431ー泣き虫さんだった
お祖父様もおリボンを手に取っていた。
「これはロッテも喜ぶぞ。テオのリボンも良いな」
「ええ、そうでしょう? ちゃんと髪色と合うようにと考えてくれているのです」
テオさんが髪に結んでいるおリボンを見せた。
「いいわね、良い色だわ」
お祖母様が褒めてくれた。喜んでもらえたみたいで良かった。頑張って刺繍した甲斐があるもの。
「プチゴーレムたちの帽子も、ロロが作ったのですよ」
「まあ! テオ、そうなの? ロロちゃん! 凄いわね!」
俺のことを、ロロちゃんなんて呼ぶのは、伯母様のローゼさんだ。ローゼさんはニコ兄のこともニコちゃんと呼ぶ。
そんな呼ばれ方しないから、ちょっぴり照れちゃうぞ。
「これ、ぼくはむりらな。れきねー」
ハンカチを手に取って、刺繍を見ていたエルが言った。エルも刺繍しようと思ったのか?
「エルは魔法のお勉強もちゃんとしないのに無理よ」
「おおばあば、しょれはいったら、らめらじょ!」
もうみんな知っているからね。エルはエルの得意なことを見つければ良いのだ。何も俺と同じことをしなくても良い。
「えるが、しゅきなことを、しゅればいいのら」
「しゅきなことか?」
「しょうなのら」
「しょっか! しょうらな!」
お土産を皆が選んでいる時だった。部屋の外が少し騒がしくなった。
「お嬢様! お着換えなさってからにしてください!」
「いいのよ! 早く会いたいの!」
そんな声が聞こえてきた。これって辺境伯家でもよく似たことがあったぞ。
まさかまたドジっ子の登場じゃないだろうな。あたッ! とか言って躓いたりしないでほしい。もうあれは満腹なのだよ。
そんなことを考えていると、コンコンとドアをノックする音がした。おや、今回はまともらしいぞ。
「失礼します。お祖父様、お祖母様、ただいま戻りました!」
「おう、ロッテ。早かったな」
「急いで馬車を走らせたのです!」
「まあ、ロッテったら。お着換えしてないのね」
「だって、お母様。早く会いたかったの!」
そう言いながらやって来たのは、ロッテさんと呼ばれている伯父様の次女だ。シャルロッテ・オードランさんという。15歳で今はこの国の学院に通っていて寮に入っている。
俺たちが来ると聞いて、わざわざ戻ってきてくれた。レオ兄と同じ歳だ。
アッシュシルバーの長い髪をハーフアップにしていて、優しそうなオレンジ色の瞳の人。あれれ? とっても眼が合っている気がするのだけど。
「きゃ、きゃ……」
きゃ?
「きゃわいいぃ~ッ!」
俺にロックオンだ。そのまま真っ直ぐに俺の前に来て、しゃがみ込んだ。まだ、ガバッと抱きしめられるのではない。
「あなたがロロね?」
「あい、ろろれしゅ」
「エルと同じ歳なんですって?」
「あい」
「ろってねえ、ろろはしんゆうらじょ」
「まあ! もう親友になったの!?」
「おー! 仲良しなんらじょ」
「ふふふ、ロロ。初めまして、ロッテと呼んでちょうだいね」
「ろろ、ろってねえらじょ」
「ろってねえ?」
「そうよ! 可愛いぃ! 抱きしめても良いかしら?」
そう言いながら、両手を出して眼をキラキラさせている。これは嫌とは言えないぞ。
「え……」
「ちょっとだけ、ね?」
ね、って言われてもね。少し首を傾けながら、とっても期待に満ちた眼差しで見つめられちゃった。これは断れないじゃないか。
「い、いいのら」
「ありがと~!」
フワリと優しく抱きしめてくれたロッテさん。俺の頭をナデナデしてくれる。
「よく……よく来てくれたわ。元気でいてくれて良かった。会えて嬉しいわ」
「ありがとなのら」
うん、とっても落ち着いている。この感じなら大歓迎だよ。
リア姉みたいにスリスリモミモミしない。全然ドジっ子じゃないし、普通だった。なんて思ったのだけど。
「グスッ……話を聞いてとってもとっても心配していたのよぉー! 無事でいてくれて良かったわー! うぇ~ん!」
うぇ〜ん! てどうなの? 俺を抱きしめながら大泣きしている。
あらら、最近のご令嬢は普通の人がいないのかな?
「ロロ、ロッテは凄く涙もろいんだよ。アハハハ」
伯父様は笑ってるけど、涙だけじゃなくて色んな水分が出てしまっているぞ。それは良いのか? いかん、あの女神とダブってしまう。
「ろってねえは、いちゅもこうなんら」
「しょうなの?」
「おー。おれもよく、なきちゅかれるじょ」
「ああー……」
まあ、仕方ない。俺は小さな手でロッテ姉の背中をトントンとした。
「ロロったらぁ、私の方がずっと年上なのにぃ~! えぇ~ん!」
はいはい、もう泣き止もうね。
「ロッテ、いい加減にしなさい。ロロだけじゃなくて、みんなにご挨拶しなさい」
「は、はい……グスッ、お母様」
俺の頭を一撫でして立ち上がり、ふぅ~ッと大きく息を吐いて気持ちを落ち着かせようとしていた。それからお顔を拭いてリア姉、レオ兄、ニコ兄を順にゆっくりと見た。
「初めまして、シャルロッテです。ロッテと呼んでね。会えて嬉しいわ。みんな心配していたのよ。元気でいてくれて本当に良かったわ……あ、駄目。また泣いちゃうぅ……グスッ」
そう言いながら、綺麗なフワリとしたワンピースのスカートを摘まんで軽くカーテシーをした。
泣かなかったら、とっても令嬢らしい。俺の周りにはいなかったタイプだ。




