402ー伯父様
母様も高等部に入る年にデビュタントをした。お祖父様にエスコートされて舞踏会に参加した。
その時に、帝国の第2皇子に見初められたらしい。内々ではあるけど、すぐに婚約の打診が届いた。だけどその頃はもう母様は父様と出会っていた。
他にも婚約者候補の令嬢がいたから、高等部に在学中はなんとか躱していたらしい。でも卒業を目前にして、とうとう躱せなくなった。
お祖父様やお祖母様も、父様と母様の気持ちを知っていた。だから辞退したのだそうだ。
「え、皇子殿下との婚約をですか?」
「そうなの。だからその時に私達も、爵位を返上する覚悟をしていたのよ」
そんなに大変なことだったのか。それでもお祖父様とお祖母様は、母様の気持ちを優先したんだ。
「別に爵位がなくても、この領地は豊かだわ。領地を返上したとしても、私達は貿易で食べていけるわね、なんて話していたのよ」
サラッと話しているけど、当時は大きな決断だったのだろう。母様だけじゃない。母様のお兄さんだっているんだ。それに、お祖父様の家は由緒正しい侯爵家だと聞いた覚えがある。
「そうね、お城で立場のあるお仕事をしていたご先祖様もいるわね」
なにより、国境を守っている家系だ。皇帝も無碍にはできなかったのだろう。
それで、婚約の打診を公にしていなかったこともあり、皇子との婚約はなくなったのだそうだ。
お祖母様は懐かしそうな表情で微笑みながら言った。
「爵位を返上しても、良かったのだけどね。ふふふ」
いやいや、そんなことはないだろう。実際に皇帝は侯爵家を残すことを選択したのだし。
それから母様は卒業と同時にひっそりと国を出た。父様と婚姻するためにだ。
「私達は婚姻式にも立ち会えなくて……クロエには不憫な思いをさせてしまったわ」
そうだったのか。だから母様は二度と帰れないなんて覚悟をしていたのだ。隣国だから、爵位が母様の家の方が上だから、そんな程度の話ではなかった。
「それでも、あなた達のお父様ならと思ったの。アルはとてもクロエを大切にしてくれて、信頼できる人だったのよ」
「辺境伯邸で出会ったのですよね?」
「そうよ、幼い頃から二人はきっと将来一緒になるわね、て話していたの。それだけ仲が良かったのよ」
なんだか、照れ臭い。自分のことじゃないのだけど。自分の両親のなれそめを聞くのって、ちょっぴり恥ずかしい。
「執事のウォルターがこっそり手紙をくれていたの。長女が生まれた、長男が生まれた、次男が、三男がってね。それが唯一の繋がりだったの」
ああ、だから執事さんは何が何でも知らせなきゃと、お祖父様の家を目指したのだ。
執事さんは、マリーより年上だったと聞いた。そんなお年で、隣国まで行くのは大変だったろうに。よく知らせてくれた。
「時々送られてくるウォルターの手紙を読むたびに、クロエは幸せなんだと思えたわ。あなた達のことも、とても愛していると伝わってきたの」
そっか……そうだったのか。父様と母様が……。俺がしんみりとしていると、お祖母様が言った。
「ロロにはまだ難しいお話だったわね」
「お祖母様、それはないです。ロロは全部理解していますよ」
「レオ、そうなの? だってロロはまだ3歳なのよ」
「はい、でもロロはそうなんです。本当に賢い子です」
ん? それは3歳らしくないって事かな? このふわもちボディーを触ってみるかな? ん?
「こんなに可愛いのに」
可愛いは関係ないと思うのだ。
馬車は門を抜け、大きなお邸の前で止まった。辺境伯邸と同じくらいに広いお邸だ。壁が白っぽい所為もあって、お邸というより小さなお城みたいだ。
広い前庭も辺境伯邸と同じだ。ここもきっと、何かあったら領民の避難所になるのだろう。
その前庭を過ぎると、綺麗な花が植えられていた。四阿も見える。その向こうにやっとお邸の玄関がある。玄関の前に、大勢の使用人とお祖母様の家族だろう人達が待っていてくれた。
「さあ、着いたわ」
お祖母様に言われ、順に馬車を降りると一人の男の人が前に出てきた。
「父上、母上、おかえりなさい。テオ、ジル、ご苦労だった」
「父上、無事に探し出せてホッとしました」
「ああ、よくやった!」
「シュテファン。変わりはなかったか?」
「ええ。それよりも父上、この子達ですか?」
「ああ。クロエとアルの子供達だ」
お祖父様に手招きされて、俺達は側に行く。ちょっと緊張してきちゃった。きっとあれが母様のお兄さんだ。
俺ってば、時々人見知りを発動してしまうから。隣にいるニコ兄の手を握った。
「ロロ、大丈夫だぞ」
「にこにい」
ぎゅって、握り返してくれる。ちゃんと、ご挨拶をしなきゃ。でも俺はドキドキでなんだかフワフワとして落ち着かなかった。ブルブルッと、身体が震えた。これは武者震いなのかな? あれれ?
「やっと会えた……」
母様のお兄さんが、俺達を見て目を細めながらそう言った。
一言なのだけど、心配してくれていたのだと伝わってくる。お祖父様とは違って、落ち着いた雰囲気の人だった。
「私が君達の母上の兄だ。よく無事でいてくれた。会いたかったよ」
シュテファンと呼ばれた母様のお兄さんだった。
お読みいただき有難うございます!
皆様、リリとロロのコミカライズは見ていただけましたでしょうか?
どちらも激可愛いですよね〜!
更新の時は、いつも18時前からスタンバッています。
皆様より少し早く読ませていただけるのですが、実際にサイトにアップされると、これまた感無量なのです!
迷わず即課金してしまいます。
ノベルも負けていられません!投稿ペースをもう少しなんとかしないと!
これからラウに集中です。めっちゃ可愛い赤ちゃんラウですよ〜!楽しみにしていただけると、嬉しいです!
応援して下さる方、続けて読んで下さる方は是非とも下部↓の☆マークで評価をして頂けると嬉しいです!
宜しくお願いします。
今日は書籍版にしかないシーンのイラストを!




