438ー元気になった
「ロロ坊ちゃま、前はどうあれ今は執事のウォルターさんですよ」
「まりー、しょうらね」
「これでレオ坊ちゃまにもお仕えできます」
「あらあら、それは良いことですね」
「ええ、マリー。またよろしくお願いしますよ」
「こちらこそです。良かったですね」
元気になったウォルターさんは、こうしてはおられません。と言って早速着替えて一緒にお邸へ向かった。
ベッドの中にいたウォルターさんはとってもお爺ちゃんだったのだけど、ちゃんと服を着て背筋を伸ばして立つウォルターさんは立派な執事さんだった。
「うぉるたーしゃん、かっちょいいのら」
「おう、じぇんじぇんちがうじょ」
エルったら言葉が足りない。きっとベッドにいたウォルターさんとは、印象が違うと言いたいのだろうけど。
「みなさんびっくりなさいますよ」
「ふふふ、そうですか?」
「ええ、そうですよ。まだまだ治らないと思っていましたから」
「なんだか若返った気分ですよ。身体が軽いのです」
「チロの回復魔法で、悪いところは全部治っているはずだよ。顔色も随分良くなったね」
「有難いことです」
俺たちと一緒にスタスタと歩いて行く。さっきまで立ち上がれないと言ってベッドにいた人とは思えない。チロったら凄いね。
「キュルン」
「ちろ、ありがと」
「キュル」
ウォルターさんと一緒に外に出ると、どこからか賑やかな子たちが走ってきた。
「キャンキャン!」
「アンアン!」
「ピヨヨ!」
リーダーたちとプチゴーレムだ。
「めっちゃはやいな」
「しょうなのら。まいにち、とっくんしてるのら」
「ひょぉー! とっくんなのか!?」
あらあら、と言いながらマリーが笑っている隣でウォルターさんが、驚いて立ち止まってしまった。
そうか、ウォルターさんはずっとベッドにいたから知らなかったのだね。紹介しておこう。
「しぇいれちゅーッ!」
俺がそう言うと、みんな俺の前に並んだ。よしよし、お利口だね。
「うぉるたーしゃん、しょうかいしゅるのら」
みんなを紹介したら、余計に驚かれてしまった。
「マリー、これは驚きました」
「あらあら、そうですか? ふふふ」
ほら、マリーは笑ってるぞ。もう慣れっこになっているからね。大抵のことでは、マリーは驚かない。あの大きなクーちゃんの時だって、はいはい、飼いましょうって感じだったもの。
「ロロ坊ちゃまだけじゃなく、みなさんそれはもう素晴らしいのですよ」
「それは……旦那様と奥様の才能を受け継いでおられるのですな」
「ええ、ええ。それはもう」
特にリア姉は父様に、レオ兄は母様にそっくりだとマリーが言った。
「見た目はご両親のどちらにも似ておられましたが」
「そうですか? ふふふ」
マリーは嬉しいのだね。ウォルターさんが元気になって、またこうして話せて嬉しいのだと俺は思った。
「ろろ、やっぱぼくもほしいじょ」
「ぷちごーれむ?」
「うん」
でもなぁ、ちゃんと仲良くしてくれるかな? エルならきっと仲良しになるだろうけど、でもエルよりきっと長生きすると思うから、一応レオ兄に相談だ。そう思ってディさんのお顔を見た。
「うん、そうだね。レオに相談する方がいいよ」
「うん、しょうしゅるのら」
ディさんがここで反対しないのだから良いのだと思うけど。念のためだ。
「える、れおにいに、しょうだんしゅるのら」
「おー、わかったじょ」
ウォルターさんがそっとリーダーたちに手を伸ばした。リーダーたちは普通に人に慣れているから、キョトンとしてジッとしている。そっと頭を指で撫でている。
「まさかフォリコッコの雛だとは……」
「でしょう? ロロがテイムしたんだ」
「レオ坊ちゃまでなく、ロロ坊ちゃまですか?」
「そうなんだよ。とっても楽しかったよね、ロロ」
「うん、でぃしゃん」
ディさんも一緒に森に行ったものね。ディさんだって『お座り』と言ってテイムしていた。
なんだかちょっぴり懐かしく思ってしまった。そんなに前のことじゃないのに。
あの頃はまさか母様の実家に行くことになるなんて、夢にも思ってなかった。母様が隣国の公爵家のご令嬢だったなんてね。
ウォルターさんも一緒にお邸に入っていくと、みんな驚いた。
「まあ! 治ったの!?」
一番に声を掛けてきたのは、ウォルターさんの湿布のために毎日薬草を用意していた叔母様ローゼさんだ。
「はい、治していただきました」
「凄いわね! 良かったわ!」
誰にとはウォルターさんは言っていないけど、みんな自然にディさんだと思ってくれる。だからこのまま黙って秘密なのだ。そんなことを考えていると、いつの間にか人差し指をお口にプニッと当てていた。
それをレオ兄が見逃すはずがない。
「ロロ、もしかしてチロかな?」
「れおにい、ひみちゅなのら」
「うん、だからその手なんだね」
「しょうなのら」
「ろろ、しょのてをしゅると、わかるじょ」
「え、しょう?」
「しょうらじょ」
あらあら、どうしよう? レオ兄、秘密なのだよ。
「秘密だね」
レオ兄まで人差し指をお口の前に持ってきている。エルも俺の隣で同じ格好をしている。これって、秘密になっているのか?
「アハハハ、ロロったら相変わらずだね~」
ディさんがそんなことを言って笑っている。相変わらずとは何だ? 俺はいつも通りだよ。




