428ー四兄弟だから
お邸に入っていくと、マリーがソワソワしながら待っていた。
俺たちを見て、びっくりしたお顔をしている。マリーにも心配かけちゃった。
「ロロ坊ちゃま! エル坊ちゃま! その格好はどうされたのですか!?」
二人とも腹ばいになって穴を抜けたり尻もちをついたりしたから、お顔にも服にも土やら埃やらがいっぱいついていた。
「あらあら、お着替えしましょうね」
「まりー、ごめんなしゃい」
「ごめんな、まりー」
「マリーは心配していませんでしたよ。だって、ピカが一緒でしたでしょう?」
マリーはよく分かっている。
それでも玄関で待っていたのだから、気が気じゃなかったのだろう。
「あらあら、ピカまで汚れてますよ」
「わふ」
ピカがブルブルと体を震わせた。と同時に、シュルンと汚れが消えていく。
あ、そうだ。俺もできるのだった。こんな時に使わないでどうする。
「くりーん」
俺がそう言うと、エルと俺も一瞬で綺麗になった。
「まあまあ、ロロ坊ちゃまったら」
「ろろ! ほんちょに、しゅげーな!」
「ふふふん。くりーんなのら」
クリーンくらいなら、エルもすぐにできるようになるよ。ちゃんと魔法のお勉強をしたらだけどね。
「ぼく、ちゃんとおべんきょうしゅるじょ」
「うん、ふふふふ」
何度も聞いたよ。その気持ちを忘れないでね。それよりも今日は、ドキドキワクワクハラハラだった。
「まりー、しゅごかったのら。でぃしゃんをよんらのら」
「まあ! ロロ坊ちゃま、そんなことができるのですか?」
「しょうなのら。あみゅれっちょ」
「はいはい、ディさんにいただいたものですね」
「しょうしょう」
マリーに俺たちの冒険を話しながら部屋へと移動する。もう服も綺麗になったのだけど、それでもお着換えするらしい。
「エル坊ちゃまも一緒にお着換えしましょうね」
「わかったじょ」
坊ちゃまがいっぱいだ。
「でも、える。たのしかったのら」
「らな! またいこうな!」
「あらあら、駄目ですよ。もう駄目です」
「は~い」
「しかたねーじょ」
ふふふ、俺たちの冒険はあっという間に終わっちゃったけど、それでもスリル満点の冒険だった。
怖くて泣いたりしちゃったけど、また冒険したいね~なんてエルと目くばせをした。
あの裏の塀にあった小さな穴は、その日のうちにすぐに閉じられてしまった。
◇◇◇
(ディさん視点です)
応接室にオードラン家の全員が集まっていた。もちろん、リア、レオ、ニコも一緒だ。
もう既に馴染んでいるように僕には見えた。可愛がってもらっているんだ。疑っていたわけではないけど、実際それを目にして胸をなでおろした。
ロロとエルが着替えている間、僕は皆に説明した。ロロに呼ばれたこと。その時どういう状況だったのかを。
「ディさん、魔鳥ですが実はこちらに帰ってくる時にも遭遇したのです」
「ええ、ロロから聞きました。ですが、ブルクハルト様。街道ならまだ分かります」
「そうですな、まさかこんな街中に出るなんて異常だ」
「そうでしょう?」
「あの、ディさん。よろしいかしら?」
「ええ、ルイーゼ様。なんでしょう?」
「ロロがディさんを呼んだのですか? どうやって呼んだのでしょう?」
ああ、そうか。そこから説明しなきゃ。
僕は四兄弟みんなにアミュレットを持たせていることを説明した。そのアミュレットを通して、呼ぶことができるのだと。
レオが実物を見せてくれている。エメラルド色した魔石でできたアミュレットだ。
「まあ! レオ、ちょっと見せてほしいわ!」
食いついたのが、ルイーゼ様とローゼリンデ様だ。この二人は以前、クリスティー先生と一緒に来た時にも、魔法の話になると食いついていた。
ローゼリンデ様はクリスティー先生をつかまえて薬草の話もしていたっけ。
「なんとッ! そんなことができるのですか!?」
ブルクハルト様が、飲もうとしていたお茶を零しそうにしながら驚いている。鳩が豆鉄砲を食ったようとはこのことだ。
「ええ、四兄弟だからですよ。四人とも、魔力量が多いからできるのです」
そうさ、他の子なら無理だ。この子たちは兄弟四人揃いも揃って魔力量が多い。普通よりかなり多いんだ。
なのに、リアとニコはまともに魔法の勉強をしようとしない。まあ、出会った頃よりは使えるようになっているけど。
だが、特筆すべきはロロだ。あの子はどうしてだろう。なんの確証もないのだけど……いや、違うな。精霊眼で、この世界の主神である女神様から加護を授かっていると見たからかな?
ロロは守らないといけないと思ってしまうんだ。きっと女神様だって、そう思っているからこそピカを遣わせたのだろう。
まあ、そんなことは言えないのだけど。ロロ自身も、気にかけてもいないようだしね。
「二人とも無事で良かった。ディさん、礼をいいます。ありがとうございます」
「シュテファン様、僕が来なくてもピカが守ってましたよ」
「そうだとしても、二人は怖かったでしょうから」
そうだ、ロロもエルもまだ3歳なんだ。なのに、あんな大胆なことをして。やんちゃが過ぎるだろう。呼ばれた時は少し焦ったよ。
たくさんの魔鳥を目にした時には、肝が冷えた。




