398ー2巻発売記念SS ディさんとココちゃん
本日2巻の発売です!記念SSをどうぞ〜!
僕がまだエルフの国を出てすぐの頃だ。先輩であるクリスティー先生を訪ねて辺境伯と呼ばれている人のお邸にやってきた。それからしばらくゆっくりさせてもらっている。
だってね、クリスティー先生が気に入ってるだけあってこの家の人達はとっても楽しいんだ。特に末っ子令嬢のココちゃん。
この子は何だろう? どこからその発想が生まれてくるのかと思うくらいに、突拍子もないことを考える。今だってそうだ。森に蜘蛛の魔物を捕まえに行っている。なんてお転婆なんだ。
「ねえ、先輩」
「クリスティー先生でっす」
「はいはい、クリスティー先生。ココちゃんはいつもああなの?」
「ああとは何ですか?」
「だって普通さ、蜘蛛の魔物を捕まえようとは思わないでしょう?」
「あれはきっと何か考えがあるのですよ」
「そうなの?」
「はい。ココ様の発想は素晴らしいですからね」
「へえ~」
この時はまだ半信半疑だったんだ。だけど実際に捕まえてきて、その後どうするのかを見ていると驚きだ。まさか蜘蛛が出す糸を利用しようなんてさ。しかもその糸を使って最初に作ったのが下着なんだよ。なんで下着なんだ? て、思うでしょう? それがまた普通じゃなかったんだ。
「え、なにこれ!?」
「ふふふ、ディさん良い感じでしょう?」
「ココちゃん! これ僕も貰って良いの!?」
「もちろんですよ。どの色が良いですか?」
「色?」
「はい。白と黒とピンクがありますよ」
この世界での下着革命だよ。今までの下着なんて庶民は生成色一択だ。貴族は少し質の良い生地の物を使っていたりするから良くて白色。黒やピンクなんて聞いたことがないよ。しかも、何? その形だよ。初めて見た時は、変なの? て、思ったのに試着してみてまた驚いた。
フィット感があるのに、伸縮性があるんだ。ゆるゆるでもなく、身体の動きを邪魔しない。そのうえ、軽い状態異常無効まであるというからまたまた驚いた。
「驚いたよ、マジでココちゃん凄いね!」
「何言ってるんですか、ディさんの方がずっと凄いですよ」
いやいや、なんでだよ。僕はこんなこと思いつかないよ。それだけじゃなかった。
「え? これは何なの?」
「えんぴつですよ」
「えんぴつ? これで字が書けるの?」
「はい、書けますよ。インクが必要ないんです」
「なんだって!?」
下着に、えんぴつに絵本、文字の一覧表、魔石の使い方だってそうだ。まさか魔石を中継してシールドを発動するなんて誰が考えるんだよ。
クリスティー先生がこの一家に拘るのも分かる気がした。皆、領民のことを第一に考えている。皆が平和で幸せに暮らせるようにと。なのに、この家族は皆楽しいんだ。
統治する辺境伯一家としての責任感だけじゃない。それよりもっと当たり前のように考えているんだ。自分達がやって当然だと。
「この家の人達は皆そうなのでっす。それがとても心地よいのですよ」
「そうだね、素晴らしいことだ」
「ええ、この国の光でっす」
クリスティー先生が言った通りになった。この国を魔族の手から守ったんだ。ココちゃん一家が王都へ行ったとクリスティー先生から連絡をもらった。
僕はその頃、ルルンデにいたんだ。王都へは僕の方が近いから駆けつけようかと思ったんだ。だけど、クリスティー先生が待ったをかけた。
「何があるか分かりません。戦力を集中させ過ぎては他が手薄になりまっす」
クリスティー先生は何かを感じ取っていた。僕には分からない何かを。同じ精霊眼を持っているといっても、経験値が違う。
クリスティー先生は先輩といっても、僕より百歳は年上だからね。その差は大きい。
あれから何年経ったことだろう。もう僕を驚かせたココちゃんはいない。それも寂しく感じるけど、僕は長命種のエルフだ。こんなことは人間の世界にいると仕方のないことなんだと、少しだけど割り切れるようにはなっていた。
「でぃしゃん、おはよー!」
「ロロ、おはよう!」
今僕はルルンデで出会ったロロの家に通っている。ロロはココちゃんみたいに、自分で精力的に動いて何かをすることがまだできない。だって3歳のちびっ子だから。
でもココちゃんに感じたような楽しさがロロにはあるんだ。
この先成長してどんなことをしてくれるのか楽しみだ。
「でぃしゃん、おやしゃいとる? ボクはおしゃんぽしゅるのら」
「ピカに乗るの?」
「うん、しょうらよ」
小さな足を一生懸命上げて、ピカの背中に乗ろうとする。ピカは伏せているけど、それでも大きなフェンリルだからロロが背中に乗るには大変だ。片足をスカッとかけ損ねている。その後ろ姿が可愛くて仕方がない。
「ロロ、乗せてあげるよ」
「ありがと」
ピカの背中に乗ると、首筋を小さな手で撫でながら話しかけている。ロロの肩に乗っていたチロもピカの背中に乗り移る。
「ぴか、おしゃんぽいこうね」
「わふ」
「でぃしゃん、いくのら」
「うん、行こう」
ピカが動く度に、ロロのお尻がフニフニと動く。それがまた可愛らしい。
足をプランプランさせながら、鼻歌を歌ったりしている。
「ふんふんふ~ん♪」
「わふわふわふ~ん♪」
「キュルキュルキュル~ン♪」
なんだ、ピカとチロも一緒に歌っているじゃないか。アハハハ、とても神獣には思えない。この世界の主神である女神の神使だ。ピカもチロもロロを守っているんだ。
大きくなったら、僕と一緒にエルフの国に行きたいと言ってくれたロロ。本当に一緒に行ければ良いなぁと思う。
ルルンデの長閑な雰囲気も好きだけど、ロロに僕が育ったエルフの国を見てほしい。
「でぃしゃん、おいてくのら~!」
「アハハハ、ロロ待ってよ!」
可愛い、とっても素直で可愛い。ロロ達四兄弟を見守っていこうと決めたんだ。




