456ールルンデに帰ります
マリーの息子さん夫婦は映っていないのだけど、それでも時々声が入っていたりする。
この魔道具を持っているのがマリーの息子さんだと分かっている。エルザやユーリアの父親だ。きっとそのそばには母親もいたことだろう。それが分かっているから、同じ空気を感じたくてみんな見る。
「ああ……みんな幸せそうだわ」
お祖母様がずっと涙を流している。涙で見えないのではないか? と心配になるくらいだ。
「お祖母様、今も僕たちは幸せですよ」
「ええ、幸せです」
「おう」
「うぅ、ヒック。たのしいのら」
両親はいないけど、その手の温もりを覚えていないけど。でも確かに俺は愛されていた。両親だけじゃなく、兄弟にもだ。疑いもせずそう思える。
マリーたちもいるし、今はドルフ爺やセルマ婆さん、ディさんだっている。だから俺は幸せだ。毎日楽しく暮らしている。
会いたくても会えない。それでも確かに残してくれたものがある。
父に似たリア姉、母似のレオ兄、母と一緒にお花を育てていただろうニコ兄、母さまお手製の俺のお気に入りのお出かけ用ポシェット。温かいポカポカしたものが、俺たち四兄弟の中に確実にそれはあるのだ。
「お祖父様、お祖母様、私たちは大丈夫です」
「リア……」
リア姉が真っ直ぐにそう言った時、お祖父様とお祖母様は少し寂しそうに見えた。
「大丈夫です。ですから……僕たちはルルンデの家に帰ります」
「おう、ドルフ爺も待ってるしな」
「しぇるまばあしゃんもいるのら」
「レオ、ニコ、ロロ」
「そうだな、私たちの気持ちで四人を縛り付けてはいけないな」
「あなた」
お祖父様がお祖母様を優しい目で見つめて言った。
「それになにより、ディさんもおられる。マリーだっている。だから大丈夫だ」
「そうだけど……」
そうだよ、俺たちは大丈夫だ。あのお邸を追い出された時から、ずっとマリーと俺たちだけでやってきたのだから。
「らいじょぶなのら、またくるのら」
「ロロったら」
「お祖母様、大丈夫だぞ。リアたちはちゃんと生活している」
「テオ……もう仕方ないわね」
お祖父様たちは、俺たちをルルンデに帰すつもりがなかったのかも知れない。それだけ心配してくれている。
レオ兄とリア姉に教育をとも思ってくれたのだろう。それは必要なことだろうし、有り難いことだ。
だけど、今じゃないと二人は判断した。きっと領主様に頼んでいることが、はっきりしてからと思っている。
先が見えなかった頃とは違う。すぐそこに光が見えるようになった。それはとても大きい。
「でも約束してちょうだい。必ず私たちを頼ってほしいの。何かあればギルドを通して連絡をしてくれると良いわ。ギルドは国を越えて連絡網があるから」
「ああ、何もなくてもたまには文をよこしてほしい」
俺たちがルルンデのあの家に帰ることが、明確になった時だった。
「え、え、ええぇ~ん!」
ああ、ロッテ姉だ。どうもロッテ姉ってあの女神と被ってしまう。なんというか、ちょっぴり残念なところがね。俺より泣き虫なのだもの。
「なんだよ、ロッテ。もうお前は泣くなよ」
「だってぇ、テオ兄さまぁ。えぇ~ん!」
ふふふ、ロッテ姉は可愛い。自分のことのように俺たちのことを考えてくれている。
「ロッテ、また必ず会いにくるよ。だから、待ってて」
「レオー! 待ってるわよぉー! えぇ~ん!」
おや? おやおやぁ〜? 『待ってて』なんてレオ兄が言った。必ず会いにくるって。ロッテ姉を見ている優しい目に、俺たちとは違う感情が混じっているような気がした。
ふふふん、俺が思ったことはなかなか鋭いと思うよ。
「むふふ」
「ろろ、なんら? ないてたのに」
「える。なんれもないのら」
ちょっぴり生温かい目でレオ兄とロッテ姉を見ておこう。ニマニマしながらになっちゃうけど。
「ロロ、なにを考えてるのかな?」
「れおにいと、ろってねえはなかよし」
「ロロったらぁ! 私はみんなと仲良しよー!」
さっき泣いていたお顔が、真っ赤に染まる。アタフタしながら両手でお顔を覆ってしまった。
俺は賛成だよ。ロッテ姉はちょびっとだけ残念感があるけど、良い子だし好きだもの。
「むふふふ」
「ロロったら、変なお顔になってるわよ」
リア姉は、酷い言いようだ。まあ、リア姉もユーリさんと仲良しだからいいじゃない。
「りあねえは、ゆーりしゃんとなかよし」
「ロロ! またそんなこと言って!」
リア姉のお顔も赤くなっちゃった。お顔から湯気が出そうだ。
「ロロ、駄目だぞ。そこはそっとしとかないと」
「にこにい、しょう?」
「ああ、そうだぞ」
ニコ兄ったら大人じゃないか。でもニコ兄も同じことを思っていたということだよね?
「ロロ、だから気付かないふりが必要な時もあるんだ」
「ひょぉー。にこにい、おとななのら」
「当たり前だ。俺はもうすぐ10歳だからな」
「ふふふふ、二人とも何を言ってるのよ」
涙を流していたお祖母様が笑ってくれた。俺たちのことで泣いてほしくない。お祖母様も大好きだから。
「おばあしゃま、らいしゅきなのら」
「ロロ……」
「らから、またくるのら」
「ええ、待ってるわ。私もロロが大好きよ」
お祖母様と俺の間には、リア姉とレオ兄とニコ兄が座っていたのに、飛び越えてやって来て俺は抱っこされた。お祖母様にギュッて抱きしめられた。
頬をそっと合わせたお祖母様。
「ロロ、大好きで大切なの。無茶はしないでちょうだいね」
「わかったのら」
俺もお祖母様の首に両手を回して抱きついた。




