423ー薬草がいっぱい
穴を抜けると、そこはもう雑木林が広がっていた。裏の林って、お邸の本当にすぐ裏だった。
「よし! ろろ、いくじょ。ぴか、のしぇてくれな」
「わふ」
またピカに乗って行く。だから俺たちはとってもラクチンだ。しかも自分で歩くより速い。ピカは揺れないようにゆっくり歩いてくれているけど、それでも3歳のちびっ子の足よりは速い。
その林は、ここが街中だと忘れてしまうような場所だった。森ではない。そこまで鬱蒼とはしていない。疎らに木が生えていて、ちゃんと日差しも入ってくる。木々の葉が陽の光で微妙に透けて輝いている向こう側に、青いインクのような空にペンキで塗ったみたいな白い雲が見える。
少しこんもりとしているから、小さな丘になっているのかも知れない。よく見ると、すぐそこに薬草が生えていた。木陰にはまた違う薬草もある。薬草はニコ兄が育てているし、俺もポーションを作るからメジャーなものなら分かる。この林は豊かだ。獣や魔獣がいないから薬草が残っているのだろう。
コロコロとしたお豆みたいな糞はあるから、小さな動物はいるみたいだ。
枯れ葉や雑草の中に、パッと見ただけでも数種類の薬草が生えているのが分かる。
「な、やくしょうが、いっぱいらろ?」
「うん、ほんとなのら」
「ここはこのままにしておくって、おおじいじがいってたじょ」
これだけ薬草が自生しているのだから、ここは切り拓いてはいけない。
ピカに乗りながら、林の中を見渡す。ここだけ空気が違うように感じる。
街中だというのに、静かだ。葉っぱがそよそよと微かに揺れていたり、小鳥がピピピピと囀っている声だけ聞こえる。その中をピカが踏みしめる落ち葉の音が響く。
おっと、忘れちゃいけない。賑やかなのがいた。リーダーたちとプチゴーレムたちだ。ピカの周りをピヨピヨ、キャンキャンと楽しそうに駆けている。
木々の間から入ってくる日差しで、葉っぱがキラキラして見える。木が多いから空気が澄んでいるのかな? 良いなぁ、ここは気持ち良い。
「える、きもちいいのら」
「らろ!? ぼくもここは、しゅきなんら」
丁度良い感じで日差しが遮られて、風も通るから暑くもないしジメジメもしていないから、きっと薬草にも良い環境なのだろう。柔らかい日差しのおかげで、生き生きとしているように見える。
鬱蒼とした暗い森ではなく、程よく日の差しこむ明るい雑木林。怖さがない分、冒険だというワクワクした気持ちがより大きくなってしまう。
少し進むと、木の枝がアーチみたいになっている向こう側に、ぽっかりと口を開けた大きな穴が見えてきた。その周りには蔦が這っていて、洞窟の入り口なのかな?
やっぱり少し丘になっている。だからこんな傾斜があるのだね。
入口が岩を切り出したもので補強されている。その周りだけ木がないのも、きっと人が出入りするからだろう。
「あしょこら」
「ひょぉー!」
これはもう、完璧に冒険だ。ちびっ子心をくすぐるのには、十分すぎるシチュエーションじゃないか。
「える、しゅごいのら!」
「らろー!? わくわくしゅるらろ!?」
「うん! わくわくなのら!」
目の前に現れた大きな洞窟の入り口。この中は一体どうなっているのだ? こんな洞窟の中に薬草が生えているのか? ワクワクドキドキするじゃないか。
「ぴか、はいるじょ」
「わふ」
きっとピカはこの林に出た時から、索敵をしてくれているのだと思う。いつもリア姉やレオ兄と一緒に、森へ討伐に行く時にはそうしているとレオ兄が話していた。
ピカはできるワンちゃんだから。違った、フェンリルだ。
そのピカが、なにも言わないで進むということは大丈夫だろう。防御壁の中にある街なのだから安全だ。
ゆっくりと洞窟へ入って行く。思ったより大きな洞窟だ。大人でも余裕で立っていられる高さがあって、幅も広い。これは自然にできた洞窟なのか? それとも、薬草を採るために広げられているのかな?
陽が遮られて薄暗くなり、気温も下がるような気がする。
それまで騒がしかったリーダーたちが、少し大人しくなった。どうした? 何か感じるのかな?
珍しく少し不安そうにリーダーが言った。
「ピヨヨ」
「あー、しょうなのら?」
「ろろ、なんていってんら?」
「ちょっとくらいのが、いやなんらって」
「らって、ひかりがはいらないからな」
「しょうらね」
ふむふむ、なら俺の出番だ。任せなさい。
「らいと」
小さな手を上に向けて、ポンと丸い光を出した。
「これれ、らいじょぶ?」
「ピヨヨ」
「アン」
大丈夫らしい。クリーンができるようになった頃に、レオ兄に教えてもらっていた。今回初披露なのだ。ふふふん。
「ろろ、しゅげーな!」
「えるは、おばしゃまに、おしえてもらってないのら?」
「んー、おぼえてねーじょ」
「きっと、おしょわってるのら」
「しょうなのか?」
「うん、きっとね」
これは本当に、魔法のお勉強を抜け出しているな。だって、ライトなんて初歩中の初歩だもの。
「よし! ちゅぎから、がんばるじょ!」
「ふふふ」
俺ができることで刺激になると良いな。お祖母様も伯母様も魔法は得意なのだから、エルだって才能はあるのではないかな? と、思うのだけど。




