417ー会いに行こう
絵の中の母様は、幸せそうに微笑んでいる。
「かあしゃま、きれいなのら」
「そうだろう? 何しろこの国の皇子殿下に、見初められるくらいなのだからな」
ええー、それを言っても良いのか? だって辞退したのだろう? だからひっそりとこの国を出たのだと、お祖母様が話してくれた。
「確かに、大々的なことはしてやれなかったが、それでもクロエは幸せそうだった。私たちも、クロエの幸せを願って送り出したんだ」
その絵の奥の壁には小さな母様と伯父様がいた。キラキラとした瞳が絵でも分かる。二人共とっても利発そうで、母様は可愛い令嬢だった。
「おじしゃま、これもかあしゃまなのら?」
「そうだよ。幼い頃のクロエだ。ロロより少し大きいくらいだな」
「ふふふ。おじしゃまも、ころもなのら」
「当然だ。私だってロロのように、ちびっ子の頃があったんだ」
こんな話ができるなんて、想像もしなかった。
俺と伯父様がゆっくりと絵を見ているのを、ずっとエルは黙って待っている。こんなところがお利口だと思う。ピカさんにチョコンと乗ったままだけど。
「ロロはかあしゃまに、にてるんらな」
「え、しょう?」
「おー、しょうおもうじょ」
そう言って、ニッコリと笑った。素直な笑顔だ。本当にそう思ってくれたのだろう。ふふふ、嬉しいな。
「レオとロロは、どちらかというとクロエ似だろう」
「しょう?」
「ああ。リアとニコはアル似だ。リアなんて性格まで似ているよ」
「ふふふ」
笑ってはいけない。リア姉の正義感と責任感は父様譲りなのだね。
伯父様がふんわりと俺を抱きしめながら、頭を撫でてくれる。
「本当によく無事でいてくれた。私たちが気付けなくて悪かった。寂しい思いをさせてしまったな」
皇子殿下とのこともあって、大っぴらに交流できる立場ではなかった。そのことを母様もよく理解していて、敢えて距離をおいた。
ウォルターさんからの便りだけで知ったつもりになっていた。立場なんて考えずに、もっと親身になっていれば良かったと後悔していると。
伯父様がまた眉を下げてそう言った。そんなことはないのだ。
「たのしいのら。みんないっしょなのら」
「そうだな、四兄弟一緒にいてくれて良かった」
そんなの離れるなんて選択肢は俺にはない。でも俺たち兄弟が今まで一緒にいられたのは、リア姉とレオ兄そしてマリーたちのおかげだ。
俺なんてちびっ子で泣いてばかりだった。周りの人たちに恵まれていたのだと本当に思う。
「これからは、私たちがいる。フリード様たちもいる。頼って欲しいんだ」
「ありがとなのら」
「ぼくもいるじょ!」
「ふふふ。える、ありがと」
「おー、しんゆうらからな!」
可愛いなぁ、弟がいたらこんな感じなのかな? て、同じ歳なのだけど。
ここで見た母様の絵は、優しく幸せそうに微笑んでいた。それを俺は忘れないようにしようと思った。
きっと父様と一緒になってからも幸せだったのだ。だって魔道具で見た母様は、絵の母様よりずっと幸せそうに見えたから。
「おじしゃま、あいたいひとがいるのら」
「ああ、ウォルターだね」
「しょうなのら。ありがとうって、いいたいのら」
「案内しよう。リアたちはもう会ったんだ」
レオ兄が、もう会ったと話していた。俺って、またまた出遅れているぞ。寝込んでしまったことが悔やまれる。
しかもほっぺが元に戻るまで、ベッドから出たら駄目とか言われちゃったし。ここに着いてから時間がかかってしまった。
執事のウォルターさんが命がけで知らせてくれたから、テオさんとジルさんが探しに来てくれた。恩人といっても良いと思うのだよ。ふむふむ。
俺は腕を組んで考えるポーズだ。久しぶりに出たよ、俺のちょっと渋いポーズがさ。片足をちょっとだけ前に出して、貫禄を出してみよう。
「ぶふふッ」
おやおや? もしかして伯父様は笑いを堪えていたりするのかな? おかしいぞぅ。
「ロロ、どうした? 考えているポーズか?」
「しょうなのら。しぶいぽーじゅなのら」
「ぶはッ、ハハハハ」
ああ、思いっきり笑われてしまった。そんなにおかしいかな?
「ろろ、しぶくないじょ」
「え、しょお?」
「しょうらな。らって、おなかが、ぷくぷくらもん」
「ええー」
それは気付かなかった。だって自分のお腹なんて意識して見ないもの。盲点だった。
「アハハハ、ロロは楽しいな」
「ええー」
俺の決めポーズと言っても過言ではない渋いポーズが、笑われてしまって楽しいとか言われちゃった。これはいけない。また別のを考えなきゃ。
「わふん」
「え、わかったのら」
そんなことをしていないで、乗ったら? なんて冷めたことをピカさんに言われちゃった。ヨイショとまたピカに乗る。
さて、会いに行こう。俺だけ遅くなっちゃった。
「ろろは、じょうじゅにのるな」
「なれてるのら」
「しょっか、ぼくもなれるじょ」
「うん、しゅぐになれるのら」
「おー」
エルはまだほんのり甘い香りがする。ちびっ子特有の匂いだ。赤ちゃんの頃の匂いが、まだほんの少しだけ残っているのだね。可愛いったらない。
「わふ」
「あ、しょうらった」
またまたピカさんのツッコミだ。ロロと同じ歳だよ。なんて冷静に言われちゃった。俺もそうなのかな? だからリア姉がよく、スーハーしているのか?




