おー! ふたりのやくしょくな!」
「うん!」
「しんゆうらからな!」
「うん、しんゆうなのら!」
パチンとお手々を合わせてハイタッチだ。
俺もエルと仲良くなって、楽しかった。親友だと言ってくれたエル。一緒に冒険もしちゃった。名残惜しい気持ちはあるけど、俺の家はルルンデのあの家だ。
ドルフ爺とセルマ婆さん、それにディさんが待っていてくれる。
「まってるな。ろろがちゅぎにくるまれに、ポカポカぐるぐるしておくじょ」
「うん!」
ふふふ、エルったら本当に良い子だ。
それからお祖母様と一緒にサシェを仕上げて、みんなに渡した。
リア姉にはおリボンの形のサシェを、レオ兄は普通が良いと言っていたから丸い袋のものを。ニコ兄はトマトが良いと言っていたからトマトの形をしたサシェを。ちゃんと緑色でヘタもつけた。
お祖母様、伯母様、ティーナさんとロッテ姉、それにマリーたちにはお花の形のものを。お祖父様と伯父様、フィンさんとテオさんには剣の形をしたものを。
ウォルターさんにはチロの形をしたもの、エルと俺はピカのお顔の形をしたものだ。頑張って作った。
「ロロは器用だな」
「ありがとう、大切にするよ」
フィンさんとテオさんがそう言ってくれた。お祖母様たちも喜んでくれた。
「あらあら、私も良いのですか?」
なんて言っていたのはマリーだ。エルザとユーリアも喜んでくれた。
「ぴから! だいじにしゅるじょ!」
エルは最初からピカの形が良いと言っていたからね。
「おしょろいなのら」
「おー! おしょろいらな!」
そして、この人だ。
「えぇーん! ロロったらなんてお上手なのかしら! 嬉しいわー!」
褒めてくれるのは嬉しいのだけど、何も泣かなくても良いのに。本当によく泣くロッテ姉だ。
泣いているロッテ姉の背中をそっと撫でていたレオ兄を俺は見逃さなかった。やっぱ仲良しだ。
「ロロ、いつでも頼ってほしい」
「そうだよ、いつでもおいで」
「ええ、待っているわ」
お祖父様と伯父様、それにお祖母様がそう言ってくれた。
俺たちには頼る肉親はいないと思っていた。俺たちだけで頑張らなきゃって。
それがとっても心強い人たちがいた。それだけでも嬉しいのに、俺たちを可愛がってくれる。
きっとそれはリア姉やレオ兄にとって、この先必要なことなのだと思う。
「お祖父様、ディさんに連絡を取りたいのです」
「ああ、そうだな。ギルドに文を預けておこう」
この領地にあるギルドから辺境伯領のギルドへ文を出してもらう。ギルドには転送装置がある。それを使ってもらう。そして辺境伯家にいるクリスティー先生からディさんに連絡がいく。それが一番早いそうだ。
ディさんに迎えに来てもらって、転移でルルンデに帰る。
「この先のこともちゃんと話しておこう」
夕食の時にお祖父様がそう言って、リア姉とレオ兄が談話室でお話をしていた。窓から見えるお空はもう夕焼けから夜の色に変わる頃だった。




