432ー仲良し
ロッテ姉はまた涙を流しながら、リア姉たちと握手をしていた。ニコ兄は俺と同じように泣きながら抱きつかれて、アタフタしていた。
ニコ兄は俺がいるからいつもお兄さん扱いだ。こうして同じように抱きしめられて、ちびっ子扱いはあまりされなくなった。だから慣れていないのだ。ほっぺを赤くして恥ずかしがっている。
「ニコも偉いわ。ロロの良いお兄さんなのね」
「おう、当然だぞ。ロロは可愛い弟だからな」
「なんて健気なのかしら! 駄目! また泣いちゃうぅ!」
とっても泣き虫さんでちょっぴりノリは軽いのだけど、それでも育ちの良さが滲み出ている。お嬢様らしい人だった。
そしてやっぱ気になるよね。だってそこに座っているだけで目立っている。
そう、ディさんだ。ニッコニコしながら、おすまし顔で座っているけど綺麗だもの。どうしても人目を引いてしまう。
「も、も、もしかして、ディディエ・サルトゥルスル様ですか?」
「そうだよ、君は初めましてだね」
「はい! まさかディディエ・サルトゥルスル様にお会いできるなんてッ!」
ビュンとディさんの前に移動した。やっぱディさんは有名人らしい。
「アハハハ、ディで良いよ」
「ディさん! 私はロッテです! 感動です!」
ディさんに握手を求めている。キラッキラしている眼からまた涙がポロリ。本当に涙もろい、もろすぎる。
「グスッ……ディさんがずっと助けてくださっていたのですか?」
「そんなことはないよ。みんな自分たちの力で生活していたんだ。僕が出会ったのは偶然なんだ」
「まあ!」
ロッテ姉は場がパアーッと明るくなるような人だ。煩いわけではないけど賑やかだ。
本人は泣いているのに周りにいる人を明るくするような、それでいて可憐な花のような、とっても女の子らしい令嬢だった。
「ロッテ、落ち着きなさい」
「だって、お祖父様。ディさんですよ! あの、ディさんですもの!」
「分かった分かった。ディさん、こんなお転婆な子で申し訳ない」
「アハハハ! 元気で良いよ」
「あら、私はお転婆じゃありません~」
おやおや、泣いていたと思ったら、もうお花が咲いたみたいな笑顔になっている。 今度はほんのり桜色したほっぺをプクッと膨らませている。可愛いではないか。俺のほっぺの方がプクプクだけどね。
「レオ、ロッテはレオと同じ歳だ」
「そうなんですか?」
「そうなの! レオ、よろしくね!」
「はい」
「もう、はいなんて言わないでちょうだい。同じ歳なんだから」
「じゃあ、ロッテ。こちらこそよろしく」
「ええ!」
おやおや、手を取り合っていたりなんかして。なんだかちょっぴり良い感じではないかな? ん? 恋が芽生えたりなんかして?
「むふふふ」
「やだ、ロロったら何考えてるの?」
「りあねえ、なんれもないのら」
「そう?」
「しょうなのら。れおにいと、ろってねえは、おにあいなのら」
「そんなことを考えてたの?」
「りあねえは、ゆーりしゃんと、なかよしなのら」
「あらあら、そうなの?」
「お祖母様! そんなことないです! もう、ロロったら」
え? だって本当のことだもの。仲良しだったじゃないか。
「まいにち、ゆーりしゃんと、うちあいしてたのら」
「え、リアったら打ち合いなの?」
「アハハハ!」
またディさんが笑ってる。俺ってそんなに可笑しいことを言ったかな?
「リア、私とも打ち合いしてほしいわ!」
「え? ロッテも剣を使うの?」
「当たり前じゃない! この領地で生まれ育ったのよ。剣が使えなくてどうするのよ」
そっか、ここもフリード爺たちの領地と同じなのだ。領地の中に森がある。もちろんそこには獣や魔獣がいる。当然それを討伐する人たちがいる。
「ここも同じなのよ。同じように領地を守る兵がいるわ」
「お祖母様、ダンジョンもあるのですか?」
「ここにはダンジョンはないわ。レオはダンジョンにも潜っていたの?」
「はい。ルルンデの近くの森にはダンジョンがありますから」
「まあ! 私はまだダンジョンに行ったことがないのよ。話を聞かせてほしいわ」
ロッテさんもやっぱりお転婆さんだ。リア姉とも気が合いそうだ。
みんな仲良くできそうで良かった。
「あらあら、皆さまお茶のおかわりはいかがですか?」
ここでもマリーの、お茶攻撃は健在だった。エルザとユーリアが手伝っている。
「まりー、ボクはじゅーしゅがいいのら」
「ぼくも!」
「はいはい、りんごジュースで良いですか?」
「うん」
「おー」
すっかり親友になっちゃったエルは、お隣に座っている。ちびっ子の俺たちはソファーに座ると足が届かなくてプランプランさせたまんまだ。
「ニコもりんごジュースでいい?」
「おう、ユーリア。ありがとう」
ふぅ~、一息つこう。ロッテさんが帰ってきたことで、俺たちの冒険のお話は忘れてもらえたみたいだし。
「なあ、ろろ。じゅーしゅのんらら、おしょとにいこう」
「うん、える」
「なにかな? ディさんも混ぜてほしいな」
「いいのら」
「おー、でぃしゃんならいいじょ」
「ありがとう!」
ふふふ、とディさんが笑っている。やっぱディさんがいると安心する。
毎日ディさんと遊んでいたから、いないと何か足らないような気がしてしまう。




