445ー小さな手
クリスティー先生に叱られたって言っていたもの。
「える、ぽかぽかぐるぐるしゅるのら」
「なんらしょれ?」
「アハハハ。ロロは毎日してるからね」
「しょうしょう」
「え、ぼくもしゅるじょ」
プチゴーレムも作ったことだし、ここでディさんのプチ魔法講座だ。
「お腹の中にある温かいものをね、身体の中で大きくして巡らせるんだ」
「あー、くりしゅてぃーしぇんしぇいがいってた」
「そうだろう? それをロロは毎日練習してるんだよ」
「しょっか。じゃあぼくもがんばるじょ」
「うん、がんばるのら」
エルと小さなお手々をパチンと合わせる。
「二人は良いお友達だね」
「しょうらじょ。らから、ろろがれきるなら、ぼくもがんばるじょ」
「エルは偉いね!」
「えへへ~」
ふふふ、クリスティー先生が聞いたらきっと喜ぶよ。
プチゴーレムを日陰に並べて乾くのを待つ。すぐには乾かない。ちゃんと中まで乾かしたいから、何日か掛かってしまう。
多分明後日くらいには、乾いていると思うよ。
イッチーたちもそうだったけど、乾いて動けるようになったら自分で動き出すだろうからそれまで待とう。
俺たちが裏庭にいると、レオ兄がやってきた。もうリア姉の打ち合いは良いのかな?
「ディさん、もしかしてロロが作ったのですか?」
「うん、エルにプチゴーレムを作っていたんだ」
「良いのですか?」
「エルなら良いんじゃないかな?」
そうそう、エルならずっと仲良くしてくれるよ。ね~、とエルと目配せをする。
「れおにい、じゅっとなかよくしゅるじょ」
「そっか、エルなら大丈夫かな」
「ふふふ、ロロのお友達だからね」
「しょうらじょ、ろろとはしんゆうらじょ」
エルと二人して手を腰にやって胸を張る。オヤツを食べたところだから、ちょっぴりお腹の方が出ているのは許してほしい。二人共まだまだむっちむちの幼児体形だから。
「プチゴーレムが目覚めたら、エルがお名前をつけてあげるんだよ」
「おなまえかー!?」
ワクワクするだろう? 俺はお名前を考えるのは苦手だけど。
「かんがえとく!」
エルは目がキラキラして嬉しそうだ。
その日、ディさんは夕ご飯も一緒に食べた。俺はディさんの隣に座って一緒に楽しく食べたのだ。だけど、ディさんはルルンデに帰らないといけない。
「ディさん、態々すみませんでした」
「いいの、いいの。レオたちの顔が見られて良かったよ」
ドルフ爺も毎日、どうしているかな~なんて話しているよとディさんが言っていた。
こんなに長い間、ドルフ爺たちと会わないのは初めてだ。俺もどうしてるかな〜て思っていた。
食事を終えて、談話室でみんなとデザートを食べていた時に、もうすっかり元気になったウォルターさんが言った。
「リア嬢ちゃま、レオ坊ちゃま、私も皆様と一緒にルルンデに住んでもかまいませんか?」
「ウォルター、でも私たちは雇えないわよ」
「リア嬢ちゃま、そんなことは良いのです。マリーと一緒に皆様のお世話をさせていただきたいのです」
ちょっと真剣な空気だから、俺は黙ってジュースを飲んでた。ゴクリってね。
「ろろ、りんごじゅーしゅおいしいな」
「うん、ごくごくのんじゃうのら」
「あらあら、一気に飲んだら駄目ですよ」
「わかってる。ゆっくりらろ?」
「はい、そうですよ」
あれ? みんな俺たちを見ているぞ。エルと俺のことは気にしないで、話を進めてほしい。ゴクリと。
「まりー、もうないのら」
「ロロ坊ちゃまは、ゴクゴク飲むからですよ」
「けろ、まりー。もうしゅこし、のみたいのら」
「あらあら、少しだけですよ」
「まりー、ぼくも」
おやおや? だから、俺たちに注目しなくてもいいのに。
「お世話をしながら、私が持っている知識をご兄弟にお伝えしたいのです。それにレオ坊ちゃまは領地経営のことも勉強していただきたいですしね」
領地経営だって。俺たちは追い出されちゃったのに?
「そうね、リア、レオ。それが良いと私も思うわ」
「ああ、このままにはしておかん! ディさん、そうですな!」
「そうですね。近い将来はと僕は思いますよ」
お祖母様とお祖父様は、あの領地を取り戻すつもりでいる。もちろん、ディさんもだ。きっと、みんなそうなるように動いてくれているのだろう。
なら、いつかあのお邸に帰るのかな? じゃあ、ディさんやドルフ爺とは離れ離れになっちゃうのかな?
「うぇ……」
いかん、泣いたら駄目だ。それは良いことなのだ。それに今すぐじゃない。ここで泣いたりなんかしたら、みんなに心配をかけてしまう。
「ロロ、大丈夫だよ。ロロが嫌なことはしないから」
「えっちょ……ちがうのら。しょれがいいとおもうのら。けろ……ひっく」
「なんら? ろろ、ろうした? なくなよ」
「らいじょぶ、なかないのら」
「おー、ぼくがいるらろ? しんゆうら」
エルが小さな手を、俺の手にそっと重ねる。温かいぷくぷくの手だ。
それがとっても心強く感じた。こんなに小さいのに、俺を心配してくれている。励まそうとしてくれる。
だから泣いたら駄目だ。
「える、ありがと」
「あたりまえらろ」
そんな俺とエルをみんなが温かい目で見ていた。




