426ー冒険が終わっちゃった
まずいぞ。黙って二人だけで来てしまったし。
「でぃしゃん、ごめんなしゃい」
「ろろは、わるくないんら! ぼくが、いこうっていったんら!」
「うんうん、分かったよ。で、どうしてこんな場所に来たの?」
「えっちょぉ……ひみちゅなのら」
「なんれらよーッ!」
「アハハハ!」
エルにツッコまれちゃった。だってエルは秘密だって言ったもの。
「ろろ、ここはちゃんと、いうとこらじょ」
「える、しょう?」
「しょうらじょ」
「君はエル君っていうのかな?」
「しょうらじょ。ろろの、しんゆうら!」
「親友かぁ、それは凄いや! アハハハ!」
そこに、ピヨピヨ! キャンキャン! と、戻ってきた子たち。みんな頑張って攻撃してくれて、ありがとうね。
大丈夫かな? 怪我はないかな?
「ピヨヨ!」
「アンアン!」
とっても元気らしい。怪我一つない。あんなに突撃してくる魔鳥の中を走り回っていたのに。
「で? どうしてここにいるのかな?」
「やくしょうら」
「薬草? ああ、あそこに生えている薬草かな?」
「しょうらじょ」
「うぉるたーしゃんに、ちゅかうのら」
「それを採りにきたの? 二人だけで?」
「らから、でぃしゃん。ひみちゅなのら」
俺は人差し指をプニッと唇に当てた。決して懲りていないわけではない。ちょっと冷静になったのだ。
「アハハハ! 秘密になってないじゃない」
「ろろ、もうひみちゅは、むりらじょ」
「え……しょう?」
「しょうらじょ」
またまたエルに言われちゃった。もう秘密は無理だと、冷静に言われちゃった。なら、仕方がない。俺はディさんに状況を説明した。
「そう、執事のウォルターさんか」
「しょうなのら」
「いっぱいちゅかうから、やくしょうがもうないって、いってたじょ」
「でも二人だけで来たら駄目だね」
「あい、ごめんなしゃい」
「ろろは、わるくないんら」
「まあ、無事で良かったよ」
俺たちは無事だけど、ピカが怪我しちゃった。ピカピカの毛に、赤いものが滲んでいて痛々しい。
俺たちを庇ったからだ。申し訳なくて俺の小さなお胸がキュッとなっちゃう。
「ぴか、いたいのいたいのとんれけー」
ピカの体を白い光が包み込み消えていった。これでピカの怪我も大丈夫だ。
それを見ていたエルが、キラキラと眼を輝かせている。さっきまでその眼から涙が溢れていたのに。
「ひょーッ! ろろ! いまのはなんら!?」
「いたいのいたいのとんれけーなのら」
「しゅげーな! なおるのか!?」
「しょうなのら」
ディさんが俺たちの会話を聞いて、ふふふふと笑っている。そんなに可笑しいかな?
「じゃあ、薬草を採っておいで。僕は魔鳥の後片付けをするからね」
「うん」
「おー」
トコトコと薬草が生えている場所に行って、根っこから薬草を採取する。エルは採り方を知っているのかな? 俺の手元をジッと見て聞いてきた。
「ろろ、ねっこもか?」
「しょうなのら。またうえられるから」
「おー。わかったじょ」
やっぱエルはお利口さんだ。俺のすることを見て聞いてくる。こんな賢い3歳児がいるのか?
ディさんはマジックバッグにヒュンヒュンと、魔鳥を収納している。採った薬草もディさんに収納してもらう。やっぱマジックバッグって便利だよね。俺の愛用のポシェットをマジックバッグにしたいぞぅ。いや、持っていなかったら意味がない。
あ、そうだ。こんな場所に魔鳥が出ること自体がおかしいと思ったのだ。だって街中だぞ。確かに魔鳥は飛べるから防御壁なんて関係ないのだろうけど。それにしても、不自然だ。
「ねえ、でぃしゃん。なんれかな?」
「魔鳥かな?」
「しょうなのら」
「そうだね、とっても不自然だよね」
な、やっぱそうだ。でもこの街に来る途中でも、同じ魔鳥に襲われたとディさんに話した。場所は防御壁の外だったけど。
「うん、侯爵に報告しなきゃね」
「やべ、しかられるじょ」
「あー……」
「アハハハ、それは仕方ないね」
大人しくしかられよう。ね、エル。
「しょうがねーな、ごめんなしゃいいうじょ」
「うん」
「二人ともお利口だね~」
さあ、戻ろう。とディさんが言った。その一言で俺は分かってしまった。きっとあれだ。
「でぃしゃん、てんい?」
「そうだよ。二人とも、ピカに乗ってくれるかな?」
「わかったのら」
「え? なんら?」
エルはピカに乗ってね。リーダーたちとプチゴーレムもこっちにおいで。みんなディさんのそばに集まるのだよ。俺たちは一瞬でお邸のお庭に戻ってきた。
そうして、俺とエルの小さな冒険は終わってしまった。
ああ、あっという間だった。最後は魔鳥に襲われて怖かったけど、それまではワクワクドキドキで楽しかったのに。
もう少し冒険していたかったなぁ。
「な、な、なんれらぁッ!? なんれもうかえってるんら!?」
エルは初めてだろうし、驚くよね。ふふふん、教えてあげようではないか。
「でぃしゃんの、てんいなのら」
「ひょぉーッ! しゅげーな!」
エル、それどころじゃないのだよ。ほら、目の前にお祖母様とお祖父様、レオ兄までいるじゃないか。
「エル! ロロ!」
「お前たち、どこに行ってたんだ!」
「えぇ!? ディさん!? どうしているんですか!?」
この三人が庭で俺たちを待っていた。そこに突然ディさんと一緒に現れた俺たち。これって、勝手にどこかに行ったのがバレバ~レってことだよね?




