422ーひみちゅ!
この子たちは確かに強いのだけど。
「ええー、おるしゅばんは、いやなの?」
「キャン!」
「ピヨヨ!」
もう行くつもりになっている。仕方ない、連れて行くか。そばを離れたら駄目だよ。
「ひみちゅを、おしえてあげる!」
「ふたりらけの、ひみちゅ?」
「しょうら!」
「ひょぉー!」
なんだかワクワクしてきたぞ。ちびっ子の頃って秘密基地とか、自分だけが知っている道とかって嬉しいものだから。よし、行こう。薬草を採ってきて、ウォルターさんに使ってもらおう。
だけどここで肝心なことに気が付いた。
「える、ボクはしらないのら」
「なんら?」
「やくしょうを、しらないのら」
「おー、わかるじょ。おんしちゅに、みにいくか?」
「うん、みておくのら」
秘密のミッションを完璧に熟すために、目的の薬草をちゃんと知っておかないと。
ピカに乗って、温室に入って行く。もうこの時点から、リーダーたちとプチゴーレムも一緒だ。なんだかちびっ子ばかりで、しかも賑やかだ。
俺は初めて入った温室。そこは薬草が丁寧に植えられていて、どの薬草も生き生きとしていた。
ニコ兄が話していたけど、近くに植えると枯れてしまう薬草もあるらしい。この温室を管理している伯母様は、それをちゃんと考えて植えている。種類の違う薬草同士が触れないように、一定の距離をとって整然と植えられていた。見たこともない薬草もある。
その中に目当ての薬草があった。確かにあと数回分しかないだろう。下葉をちゃんと残してあるのだけど、成長が追いついてない。
「ほら、これらじょ」
「ほぉ~」
エルはとってもよく知っていた。この子は本当に賢いなぁ。まだ3歳なのに、薬草も分かるのか?
「おばあしゃまが、これをまいにち、とってるからな」
「しょうなの?」
「おー、いちゅもいっしょに、とりにくるんら」
へえ~、知らなかった。そんなことをしていたのか。
「ろろ、わかった?」
「うん、おぼえたのら」
丸い葉っぱが何枚もあって、鐘の形に似た小さな白い蕾のある薬草だ。ほんの20センチほどしかない。きっとこの葉っぱと茎を使うのだろう。薬草自体が小さいから、沢山必要なのだろうね。
なら、根っこから採ってこないと。植えて増やせるようにしておくほうが良い。
「よし! ぴか、いくじょ!」
「ぴか、いくのら!」
「わふ」
仕方ないね、僕が守るよ。なんて言ってる、とっても頼もしいピカさんだ。
でも、そんなに心配することもないって。お邸の裏だというし、こんな街中には獣や魔獣は出てこない。だって、立派な防御壁があるから。
薬草はお邸のすぐ裏側にある林の中にあるらしい。そこは街中なのに、色んな薬草が自生しているからと林のまま残されている場所だ。
そこに行くには、一度お邸の外に出ないとね。だからピカもお邸の門の方へと行こうとした。
「ぴか、ちがうじょ。あっちら」
エルがプクプクの人差し指で、裏庭の奥を指差す。え? 向こうは行き止まりじゃないのか?
「らから、ろろ。ひみちゅら!」
「ひみちゅ!」
おっと、エルったらやっぱりやんちゃさんだ。
エルが言った方へ行くと、やはりお邸の裏の塀に突き当たった。この先には行けなくなっている。
「ぴか、あっちら」
エルがまたピカを誘導する。そこは鶏舎や牛舎が並んでいる裏だった。大人だと二人並んで歩けるかな? て、くらいしかない。そこでエルがピカから降りた。林側の塀に厚めの板が立てかけてある。
「ここらじょ」
エルが塀に立てかけてあった板をヨイショと退かす。持ち上げられないから、ズルズルと押して板を退かした。
そこに現れたのは、大人では到底通ることができないような小さな穴だ。塀と地面との接地面に、そこだけぽっかりと穴が開いていた。これってピカも通り抜けられるかな?
「ひみちゅらじょ!」
「ひょぉー!」
ちびっ子ってこういうの大好きだよね。だってとってもワクワクするもの。でもピカさん、穴が小さいよ?
「わふ」
ギリギリ大丈夫かな? と言っていた。ここは俺も降りなきゃね。
「わふん」
「うん、わかったのら」
僕が先に行くからね。と頼りになるピカさん。きっとお邸の外に出るから、危険がないか見てくれるのだろう。ピカはお利口さんだから。
ピカが伏せてモソモソと穴を抜けた。突き出したお尻のフッサフサの尻尾が、楽しそうに揺れている。
ああ、そっか。ピカは毛がフッサフサだから、よりふっくらとして見えるんだ。シャンプーしたら、どなたですか? みたいに細っそりしちゃうパターンだ。
ピカの後を、リーダーたちが余裕で通り抜ける。
ピヨピヨと鳴きながら、プチゴーレムは尻尾を振りながら怖がりもしない。この子たちはやる気だね。怖い物無しだ。
「ぼくが、しゃきにいくじょ」
「うん」
エルが地面に伏せて、ほふく前進みたいにして穴を潜る。向こう側から、いいじょー! て声がした。
よし、俺も行くぞ。エルと同じように、腹ばいになって入って行く。
今はまだ余裕で潜れるけど、これは身体が大きくなったらすぐに通れなくなるだろうな。そんな小さな穴だった。
どうしてそこに穴が開いてしまったのか知らないし、それをどうしてエルが知ったのかも分からない。
でもそれはエルにとっては、ワクワクする秘密の通路なのだ。
この小さな穴の向こう側は何があるのだろうって。もしかしたら裏の林ではなくて、知らない世界に繋がっていたりして、なんて想像するとそれだけで楽しくなってしまう。




