409ーとうしゃまとかあしゃまら
欲しそうなお顔をしているけど、欲しいと口に出さないところがお利口だと思うのだ。ちびっ子なのに、これは自分のじゃないとちゃんと分かって我慢している。な、お利口だろう?
「エル坊ちゃまの分もありますよ」
「ほんちょか!?」
「はい。きっとエル坊ちゃまもいらっしゃるだろうからと、大奥様からいただいてますよ」
「やった!」
小さな手をマリーに出した。エルの小さな手のひらに、一つコロンと置かれた丸い飴玉。両手の上に載せて眼の高さに持っていって、同じような色味のキラキラした眼で見ている。もしかして、滅多に食べられないのかな?
「いちゅものおやちゅより、とくべちゅなんら。らって、おくしゅりのんらあとしか、もらえないから」
「ふふふ、しょうなんら」
「あらあら、そうなんですか。良かったですね」
「うん! ろろ、たべよ!」
「うん」
お口に入れて、コロコロと転がして味わう。甘くて蜂蜜味の飴玉だ。色的に、蜂蜜も入っているのだろう。
「ろろのほっぺが、ぷくぷくら」
「えるもら」
「アハハハ」
「ふふふ」
伯父様がやんちゃだと話していたけど、想像していたよりずっとしっかりとしている。ちゃんと考える力もあるし我慢もできる。まだちびっ子なのだから、なにも考えないで喋っていてもおかしくない。
でもこの子は違う。まだ3歳なのに、ちゃんと教育を受けている。考える力が身についている。
エルは次の日もやってきた。そしてきっと、エルが来たのが切っ掛けになったのだろう。次々とお邸の人が顔を見せてくれた。
「ぼくの、とおしゃまと、かあしゃまら」
「ろろれしゅ」
エルに紹介されて、まだベッドの中だけどペコリとした。
「私は君たちの従兄にあたる。テオの兄だよ」
「えっちょ、おじしゃま?」
「いや、それはやめてくれ。私はフィンハインという。フィンで良いよ」
「フィンしゃん」
アッシュシルバーの短髪にオレンジ色の瞳だ。フィンさんが一番お祖父様に雰囲気が似ているかも。ガタイもマッチョ気味だし。
「ふふふ、可愛いわね~。エルが邪魔をしてないかしら?」
その奥さんの、ベッティーナさん。栗色の長い髪を片側にもってきて緩く編んでいる。オリーブ色の優しそうな瞳をした人だ。
「私はティーナと呼んでちょうだいね。元気になって良かったわ」
「あい、てぃーなしゃん」
「ろろは、ともらちなんら!」
「もう友達になったのか?」
「しょうら。な、なかよしらよな!」
「うん」
「エル、大人しくしているんだぞ」
「ロロちゃんもまだ横になっている方が良いわ」
エルは俺のベッドに上がってきて、一緒にご本を開いた。
そこにテオさんとジルさんが、リア姉やレオ兄と一緒にやってきた。
「なんだ、兄上。来ていたのですか?」
「テオもか」
「はい、ロロが気になって」
「おや、ロロ。ほっぺがいつもよりぷくぷくですね」
「じるしゃん、しょうなのら」
「アハハハ、本当だ」
テオさん、笑い事じゃないのだ。地味に痛いのだよ。食べる時にお口を動かすのも痛い。
「ロロ、ジュースをもらってきたよ」
「れおにい、のむのら」
「エルも飲む?」
「おう、りあねえ」
え、もうリア姉なんて呼んでるのか? 俺が寝込んでいる間に、楽しいことをしていたら悔しいぞ。
レオ兄にもらったりんごジュースをゴクゴクと飲む。飲みやすい程度に冷えていて、美味しくて一気に飲んじゃった。
「れおにい、もうないのら」
「ロロ、一気に飲んだら駄目じゃないか」
「らって、おいしいのら」
「冷えているから飲みやすいのね。もうお熱はないのかしら?」
「はい、もうありませんよ」
ずっと付いていてくれているマリーが答える。もう俺は大丈夫なのだけど、まだベッドから出られない。お熱が高かったから安静にと言われてしまう。
「はやくおしょとれ、あしょべたらいいのにな」
「うん、もうらいじょぶなのら」
「らめらじょ。ぼくもおねつがでたときは、がまんしてねてたんら」
「しょう?」
「しょうらじょ」
みんなが俺とエルを見ている。微笑ましいお顔をして、ちょっぴり生温かく感じるのは気のせいかな?
「あれ? にこにいは?」
「ニコは伯母様と一緒だよ」
「おばしゃま?」
「ああ、私の母だ。薬草を育てているからニコと話があったんだよ」
へえ~、そんなにみんな仲良くなっちゃったのか? 俺はまだベッドの中だというのに。
もうお熱も下がったし、動いても良いんじゃないか? とっても暇だし。
「ろろ、らめらじょ。まら、ほっぺがぷくぷくらからな」
「え、しょう?」
「しょうらじょ」
「ふふふ、エルったらお兄さんぶっちゃって」
「かあしゃま、ちがうじょ。ともらちら」
「そうか、友達になれて良かったな」
「うん、とうしゃま!」
ニコ兄と話が合ったという伯母様は、ローゼリンデ・オードランという。金髪にオレンジ色の瞳でおっとりとしたように見える人らしい。
元々薬草に詳しくて魔法にも秀でているから、この家の薬草や薬湯担当になってしまっているのだとか。
薬草を育てているだけあって、クリスティー先生を崇拝しているらしい。年に1度は必ずクリスティー先生に会いに行くのだとか。クリスティー先生は薬草や魔法に詳しいものね。
「遠いからといつも父が止めるのだけど、聞かないんだ」
ええー、お転婆さんなのかな?




