420ーまた会いにこよう
領地のことを何も知らない叔父に、手伝いを強要されるだろうと考えた。
自分が邸から出られなくなってしまうと、誰が今の状況を知らせるんだと考え、誰にも言わずにすぐにお邸を出た。
そして、とにかく辺境伯領を目指したのだ。結局、遠い隣国の母様の実家まで来てくれた。
「何分急でしたから、十分な準備ができなかったので参りました。それに思った以上に時間が掛かってしまって」
途中で商人の一行に会わなかったら、食料も尽きていただろうと言った。
よく行こうと思ったものだ。俺なら無理だ。だって本当に遠いもの。途中までディさんの転移で連れて来てもらったのに、それでもここまで遠かった。
エルがちょっぴり得意げに乗っているピカを、穏やかな表情で見たウォルターさん。
「ロロ坊ちゃま、その大きな犬がピカですか?」
「しょうなのら。ぴか」
「わふ」
ピカがそばに来る。エルを乗せたまま。
「エル、いつまで乗っているんだ」
「え、おじいしゃま、らめか?」
「いや、駄目じゃないけどな」
ふふふ、余程気に入ったのだね。
「うぉるたー、ろろとしんゆうに、なったんらじょ」
「それはそれは、よろしいですな」
「ふふふん、もうなかよしなんら。なー、ろろ」
「うん、なかよしなのら」
「ロロ坊ちゃま、ピカを撫でても大丈夫ですか?」
「へいきなのら」
ウォルターさんが、ゆっくりとピカを撫でた。
「ピカ、力になってくれたのだってね。ありがとう。これからもロロ坊ちゃまたちを頼みましたよ」
「わふん」
任せてよ。なんてピカが言っている。
確かに、あの時ピカが来てくれて色々助かった。あの泣き虫女神、グッジョブだ。
「ウォルター、ピカは犬じゃないんだぞ」
「おやおや、そうなのですか?」
「なあ、レオ」
「はい。ね、ロロ」
え、俺に振るのか? 言っちゃっても良いのかな? それは秘密なのじゃないのか?
「ウォルターなら良いよ。それに伯父様やお祖父様たちにも、もう話してあるんだ」
そうなのか? これは本格的に俺ってば出遅れているぞ。俺の知らないうちに、色々進んでいるじゃないか。
なら、堂々と言ってみよう。
「ふぇんりるなのら」
「なんと……レオ坊ちゃま、本当ですか?」
「そうなんだよ、びっくりだよね。アハハハ」
「ひみちゅなのら」
俺はプニッとお口に人差し指を当てた。
「そうだね。ウォルター、秘密だ」
「ふふふふ。はい、秘密ですね」
そのピカに乗っているエルが、一人キョトンとしている。
「なんら? ふぇ、ふぇ?」
「える、ふぇんりるなのら」
「しょれなんら?」
「わんちゃんより、とってもとってもちゅよいのら」
「ひょぉー! しゅげーな! やっぱぴかは、ぼしゅら!」
「わふぅ」
エルはきっと分かってないよ? なんて、ピカが言っている。
フェンリルが何なのか分かっていなくても、ピカがとっても凄いと分かっているから良いじゃない。
寝込んでいると聞いたから、もっと辛そうなのかと思っていたのだけど顔色も良く元気そうだった。
ただ、お腰が駄目なのらしい。それに伯父様の話だと、お邸に到着して俺たちの話をした後に意識を失ったそうだ。そんな無理をしてまで知らせに来てくれたのだ。
「年を取ると、足腰が弱くなりますね」
そう言いながら、自分で腰を擦っていた。早く良くなると良いのだけど。
「ロロ坊ちゃまを抱っこさせていただきたいのですが、今そんなことをするときっと腰にきますから」
そう言いながら、微笑んでいた。無理をしては駄目だ。しっかり治してほしい。
これってエルフさんだと治せるのかな? 魔法だとどうにもならないのかな? ならポーションならどうだ?
「ロロ、大丈夫だよ。時間がかかるだけだ」
「れおにい、しょお?」
「そうだよ、腰だけじゃないからね」
「そうだぞ、長旅だったのだからゆっくり身体を休ませる方が良い」
伯父様もそう言うけど。けどなぁ、痛いのは辛いし。1日でも早く治してあげたいと思ってしまう。俺はちょっと心配そうなお顔をしていたのかも知れない。
「ロロ坊ちゃま、ありがとうございます。シュテファン様のお言葉に甘えさせてもらって、ゆっくりさせていただきますよ」
仕方がない。時間はかかっても元気になるというのだから。
「うぉるたーしゃん、まいにちおかおを、みにくるのら」
「おやおや、ありがとうございます」
「ぼくもいっしょにくるじょ。らって、ろろとは、しんゆうらからな」
そう言ってエルがまた、ヘヘンと胸を張る。ふふふ、エルの思っている親友でどんなのだろう?
「小さな子がいると、場が優しくなりますな」
「アハハハ、エルはやんちゃだけどな」
「おじいしゃま、しょんなことないじょ」
「そうか? 毎日走り回っているだろう?」
「しょれは、りーだーたちが、いるからら」
「おや、リーダーですか?」
「しょうなのら」
リーダーやプチゴーレムのお話や、ルルンデには大きな亀さんもいるのだとそんな話をした。ウォルターさんは、時々驚きながらもずっと笑顔で聞いてくれた。
「楽しくされているようで安心しました」
ウォルターさんは、ニッコリと優しく微笑んだ。うん、毎日お見舞いに来よう。
それから俺は裏庭を案内してもらった。建屋を出ると、アンアン、ピヨピヨと走り回っている子たちが目に入った。




