407ーひまなのら
(レオ視点の続きです)
それからずっと交代で冷たいタオルで冷やして、口に水分を含ませながら看病を続けた。最初はたくさん汗をかいて苦しそうにしていたロロも、丸2日眠ってやっと目を覚ました。
ロロのぷくぷくのほっぺがパンパンに腫れていた。これは小さい時にみんな罹るんだ。まだロロが生まれる前だけど、僕や姉上やニコも罹ってしまって母上が看病してくれた。
ロロを看病している時に、お祖母様もロロのほっぺに気付いていた。
「ほっぺが腫れてきたわね」
「ええ、お祖母様。だからきっともう少ししたら目を覚ましますよ。大丈夫です」
「違うわ、あなた達は大丈夫なの? レオにうつったりしないかしら?」
「大丈夫です。僕も小さい頃に罹りましたから」
「そう、なら良いのだけど」
僕はお祖母様も心配だった。
お祖母様は、ここから辺境伯領まで往復したんだ。疲れもあるだろう。なのに、ずっとロロを看病している。お祖母様まで倒れてしまうのではないかと思っていたから、ロロが目を覚ましてくれて良かった。
お祖母様は、自分が気付かなかったからなんて言っていたけど、それを言うなら僕だ。ずっとロロと一緒にいたのに、高い熱が出て意識を失うまで気付かなかった。マリーまで自分を責めている。でも、毎日一緒に寝ていた僕が気付かないといけなかったんだ。
いつも元気にしているロロが、伯父様に抱かれてぐったりとしているのを見て思い出してしまった。ロロが攫われてディさんに抱っこされて戻ってきた時のことを。あの時のぐったりとしたロロを忘れられない。
「レオ、もう大丈夫よ」
「うん、姉上」
「あの時を思い出しちゃったわね」
「姉上もなの?」
「ええ」
きっとロロが大人になっても覚えているだろうな。あれは忘れられない。
「次にロロが起きたら、ポーションを飲ませておくよ」
「レオも一緒に休む方が良いわ。ずっと付いていたのだから」
「僕は大丈夫だよ。それよりお祖母様だ」
「そうね」
僕からも、また話してみよう。お祖母様の身体だって心配なのだから。
ロロが眠っている間に、伯父様も様子を見にきてくださった。
「ロロはどうだ?」
「はい、大丈夫です。もうじき目も覚ますだろうとお医者様がおっしゃってました」
「そうか。父上や皆も心配しているのだが、皆で押しかけてはいけないと言っているんだ」
「すみません、到着するなりご迷惑をお掛けしてしまって」
「レオ、何を言うんだ。迷惑なんて考えるんじゃない。君たちは私たちの家族だ。気にせず甘えてくれたら良いんだ」
「ありがとうございます」
この伯父様の言葉に驚いたのだけど、僕は嬉しかった。
二つの感情が交じってしまって、きっと僕は変な顔をしていたと思う。だって伯父様が家族だと言ったから。僕たちの家族は4人だけだと思っていた。もちろんマリー達は家族同然なのだけど。
そんな僕たちに当然のように家族だと言ってくれた。そのことに驚いたんだ。でも嬉しかった。そう言ってくれる人がいると、とっても心強い。僕達兄弟4人だけじゃないんだと思った。
お祖父様とお祖母様、それに伯父様、みんな僕たちを心配してくれる。力になると、頼ってほしいと言ってくれる。それが、突然両親を亡くした僕達にとってどれだけ心強いことか。
「レオも少し休みなさい」
「僕は大丈夫です」
「ロロが目を覚ました時に、レオが倒れたりしたらロロは心配するだろう?」
そう言いながら、僕の肩にポンと手を置いた。その手が大きくて、父上を思い出した。
父上の手も大きかった。剣を扱う人の手だ。伯父様の手も一緒だった。
「伯父様も剣を使うのですか?」
「ん? ああ、そうだが。どうした?」
「いえ、父上と同じ手だと思ったんです」
「ああ、アルか。よく打ち合いをしたよ。私の方が年上なのに、アルの方が強かった」
「そうなんですか?」
「そうだよ、君達の父上はとても強かった」
そうなんだ。剣術を教わっていても、実際に父が剣で戦っているところなんて見たことがなかったから。
あのフリード爺に認められたのだから、強かったのだろうとは思っていたけど。
「レオは剣じゃないんだな? リアは帯剣していたが」
「はい、僕は槍と弓です」
「それも、アルに教わったのだろう? フリード様が面白がって教えたら、アルはなんでも覚えてすぐにできたんだ」
こうして父上の話を聞くのは嬉しい。目が覚めたらロロにも話してあげよう。
◇◇◇
(ロロ視点に戻ります)
「ふゅ~……しょろしょろ、おきよっかなぁ」
大きなベッドで、身体を起こして思わずつぶやく。
「ロロ、まだ駄目だぞ」
「らってにこにい、ひまなのら」
「まだお熱が下がったばかりだからな」
「わかったのら」
俺は熱が下がると、ずっとベッドで寝ているのに早々に飽きてしまった。食事も食べられるようになった。まだリゾットみたいな感じなのだけど、それでも美味しいとちゃんと味が分かるようになったのだ。
なにより、女神にあの果物を食べさせてもらったからもう大丈夫だ。
「わふ」
「え、ぴか。しょう?」
「わふん」
「キュルン」
ピカとチロまで、まだ大人しく横になっていないと駄目だと言う。そういえば、女神もしばらくは安静にしていなさいと言っていたな。仕方ない、とっても暇なのだけど。




