415ー親友ら
俺はレオ兄を呼んだ。
「れおにい!」
「ん? ロロ、どうしたの?」
「れおにい、えるがのれないって」
「ああ、乗せてあげよう。でもロロ、エルが乗るならピカにハーネスを着けよう」
レオ兄がそう言うと、ピカさんがハイとハーネスを出した。いつでも着けられるように持っているのだよ。ピカにハーネスを着けながらレオ兄が言い聞かせる。
「ピカ、ゆっくりだよ。ロロは病み上がりだし、エルは初めてだからね」
「わふん」
ピカもちゃんと分かっている。
うん、ゆっくりお庭を周ってほしいな。俺はお庭に出るのが初めてだから、色々見てみたい。
「れおにい、ありがと!」
「エル、しっかり掴まっているんだよ」
「おう!」
前にララちゃんと一緒に乗った時みたいに、俺の前にエルが乗っている。その後ろから、俺が手綱を持つと、ゆっくりとピカが立ち上がった。エルは初めてだから、気を使ってくれているのが分かる。
「ひょぉー! しゅげーな!」
「ふふふ」
「ろろは、いちゅものってるのか!?」
「しょうなのら。える、まえにある、ちゅなをもって」
「おう!」
ピカがゆっくりと歩き出す。畑の周囲を行き、牛舎や鶏舎のそばを過ぎて、建屋の並んでいるところを通り、またリア姉とお祖父様が打ち合いをしている鍛錬場に戻ってくる。
いつも俺だけなら走ってくれるピカも、今日はのんびりと歩いている。揺れないように気を付けて。
「なんらか、ぼうけんに、でるみたいら!」
「ふふふ、ぼうけんなのら?」
「しょうらじょ、らってこんなの、はじめてら!」
「えるがもっとなれたら、はしってもらうのら」
「ひょぉー! はしるのか!? たのしみらな!」
俺はエルの後ろにいるからお顔は見えない。それでもどんな表情をしているのか想像できる。エルはお利口で素直な良い子だ。仲良くなれたらいいな。
「ろろは、もうしんゆうらな!」
「えー、ほんとに?」
「しょうらじょ、らっていっしょに、ぴかにのったんら!」
「うん」
親友だって、3歳でよくそんな言葉を知っていたよね。ふふふ。
「え、ろろはいやか?」
「いやじゃないのら。しんゆうなのら」
「らよなッ!」
ちびっ子二人が大きなワンちゃんに乗って、お庭を行くとみんなが微笑ましく見てくる。まあ、可愛らしい。とか、元気になって良かったですね。とか声を掛けてくれる。
エル坊ちゃま、嬉しそうですね。なんて言われていた。どんな顔をしているのか、見なくても分かる。ピカが歩く揺れに合わせて、楽しそうに身体も少し揺れている。
二人でピカに乗って、お花が咲いているお庭をお散歩する。広いお庭だ。このお庭を母様も歩いたのかな? 父様は来たことがあったのかな? そんなことを考えていた。
「ろろの、かあしゃまな」
突然エルがそう言うから驚いた。母様のことを考えていた時だったから、この子はなんて勘が良いんだと思った。それとも偶然なのか?
「おじいしゃまの、いもうとなんらろ?」
「しょうらよ」
「しょれれ、きたんらよな?」
「うん」
「ろろのかあしゃまの、えをみたことがあるんら」
「ほんとに?」
「うん、みにいくか?」
「みたいのら」
「おう、いくじょ」
絵なんてあるのか。さすが貴族だ。そんなものがあるなんて、思いもしなかった。ちょっとドキドキしてきちゃった。
「える、まって。りあねえたちも、いっしょにいきたいのら」
「りあねえたちは、しってるじょ」
「しょうなの?」
「おう。もう、みたんらじょ」
なんだ、なんだ。俺だけめっちゃ出遅れてるじゃないか。みんなズルイぞぅ。教えてくれよぅ。
「ボクも、みるのら」
「おう。ぴか、なかにはいるじょ」
「わふん」
ピカがエルの言ったとおりに、お邸の中に入って行く。ピカの首筋をパフパフしながら、お邸の中に入ると話している。ピカに乗って、嬉しいのだと伝わってくる。だって普通はいくら大きくても、ワンちゃんには乗らないもの。
お邸に入ったところで、伯父様に会った。
「あー! おじいしゃまら」
「エル、もう一緒に乗っているのか」
「へへへ~、ろろとは、しんゆうなんら!」
「アハハハ! そうか、親友か。ロロ、エルはやんちゃだろう?」
「しょんなことないのら。とってもいいこなのら」
「そうか? ロロの方がお兄さんみたいだな」
「ええー、いっしょらじょ」
「うん、いっしょなのら」
伯父様が柔らかく微笑んでいる。そのお顔を見るだけで、エルがとても可愛がられているのが分かる。孫だものね。孫は目に入れても痛くないとかいうもの。
「どこに行くんだ?」
「ろろの、かあしゃまのえを、みにいくんらじょ」
伯父様が俺を見る。良いのか? と、聞かれているみたいだった。ほんの少しの心配が混じっている。だって、伯父様の眉が少しだけ下がっていたから。
「ボクが、みたいのら」
「そうか。なら私も一緒に行こう」
やはり伯父様は心配してくれているのだろう。でも俺は覚えてないから、色んなことを知りたい。母様だけじゃなく、父様のこともそうだ。
それに、もう魔道具で両親の姿を見ている。だからね、大丈夫だよ。
「ロロたちが生まれる前のクロエだ。この家を出る前に描いてもらったものだよ」
「しょうなの?」
「ああ、思い出になるかと思って両親が絵師に頼んだんだ」
そりゃ、隣国にお嫁に行ってしまえば次はいつ会えるか分からない。その上、皇子殿下との婚約を辞退したのだろう? そんなの、もう帰って来られないと母様が覚悟していても不思議じゃない。




