396ー油断した
俺は集まって急降下してくる魔鳥目掛けて杖を振った。死神が持っていそうな大きな鎌の刃で、真っ二つに切るイメージだ。
「えいやぁーーッ!!」
「わおーん!」
ピカも一緒に攻撃してくれた。大きな鎌のような形をした刃と、ピカの無数の刃が魔鳥を見事にぶった切った。切られちゃった魔鳥が、ヒューッと上空から落ちてくる。
「ぴか、やったのら!」
「わふん」
これでもう攻撃できる魔鳥は残っていないだろう。
落ちたらそこにはみんなが剣を構えて待っているのだから。
「ロロ、ピカ、すげーな!」
「驚いたわ、ロロったら」
これはディさんが作ってくれた杖の性能が良いからだ。
ディさんに作ってもらった魔法の杖は、俺の魔力を上手く制御して発動してくれる。魔力量自体はピコピコハンマーを使う時と、大して変わらない感じがする。なのに威力が段違いだ。
「でぃしゃんが、ちゅくってくれた、ちゅえのおかげなのら」
「魔力制御が素晴らしいわね」
お祖母様は見ただけでそんなことまで分かるのか。
◇◇◇
俺達がもう大丈夫だと思っていた頃だ。遠くに見える鬱蒼と茂った森の向こうの上空を、黒い何かが飛び去り空中に消えた。不気味な影を落としながら、人目を避けるように素早く飛び立つ黒い何か。
目の前の魔鳥の事に気を取られ、その事に誰も気付かなかったのだ。
◇◇◇
みんなで攻撃して、順調に数を減らし上空に数羽残っていた魔鳥が森の方へ飛び去って行った。どうやら諦めたらしい。
その後には、何十羽もの倒した魔鳥が地面のあちらこちらに落ちていた。
テオさんとジルさんが、商人の護衛の人達と一緒に地面に落ちている魔鳥を回収していた。
テオさんのすぐ後ろに倒れていた魔鳥の翼がピクリと動いた。そしてゆっくりと頭を持ち上げ、グギャァ……と言う苦しそうな声と一緒に、テオさんの足目掛けて飛び掛かったのだ。
魔鳥の鋭い嘴が、全く気付いていなかったテオさんの脹脛辺りを掠めた。
「うわッ!! イッテーッ!」
「テオ様!」
魔鳥は最後の力を振り絞ったのだろう。そのまま地面にバタリと落ち、側にいたジルさんが魔鳥の首に剣をぶっ刺してとどめを刺した。テオさんは驚いて、尻餅をついてしまっていた。
「たいへんなのら! ておしゃんが!」
「あの子ったら油断していたのね」
お祖母様はこんな時でも冷静だ。いやいや、ここは慌てよう。ここから見ても、テオさんの足から血が流れているのが分かる。
俺やピカもポーションを持っている。それを渡しに行くということよりも、血が流れて痛そうだから早く治さなきゃとそっちに気を取られていた。俺は思わず、杖を振った。テオさんに届くようにと思いながら。
「いたいのいたいのとんれけーッ!」
杖がピカッと白く光り、テオさんの傷付いた脹脛を光が包み込んだ。
「え!?」
「ロロですか!?」
ふぅ~、怖かった。良かった、治ったみたいだ。テオさんが、ジルさんの手を借りながら立ち上がっていた。
「ロロ! 今のは何なの!?」
テオさんが傷付いた時でも冷静だったお祖母様が、俺の両肩をガシッと持って迫ってくる。
あれれ~? 慌てるところが間違ってないか?
「えっちょぉ、いたいのいたいのとんれけ~なのら」
「それって回復魔法なの!? ロロは回復魔法が使えるの!?」
「うん、しょうなのら」
「な、前にレオ兄の怪我も治したもんな」
「しょうしょう」
飄々としている、ニコ兄と俺。それをクスクスと、笑いながら見ているリア姉とレオ兄。
「レオ! どういう事なの!?」
「お祖母様、ロロは簡単な回復魔法なら使えるのですよ」
「そんなの聞いてないわ! ロロ! 凄いじゃない!」
「えへへ~」
お祖母様にギュッと抱きしめられちゃった。えっとぉ、お祖母様。落ち着こう。
「ておしゃん、らいじょぶ?」
「テオはいいのよ、ロロったら天才じゃないかしら!」
え、テオさんはいいのか? だって魔鳥さんに攻撃されちゃったのだよ?
「だって、もう治っているでしょう? それにあれはテオの油断だわ」
おや、テオさんには厳しいお祖母様だ。
「テオ、大丈夫か!?」
「はい、お祖父様。ロロが治してくれました」
「なにぃッ!? ロロがぁッ!」
ほら、ほぉ~ら。走ってきたよ、お祖父様が。
お祖父様ったら体育会系だから。フリード爺によく似ている。
「ロロ、凄いじゃないか!」
「ね、あなた。ロロは素晴らしいわ」
「回復魔法が使えるなんて、ディさんは言ってなかったぞ!」
「え、でぃしゃんもしってるのら」
きっと言い忘れていたのだね。うん、もういいかな? 俺ってお祖母様とお祖父様に、超至近距離で見つめられているのだけど。
当のテオさんはもう魔鳥を回収している。なにもなかったかのように。
いくら怪我が治ったって、俺ならびっくりしてしばらく動けないと思う。きっと慣れているのだ。魔獣に対することも、怪我をすることにもだ。
お祖父様とお祖母様がまだ驚きの余韻が残っている中、どんどん魔鳥さんは回収されていく。襲われていた商人の一団の中に、あのお高いマジックバッグを持っている人がいたのだ。容量はそう大したことがないらしいのだけど、それでもさすが商人だ。
それで魔鳥を全部回収していく。何故なら、魔鳥の羽は売れるしお肉も食べられる。骨は美味しいスープになる。捨てるところがない。




