403ーあれ? あれれ~?
お祖父様から侯爵位を継いでいる伯父様は、シュテファン・オードランという。
アッシュシルバーのサラサラな長い髪に、ブルーの涼しげな瞳をしている。お祖父様やフリード爺達みたいな感じではなくて、細身でスマートな人だ。
お祖父様が体育会系なので、てっきり同じタイプをイメージしていた。でも全然違っていた。
どちらかというと、文官といった方が似合うクールな感じの人だった。その人が俺達兄弟に順に声を掛けながら、ゆっくりと確かめるかのように抱きしめた。
「アウレリアだね。アルによく似ている」
フリード爺みたいに、ガシィッとではない。リア姉を確かめているみたいに、ゆっくりと大事そうに抱きしめる伯父様。華奢なリア姉がすっぽりと伯父様の腕の中に収まっている。
「はじめまして、リアと呼んでください」
レオ兄の背中をトントンとしながら抱きしめる。
「ああ、君がレオナルトだね。クロエにそっくりだ」
「レオです。お会いできて嬉しいです」
ニコ兄は頭をナデナデされながら抱き寄せられていた。
「君はニコラウスかな?」
「おう、ニコでいいです」
俺の目の前に立つ伯父様。涼しげな瞳で優しく俺を見た。
「じゃあ、君がロロアールドだ」
「あい、ボクはロロ。こんちわー」
ペコリとすると、ヒョイと抱き上げられた。
「アハハハ! 可愛いなぁ!」
俺ってちびっ子だから、抱っこされる運命なのだ。
でも、抱き上げられて分かった。細身でスマートだと思っていたのに、その腕は力強くてラン爺と同じような安定感があった。この人も鍛えているのだ。細マッチョってやつだ。羨ましいぞぅ。俺のふわもちボディーとはえらい違いだ。
「私は君達の伯父だ。よく来た! 私も迎えに行きたかったのだけど、父上に先を越されてしまったんだ」
「シュテファン、何を言う。お前は執務があるだろう」
「分かってますよ。それでも、黙って朝早くに出発することはないでしょう?」
え、お祖父様ったらそんなことをしていたのか? それは大人気ないぞぅ。
お祖父様が慌てて言い訳をしている。
「じっとしていられなかったのだ! 一刻も早く会いたかったのだから、仕方ないだろう!」
「はいはい。母上まで一緒に行くのですから驚きましたよ」
「あら、だって私も行くと言っていたわよ?」
これは確信犯だ。なんだ、ここではお祖父様とお祖母様が一番やんちゃさんなのか?
「みんなよく来てくれた。さあ、中に入ろう」
うん、穏やかだ。今まで、ガシィッ! とか、会いたかったぞぉーッ! て、ノリの人ばかりだったから、なんだか新鮮だ。
「ふふふ、ああ見えてシュテファンも強いのよ。怒らせたら、とっても怖いの」
お祖母様が、小さな声で教えてくれた。
え、怖いのか? そんな風には見えない。
「母上、何か言いましたか?」
「あら、何でもないわ」
これはあれだね。普段は穏やかだけど、怒らせたら駄目な人だ。敵には回したくないタイプだ。
俺は抱っこされたままだ。ちょっと大人しくしておこう。
「ロロと同い年のちびっ子がいるんだ。仲良くしてやって欲しい」
「あい。えっちょ、おじしゃま?」
「そうだ、私はロロ達の伯父様だ」
「おじしゃまの、ころものころも?」
「もう聞いたのか?」
「あい、おばあしゃまに、きいたのら」
「ロロは賢いとディさんが話していたよ」
「しょんなことないのら」
「いや、エルよりずっとしっかりしているよ。エルはやんちゃで危なっかしいからな」
エルと呼ばれているらしい。どんな子かなぁ。楽しみだ。
ここが母様が生まれ育ったお邸だ。やっと着いた。辺境伯領までディさんの転移で来たけど、それでも遠かった。とても楽しくて、俺はずっとドキドキわくわくしっぱなしだった。今だって……あれ? あれあれ~?
なんだかドキドキして、身体がフワフワしてきちゃった。どんどん酷くなっていく。おやおや~? クラクラしてきたぞ。どうしてかな?
なんて思っていると、身体に力が入らなくなって抱っこしてくれている伯父様にもたれかかった。瞼も重くなってくる。あれれ? 瞼が勝手に閉じてくる。
「ん? ロロ、どうした? 身体が熱くないか? 顔も赤いぞ」
「ロロ?」
「ロロ!」
「ロロ坊ちゃま!」
そこまでは覚えている。だけど、その後伯父様やみんなが俺を呼ぶ声がだんだん遠くなって……あれれ? どうしたのかな?
◇◇◇
「びえぇーん! だから無理しちゃ駄目なのですぅーッ!」
と、俺の目の前には女神がいた。お花がいっぱい咲いているところに、ペタンと座りこんで号泣している。相変わらず、涙だけじゃなく別の水分も出して泣いている。この光景にも、もう慣れちゃったけど。
「え? えっちょぉ、おじしゃまにらっこしゃれてぇ……あれれ?」
「その後ロロは気を失ったのですぅー! 高いお熱が出ていたのですよ!」
え? そうなのか? そんな自覚は全然なかったのだけど。
「だって辺境伯邸にいる頃から、よく汗をかいていましたー!」
ああ、そういえばマリーに何度も着替えさせてもらっていた。それはお熱が原因だったのか? てっきり俺はドキドキワクワクしていたからだと思った。




