413ー復活
ピカとチロが、まだ心配そうに見ている。
「わふ」
「キュルン」
アハハハ、ピカさんったらチロに、ロロは病み上がりだから僕の背中に乗ると良いのに。なんて言っている。
でもチロが、ロロがいい。と、言い返している。
チロが肩に乗って負担になるほどじゃない。ほとんど重さなんて感じないのだもの。聖獣だからなのかな? 分からないのだけど。
「ロロ坊ちゃま、もう元気ですね」
「うん、まりー」
マリーとお手々を繋いで玄関からお庭に出る。久しぶりのお外だからとっても眩しく感じる。
良いお天気だ。庭のお花や葉っぱがピカピカ光って見える。柔らかい日差しで、ふんわりとした雲がゆっくりと流れる青空。そよそよと俺の短い前髪を撫でていく風。久しぶりのお外の空気を胸いっぱいに吸い込む。
「ふゅ~……ふわ~」
「あらあら、どうしました?」
「おしょとは、ひしゃしぶりなのら」
「ふふふ、そうですね」
何度かゆっくりと深呼吸をして、お庭を見渡す。母様の育った家だ。この庭を母様もお散歩したのかな?
あれれ? せっかく長閑な良い感じだったのに、どこからか声が聞こえるぞ?
「まだまだー!」
「ワッハッハッハ! リアなどには負けんぞ!」
カーンと木剣がぶつかる音がする。
「あぁー、りあねえら」
「そうですよ。毎日大旦那様と打ち合いをなさっているんです」
「え、まいにち?」
「はい、辺境伯様のお邸にいた時は毎日フリード様となさっていましたから」
「ああー……」
だってあそこはみんな体育会系だから。朝の鍛錬なんて、最初はとってもびっくりした。どうしてメイドさんまで、張り切って参加しているんだ? て、思ったもの。
「レオ坊ちゃまも一緒におられますよ。見に行きますか?」
「うん」
お花が沢山綺麗に咲いているお庭の横を通り、裏の方へと歩いて行く。
お邸の裏側には、幾つかの建屋が並んでいる。その反対側には温室かな? 畑や鶏舎、牛舎もある。その奥に広い鍛錬場があった。辺境伯邸と同じようにここでも鍛錬ができるようになっている。
そこに、レオ兄とテオさん、ジルさんがいた。リア姉とお祖父様の打ち合いを見ている。俺に気付いて手を振ってくれる。
「ロロ、出てきたのか? 大丈夫かな?」
「うん、れおにい。もうげんきなのら」
「そう、良かったよ」
リア姉は果敢にお祖父様に打っていくけど、片手であしらわれている。お祖父様は全く本気じゃない。リア姉、どうした?
「れおにい、じぇんじぇんなのら」
「ん? 姉上かな?」
「しょうなのら」
「ほら、足元を見てごらん。円が描いてあるだろう? あの円から出たら駄目ってルールで打ち合っているんだ」
ほうほう、だからそれを気にしちゃって、本当の力を出せてないってことなのかな?
「姉上が気にしすぎているんだよ。何度やっても駄目なんだ」
「あらら」
足元ばかり気にしているのだね。そんなリア姉とお祖父様の打ち合いを見ていると、ニコ兄がどこからかやってきた。
「ロロ! 外に出て大丈夫なのか?」
「にこにい、らいじょぶなのら」
「ロロちゃん、無理しちゃ駄目よ」
俺を『ロロちゃん』と呼んでいるのは、母様のお兄さんの奥さんでローゼリンデ・オードランさんだ。
一見おっとりさんに見えるけど、実はそうじゃないとテオさんたちが話していた人だ。俺たちの伯母様に当たるけど、ローゼさんと呼んでいる。
ローゼさんもニコ兄と一緒に俺の部屋にきてくれていた。二人で薬草の話で盛り上がっている。ローゼさんはニコ兄の知識に驚いていた。
「まだ9歳なのに、凄いわ! 誰に教わったの?」
「自分で勉強したんだ。でも、毎日ドルフ爺と話しているからな。それが役に立っているんだ」
「まあ! あのドルフ氏かしら!?」
ここでもドルフ爺は有名人だった。と、いうかドルフ爺の家系がみんな有名人なんだ。薬草だけじゃなくて、野菜や果物の研究者としても有名らしい。そんな一族の人とは思いもしない。だってドルフ爺だもの。毎日鉈で、マンドラゴラをぶっ叩いているドルフ爺だから。
それに、ニコ兄が育てたお野菜をディさんに褒められたと聞いて、ローゼさんはとっても羨ましがっていた。
「凄いわね! ドルフ氏だけじゃなくてあのディさんまで! でも私もクリスティー先生に師事しているのよ!」
と、何故かここで対抗してきた。ディさんやクリスティー先生も超有名人だった。
俺たちの周りには、とんでもな人がいっぱいだ。偶然の縁だったのだけど、まるで父様と母様が繋いでくれたみたいに感じてしまう。
「にこにい、なにしてたのら?」
「ローゼさんと温室にいたんだ」
「ね~、ニコちゃんは話が合うからとっても楽しいのよ」
だが、これで終わりだと思ってはいけない。ローゼさんは魔法もお得意だ。
ニコ兄とリア姉はディさんに、もっと魔法操作を頑張るほうが良いよと言われていた。それを見抜いてしまったローゼさん。
「でもニコちゃんは魔法操作がまだまだだわ。勿体ないわね」
「分かってる! 頑張るぞ」
「ふふふ、そうね」
ここでも同じことを言われてしまっている。ローゼさんはテオさんたちに幼い頃から魔法を教えていた人だ。しかも厳しいとエルも話していた。




