429ーおみやげ
「二人の行動力には驚かされる」
「あなた、きっとエルが誘ったのよ」
「ああ、確実にエルだろうな」
「いえ、フィンさん、ティーナさん、ロロも突拍子もないことをしますから」
「レオ、だがロロの方が冷静だ」
「そんなことないですよ。ロロはああ見えて、やんちゃなところがあるんです」
「あら、ふふふ。そうなのね」
この兄弟はみんな良い子だ。ロロと親友だと話していたエルもきっと良い子なのだろう。ロロも同年代の友達ができて良かった。
ちびっ子二人の行動力には驚かされたけど、それでも微笑ましいと僕は思う。
「ディさん、魔鳥の件は早急に調査しておきます」
「ええ、その方が良いですね」
ルルンデのお祭りの時も引っ掛かったんだ。あのお祭りの夜に出てきたブラックウルフの群れだ。
僕が結界を強化したすぐあとだったのに、魔法陣を使って結界を越えるなんてことをしてきた。そんなの普通じゃない。
上位種のレッドウルフが後ろにいたこともひっかかる。レッドウルフがブラックウルフを従えるのは珍しいことじゃない。
だけど、空中に現れたあの魔法陣だ。あれはどう考えても合点がいかない。
そして、今回の魔鳥だ。一体何が起こっているのだろう? 僕も帰りにクリスティー先生と相談しておこうと考えていた。
「ディさん、クリスティー先生には」
「ええ、シュテファン様。僕が話しておきますよ」
「頼みます」
もしも何かあるとしたら、ルルンデの街が一番危険だ。なにしろルルンデの街の近くにある森の中には、あのダンジョンがあるのだから。
「私たちはいつでも力を貸しますぞ」
「ブルクハルト様、ありがとうございます」
この世界の主神である女神様の加護を授かったロロがいる。しかも、ルルンデにだ。
今まで何百年も守ってきて初めてのことだ。それが今回のことに関係するのだろうか?
何もなければ良いのだけど。黒い霧が胸の奥から侵食していくような嫌な感じがする。
「ディさん、イシュト様とクリスティー先生から聞きましたわ」
ルイーゼ様が、さっきとは打って変わった真剣な表情で言った。
レオたちの家のことだろう。辺境伯邸でクリスティー先生を交えて話したはずだ。
「まだ調査中なのですよ」
「何にしろ、この子たちは家族ですわ」
「ああ、そうだ。力になろう。リア、レオ、ニコも頼ってほしい」
「お祖父様、お祖母様、ありがとうございます」
その話については、ロロがまだ不安定だ。だから少し時間が必要かも知れないと僕は思っている。きっとレオもそう思っているだろう。
「ロロがもう少し落ち着くまではと思っています」
「リア、みんなでこの家にくればよい」
「お祖父様、ロロはルルンデの家が好きなのです」
「泣いて家から出られなかったロロを、近所の人たちが可愛がってくれました。ディさんもいます。ロロをもう泣かせたくないんです」
やはりリアとレオはロロのことを考えていた。
この子たちは自分のことより、兄弟のことを優先して考える。リアもレオもまだ子供だというのに。
それが健気で、大人は手を貸したくなるんだ。
「レオ……でもあなたは、まだ学ばなければならないわ」
「はい、分かってます」
「それでも、もう少し時間が欲しいのです」
「ロロが泣いてるのを見るのは嫌だぞ」
「リア、ニコ。レオだけじゃない。二人もまだまだ勉強が必要だろう」
「えー、俺もか?」
ニコったら自分は関係ないと思っていたのかな? ニコだってまだまだ勉強が必要なのに。
「ニコ、当然じゃない」
「リア姉もだぞ」
「私はいいのよ」
「リア、よくないわよ。ここにいる間にマナーだけでも私が教えるわ」
「ええー、お祖母様」
「ええーじゃありません」
お互いにずっと離れていて、ほんの数日前に初めて会ったとは思えない。みんな安心しているように見える。これなら心配ないな、と僕は思った。
「お祖父様、お祖母様、ディさんやフォーゲル子爵様が力を貸してくれてます。はっきりするまでは、ルルンデにいるつもりです」
「レオ、それで良いのか?」
「はい」
「ディさん、この子たちをよろしくお願いしますわ」
「ええ、もちろんですよ。僕もこの子たちが可愛いんです」
そこに賑やかなロロとエルの声が聞こえてきた。
(ロロ視点に戻ります)
お着換えをして応接室に行くと、みんな集まっていた。一家勢ぞろいだ。リア姉とニコ兄までいるじゃないか。あー、これは絶対に叱られちゃうぞ。
「ロロ! なんて危ないことをするの!」
「やっぱロロはじっとしていないと思ったんだよ」
「りあねえ、にこにい、ごめんなしゃい」
部屋に入るなり、リア姉とニコ兄に責められちゃった。
「エルもだぞ」
「そうよ、どうせエルが誘ったのでしょう?」
「とうしゃま、かあしゃま、なんれわかるんら?」
そこ? そこなの? それよりも、エルのせいにされてしまっているよ。それは良いのかな?
「ボクもいきたいっていったのら」
「ぼうけんらもんな!」
「ぼうけんなのら!」
二人してハイタッチだ。もう息もぴったりだ。
「リア姉、懲りてねーぞ」
「ニコ、そうみたいだわね。ロロ、エル、分かってるの? 危なかったのよ!」
「あい、りあねえ」
「ごめんらじょ」
しまった。ついハイタッチなんてしてしまった。




