424ーなんてこったい!
洞窟の中は岩肌が剥き出しだった。
だけど、その岩肌の隙間にも薬草が生えている。日差しを嫌い、暗い場所を好んで生える薬草もある。
これはニコ兄も育てていない種類だぞぅ。採って帰ろうかな?
なんて考えながらしばらく進むと、天井からまあるく陽が射している場所に出た。
あれれ? 洞窟なのにどうして? と思って上を見て驚いた。
「ひょぉーッ!」
「な! しゅげーらろ!?」
「しゅごいきれいなのら!」
そこだけ大きくポッカリと洞窟の天井が抜け落ちていた。
すっごく昔に地盤が崩れて落ちたのかな? これって外から見ると、突然大きな穴が開いている状態になるよね? 危ないなぁ。
この空間だけ、周りの壁を補強してある。天井が抜けているからかな?
入口を補強してあったのと同じような岩で、壁を作ってある。それでも随分年代を感じる。壁を蔦が這っていたり、下の方には苔も生えている。
その陽が射している場所に、目的の薬草が群生していた。きっと日照加減と湿度があの薬草にはちょうど良い環境なのだろう。
だってその陽が射している丸い場所にだけ生えているのだから。
丸い葉っぱに、鐘みたいな形の白くて小さな蕾。あの薬草に間違いない。
まるで緑に白の花模様の円形の絨毯を敷いているみたいに見える。しかもそこだけ陽が差しているからとっても幻想的だ。
空気中の細かい何かがキラキラと光って見える。上から天使が舞い降りてきそうな、なんだか非日常の空間だった。
少しの間見惚れてしまったのだけど、俺たちのミッションを遂行するのだ。
「える、やくしょうを、とってかえるのら」
「しょうらな!」
ピカがそこに行こうと足を踏み出した時だ。突然上空からビュワッと空気の塊が吹き付けてきた。
思わずピカにしがみ付くけど、風圧で飛ばされてしまいそうだ。
「うわッ! なんら!?」
「える、しっかりちゅかまって!」
「おー!」
エルがピカから落ちないように、後ろから腕で支えたけど遅かった。ポテンと二人してピカの背中から落ちてしまった。
お尻から落ちたからまだ良かった。頭からだったら大変だ。
「いってー!」
「える、らいじょぶなのら!?」
「おー! ろろもへいきか!?」
「らいじょぶなのら!」
尻もちをついてしまっている俺とエルを庇うように、リーダーたちとプチゴーレムが前に出た。
威嚇の声を上げて、臨戦態勢になっている。ということは、この風は自然現象ではない。
ピカまで尻尾がピンと上がり、背筋を伸ばして心なしか体毛まで逆立っているみたいに見える。なんだ? 何がいるのだ?
また空気の塊が上空から吹き付ける。エルと俺はちびっ子だから、それに耐えるだけで必死だ。
二人でピカにしがみついて耐える。
「なんなんら!?」
「ぴか! なにかわかるのら!?」
「わふん!」
え!? どうしてこんな街中に!? と驚いた。だってピカが、魔鳥だと言ったから。
魔鳥といえば、ここにくる途中で商人の馬車を襲っていた。もしかしてあの魔鳥なのか? あの魔鳥ならヤバイぞぅ。
「わふ!」
気をつけて、僕の後ろにいて! ピカがそう言いながら俺たちを背に庇う。
ピカは強いから大丈夫だろうけど、魔鳥は空を飛ぶ。でも、ピカもリーダーたちやプチゴーレムも飛べない。これは不利だ。
まだ姿が見えないかな? ピカの後ろから天井が抜けている上空を見ると、ここに来る途中で見た魔鳥が不気味な色の翼を広げて上空で群れて飛んでいる。
やっぱあの魔鳥だ。一斉に大きな翼を羽ばたかせて、風を起こしている。
そこから鋭い嘴で空気を切り裂き、急降下して魔鳥が攻撃してきた。自分の翼を折りたたんで弾丸のように突撃してくる。あれに当たると怪我どころではすまない。
「わぉ~ん!」
ピカが鳴いて、風魔法で刃を飛ばして応戦する。だけど何しろ数が多い。それに魔鳥も馬鹿じゃない。ピカが飛ばす風の刃を避けようとする。
しかもピカは俺たちを庇って風の膜を張りながらだ。どうしても分が悪い。
風の刃に当たった魔鳥は落ちてくる場所が変わる。地面に落ちた魔鳥は、リーダーたちやプチゴーレムの餌食になっている。
「ピヨピヨ!」
「キャンキャン!」
みんなで突進して、寄って集って蹴りまくっている。危ないからね、まだ上から落ちてくるかも知れないぞ。
それに、薬草の中に落ちた魔鳥だっている。せっかくの薬草が駄目になってしまうではないか。
「ぴか、やっちゅけられない!?」
「わふ!」
飛んでるからね。なんて呑気に言っている。飛んでるけど、ピカの風魔法も飛ばせるじゃないか。
俺も魔法で攻撃するのだ! ポシェットを探ろうと思ったのだけど、俺の小さな手がスカッと空を切った。
そうだったぁ! 忘れてた! しまったなぁ、まさかお邸の外に出るとは思っていなかったから、俺はポシェットを持ってきていないじゃないか!
「あー! ボクのちゅえ!」
あそこにディさんからもらった、とっても凄い魔法杖が入っているのに。あれなら魔鳥を落とせるかも知れないのに、俺としたことがなんてこったい!
「ろろ、なんら!?」
「ぽしぇっとに、ぼくのちゅえが、はいってるのら!」
「なんら!? ちゅえ!?」
エルは知らない、俺のあの凄い魔法杖を。ディさんに作ってもらった特注の魔法杖だ。




