399ー2巻発売記念SS ロロの日常
「ロロちゃん、おはよう」
「しぇるまばあしゃん、おはよー」
朝ごはんを食べてみんなが出掛けて行ったら、お庭に出てセルマ婆さんと一緒に日向ぼっこだ。俺はコッコちゃんに囲まれながら、ピカに凭れてウトウト。コッコちゃんの羽毛と、ピカのふわふわな毛と体温がとっても気持ち良くて、すぐに俺を眠りに誘う。
「ロロちゃんったら、ふふふ」
セルマ婆さんは、とっても優しくて穏やかでおっとりとした人だ。あの賑やかなドルフ爺の奥さんとは思えない。正反対なのだから。
何を話すでもなく、ゆったりと時間が流れていく。白い綿菓子みたいな薄い雲がゆっくりと流れている青空、時々俺の短い前髪を揺らしていくそよ風、どこかで鳥さんが鳴いているよ。ピヨピヨと……て、この声はあの子達だ。朝から元気だね。
「ピヨピヨ!」
「アンアン!」
プチゴーレムと一緒に、朝から元気に畑を走り回っている。本人達は畑のパトロールをしているつもりらしい。確かに、見回ってくれているのだけど。
でも、それはプチゴーレム達がメインで、コッコちゃんの雛達は夜になったら柵の中でぐっすりと眠っている。まあ、良いんだけど。
最近では、あの白い奴を見つけたら我先にとドルフ爺に知らせている。
あの白い奴、マンドラゴラだ。毎日何匹(?)かバシコーンするのだけど、それでもまたどこからか出てくる。しつこいのだ。美味しいから良いのだけど。
「あらあら、ロロ坊ちゃま。お外で眠ったら駄目ですよ」
「まりー、ぽかぽかなのら」
「ふふふ、ピカちゃんの毛並みはとってもフワフワですものね~」
マリーがお洗濯を干す間、俺はセルマ婆さんと日向ぼっこだ。その後、マリーとセルマ婆さんと一緒にお野菜を収穫する。その日に使う分だけ採るのだ。
毎日新鮮なお野菜が食べられるのは、ドルフ爺やニコ兄が上手に育ててくれているからだ。
俺がまだ眠っているような朝早くから、ドルフ爺は畑に出ている。その日の早朝に収穫したお野菜を、息子さんが街で売っている。『うまいルルンデ』にも卸していて、他のお店で買うお野菜より新鮮で美味しいと評判らしい。
「わふ」
「ぴか、しょう?」
「わふん」
そろそろ、お散歩しようとピカが言ってきた。ピカは動くのが好きだ。大きな体をしているけど、ピカもまだ子供らしい。
ピカが伏せてくれるから、俺はヨイショと背中に乗る。
「キュル」
「ちろもいく?」
「キュルン」
「おいれ」
俺が手を出すと、そこにピョンと跳び乗ってくる。チロもまだ子供だ。来たばかりの頃は一日中眠っていることが多かったけど、最近は少し起きているようになった。
回復魔法もたくさん使えるようになった。成長しているのだ。
「まりー、しぇるまばあしゃん、おしゃんぽいってくるのら」
「気を付けてね~」
「あらあら、ピカから離れないようにしてください」
「うん」
まだまだマリーの心配性は健在だ。俺が攫われてから随分経つのに、未だに俺が外に出る時は心配する。分かっているから、俺もピカの側を離れない。だって心配掛けたくないから。
チロと一緒にピカの背中に乗って、畑の中を行く。
「ピヨピヨ!」
「ピヨヨ!」
「キャンキャン!」
速いなぁ~、どこからかピューッと走ってきた。ちびっ子なのに、この子達の身体能力はどうなっているのだか。
「おしゃんぽなのら」
「ピヨ!」
「アン!」
俺が乗るピカの周りを、走りながら付いてくる。賑やかだ。
「おう、ロロ!」
「どるふじい! おはよー!」
「散歩か?」
「しょうなのら」
俺が畑の中を行くと、ドルフ爺は必ず声を掛けてくれる。いつも見ていてくれるのだ。
ドルフ爺とセルマ婆さんにはとってもお世話になっている。俺が外に出られるようになったのも、二人のおかげだ。
「ロロ!」
「にこにい!」
「ロロ坊ちゃま!」
「ゆーりあ!」
ニコ兄とユーリアも、ちゃんと俺を気に掛けてくれている。ブンブンと大きく手を振ると、ニコ兄とユーリアも振り返してくれる。
こうして俺はみんなに見守られながら、毎日を過ごしている。ありがたいのだ。
ピカとチロもご機嫌だ。ピカのフサフサした尻尾が楽しそうに揺れている。
「ぴか、ちょっぴりはしるのら」
「わふん」
ちゃんと掴まっていてね、と言ってピカがゆっくりと走り出した。そよそよ~と風が頬を撫でていく。こうしてピカに乗って走るのはとっても楽しい。
「ぴか、しゅぴーろあっぷなのら!」
「わふ!」
ピカがシュタッと地面を蹴り、スピードを上げる。それでも、ほとんど揺れは変わらない。
俺を乗せているから、ピカは全然本気じゃないのだ。揺れないように気を付けてくれている。
思わず俺は拳を上げてしまうぞ。自分が走っているわけじゃないのに、とっても自慢げに胸を張って。
俺はまだ3歳だからこんなに早く走れない。ピカに乗っている時、限定なのだ。
ピカが走る後を、ピヨピヨ、キャンキャンと鳴きながらコッコちゃんの雛達とプチゴーレムが走っている。風を切って颯爽と走るピカ。とっても気持ち良いぞぅ。
「ロロ! そんなにスピードを出したら危ないぞ!」
「にこにい、らいじょぶなのら!」
「アハハハ! ピカははえーな!」
ドルフ爺が両手を腰にやって笑っている。
こうして俺は畑の中をお散歩するのが日課だ。畑を大きく何周かすると、良いお時間になる。
「ロロ坊ちゃま! お昼ご飯ですよー!」
「はぁーい! ぴか、もどるのら」
「わふッ」
お昼ご飯を食べたら俺はお昼寝だ。そういえば、今日はディさん遅いなぁ。いつもならとっくに来ている時間なのに。そんなことを思いながらお昼寝をした。
「ふわ~……」
「ロロ、おはよう」
「でぃしゃん、きてたの?」
「うん、今日はギルドに寄っていたから遅くなっちゃった」
俺が目を覚ますと、目の前に綺麗なディさんのお顔があった。一緒にお昼寝していたのかな?
「ロロが気持ち良さそうに寝ていたから、一緒に寝ちゃったよ」
ふふふ、モゾモゾとディさんにくっついて丸くなる。ディさんはとっても良い匂いがするのだ。森の中の澄んだ空気のような匂い。エルフさんだからかな?
俺がくっついていくと、ディさんは優しく包み込むように抱きしめてくれる。
「起きようか。マリーがオヤツを用意してくれているよ」
「うん」
こんな毎日が俺は大好きだ。なんてことはない平和な日常。それがとっても大切なのだと俺は分かっているから。
オヤツを食べたら、リア姉とレオ兄が帰って来るまでまたお外で遊ぼう。
元気に二人を出迎えるのだ。俺達のために、毎日クエストを受けて頑張ってくれている。
みんなの思いや頑張りで、今の生活が成り立っていると俺は知っている。
奇跡というには細やかだけど、でも一つ間違えば俺達はバラバラになっていたかも知れない。最悪は、ストリートチルドレンになっていた可能性だってある。
今の生活は、みんなのおかげなのだ。
「りあねえ、れおにい、おかえり~!」
「ロロ、ただいま」
「ロロー! ただいまー!」
リア姉はいつもギュッと抱きついてくる。俺のふわもちほっぺにスリスリしながら、手はぷにぷにボディーをモミモミしている。
「りあねえ、やめれ」
「やだぁ、いいじゃない~」
これもいつものことだ。今日も無事に帰ってきた。
毎日のなんでもない暮らしを、大切にしたい。ずっとこの暮らしが続くのかは分からないけど。
でも今のこの生活が、俺は好きなのだ。




