440ー3巻発売記念SS エルザ
※突然ですが、もう一つ書いてあったものを投稿します。
これもお墓参りに行く頃のお話です。
「なんだ、墓参りか?」
近々長い休みが欲しいと『うまいルルンデ』のご主人オスカーさんに相談した。
ここで働かせてもらって、とっても助かっている。だから辞めたくないの。お休みをもらえると嬉しいのだけど。
ルルンデの街にやってきて、ちょうど1年。やっと両親のお墓参りに行けるだけの余裕ができた。金銭面じゃなくて、坊ちゃまたちの気持ちの余裕だ。
私たちだってそう。お祖母ちゃんや妹のユーリアと一緒に坊ちゃまたちについて行くと決めて、お祖母ちゃんの生まれ故郷のルルンデにやって来た。それこそ逃げるように。
馬車を乗り継ぎ、やっとたどり着いたルルンデ。これからの生活をどうしようか? と不安だらけだった。
私たちも辛かった。でもリア嬢ちゃまやレオ坊ちゃまたちはもっとだわ。末っ子のロロ坊ちゃまなんて、しばらく一人になれなくて、毎晩夜泣きをされたの。見ていられなかった。
小さな身体を震わせ大きな瞳に今にも零れ落ちそうに涙を溜めて、お祖母ちゃんのエプロンをギュッと掴んでいる。だってまだ2歳だったもの。口には出されなかったけど、心や身体全部でご両親を求めておられた。
それがご近所のドルフ爺やセルマ婆さんのおかげで、笑顔を見せてくださるようになった。
ディさんとも仲良くなった。辛い事件はあったけど、今も毎日楽しそうにしておられる。
だから、リア嬢ちゃまとレオ坊ちゃまが決断されたの。
「マリー、エルザ、ユーリア、お墓参りに行こうと思うんだ」
ロロ坊ちゃまを寝かされた後に、レオ坊ちゃまがそうおっしゃった。
「あらあら、よろしいですね。いつ行きましょうか?」
お祖母ちゃんったら、どこかピクニックにでも行くみたいな反応をしているわ。でもお祖母ちゃんのこの性格にとっても救われている。変に暗くならなくてすんでいる。
こうして頑張っていればなんとかなるわ、て思えるの。
「エルザは『うまいルルンデ』を休めるかな?」
「はい、オスカーさんに相談してみます。私も行きたいですから」
「うん、頼むよ。待たせちゃったね」
「レオ坊ちゃま、何をおっしゃいます」
「おやおや、そうですよ。みんなで一緒に行きましょう」
その話を聞いて、翌日すぐにオスカーさんに相談したの。
「そっか、ご両親が亡くなっていたんだったな。あれか、レオたちも一緒なのか?」
「はい、みんな一緒です」
「そうか、なら行ってこい。ああ、そうだ。俺が弁当を作ってやるから出発する前に寄ってくれ」
「え、そんな。それは申し訳ないですよ」
「何言ってんだ。レオたちにはフォリコッコを譲ってもらったからな。これくらいさせてくれ」
「ありがとうございます」
「こっちは気にすんな。ゆっくり行ってくるといい」
有難いわ、ここで働けて良かった。
私が『うまいルルンデ』で働くことになったのも偶然だったの。
オスカーさんや奥さんのメアリーさんと出会ったのは、冒険者ギルドだったわ。ルルンデにやって来て住む家も決まった。だから私は早く働かなきゃと思って、冒険者ギルドの事務職の面接を受けに来た時だった。
「どうしてですか!? 私はもう17歳です。ちゃんと働けます!」
「あー、けどな。冒険者ギルドってとこは荒っぽい奴らもいるんだ。自分の身を守る何かができるのか?」
「いえ……それは……」
「だろう? なら無理だ。ああしてカウンターで受付をやってる者だって少しは戦えるんだ。自分の身くらいは守れる。でないと駄目だ」
最初は冒険者ギルドの受付で働きたいと考えていた。リア嬢ちゃまとレオ坊ちゃまが登録された時に一緒に来たことがあって、良いな~なんて思っていたから。ギルドなら潰れる心配はないし、お給料だってちゃんと貰えるだろうと思ったから。
面接に来てギルマスに駄目だと言われていた時に、通りかかったのがオスカーさんとメアリーさんだった。
「なんだ? 働き口を探してんのか?」
「あら、あなたいくつなの?」
「私は17歳です! でも全然戦えないから駄目だって言われちゃって」
「あら、それは仕方ないわ。受付嬢だって少しは戦えるものね」
「そうなんですね……」
そんなの知らなかった。冒険者ギルドだって、ルルンデに来て初めてなのだもの。
「じゃあうちで働くか?」
「え?」
「うちはね、そこの『うまいルルンデ』って食堂をしているの。手伝ってくれたら助かるわ」
「いいんですか!? 私、ちゃんと真面目に働きます!」
「おう! 頼んだ」
「よろしくね」
「はい! よろしくお願いします!」
あの時どうして食堂のご主人と奥さんが、冒険者ギルドにいるのかなんて考えもしなかったのだけど。よく思い出したらオスカーさんなんて大きな槍を持っていた。それは後から分かったのだけど。
オスカーさんとメアリーさんは、週に一度二人で出掛けるの。
森に出掛けて魔獣をたくさん狩ってくる。そのお肉をお店で料理して提供している。だからボリュームがあるのに、こんなにお手頃なお値段で出せてるのね。
この『うまいルルンデ』は冒険者ギルドの斜め向かいにある。それに料理もボリュームがあるから冒険者御用達のお店になっているの。
なら、冒険者ギルドで受付するのも変わらないんじゃない? とも思うのだけど。
「ここはオスカーさんの店だって、みんな分かっているから誰も変なことをしたりしないよ」
そう教えてくれたのが、エルフのディさん。いつも特盛サラダを注文する人だって一番に覚えたお得意様。あのサイズのサラダはディさんだけらしいけど。
このディさんがレオ坊ちゃまたちと知り合って、後にロロ坊ちゃまを助けてくださった。凄くお世話になっているの。
とっても綺麗なエルフさんでルルンデで一番強い人だって知ったのは、少し経ってからだったわ。
「ねえ、エルザもお墓参りに行くんだろう?」
「はい、行きますよ。私たちの両親のお墓もあるので」
「ああ、そっか。みんな行っちゃうと寂しいなぁ~」
「ふふふ、すぐに戻ってきますよ」
「うん、気を付けていっておいで」
「はい、ありがとうございます」
ディさんがロロ坊ちゃまと仲良くしてくださっているのは、毎日話を聞いているから知ってる。
でもこのお店でギルマスたちと話している時のディさんの印象と少し違うから驚いたわ。
「ねえ、エルザ。お墓参りに行く時なんだけどさ、ロロったら無茶をするからしっかり見ていて欲しいな」
「ええ、ディさん。分かってますよ」
「そうだよね」
「はい。ロロ坊ちゃまは突拍子もないことをなさいますから」
「アハハハ、そうだね。でもロロだけじゃなくてさぁ」
「はい、リア様ですよね」
「そうそう、リアは突っ走ってしまうからさぁ」
まあ、レオがいるから大丈夫だと思うけど。なんて言ってるディさんってよく分かってる。ふふふ、なんだか嬉しくて笑みがこぼれてしまうわ。
「エルザ、なんだよ?」
「だってディさんったら、心配してくださるんですね」
「当たり前じゃない」
ああ、また嬉しいことを言ってくださった。当たり前だって。そう思ってくださることがとっても嬉しい。
「毎日一緒に遊んでいるロロがいないと寂しいよ。ロロだけじゃなくて、みんなもう家族みたいなものなんだから」
「ディさん!」
思わずお祈りポーズでディさんを見てしまったわ。とっても嬉しい。私もその中に入っているといいな。
「エルザも無理しないでね。元気に帰ってくるんだよ」
「はい、ディさん」
こんなに穏やかな気持ちでお墓参りができるようになるなんて、想像もしなかったわ。
お墓参りで両親に報告しよう。私たちは元気よって。みんな一緒にいるから心配しないでって。




