394ーじゃんぷなのら
きっとフリード爺のプチゴーレム達と一緒に、鍛練だ! とか言ってやっていたのだろう。
下で待機しているリーダーやいっちーのすぐ上にジャンプすると、お尻目掛けてポンッと蹴りを入れる。その反動で高くジャンプして、落ちてくる魔鳥にキックしているのだ。フォーちゃんコーちゃんリーちゃんは羽を必死でパタパタさせているから、もしかしたら本人達は飛んでいるつもりなのかも知れない。プチゴーレム達まで、同じようにジャンプしている。ジャンプというか、飛ばされているというべきか?
それとも、これって飛び蹴りの一種なのか? いや、それにしては高いだろう? だって商人の幌馬車に魔鳥がぶっ刺さる前に、リーダー達は蹴りを入れている。蹴られた魔鳥がビュンと落ちてくるとそこに待ち構えているのが、お祖父様やテオさん、リア姉にレオ兄だ。魔鳥さんの生存確率は0パーセントって状態だ。
いつの間にあんなアクロバティックなことが、できるようになったのだ? 俺はもう責任が持てないぞ。
「アハハハ!」
「やだ、信じらんない! ウフフフ!」
レオ兄とリア姉だ。レオ兄なんて、魔鳥を射ながら爆笑している。
「ワッハッハッハ! 凄いぞぉーッ!」
お祖父様まで大きな声で笑っている。もうね、何度も言うけど本当にちびっ子の俺の手には負えない。お手上げなのだ。
「なあロロ、リーダー達って飛べないんだよな」
「じぇんじぇんとべないのら」
「あれって飛んでる事にはならないのかな?」
「あれは、じゃんぷなのら」
「えー……」
念を押してもう一度言っておこう。とんでも技を披露している雛とプチゴーレムを、ビシィッと指さして言おう。
「じゃんぷッ!」
「ええー、あれがジャンプかよ」
あの子達は、一体どうやって馬車から出たのだ? とにかく強いみたいだから良いか。なんて思っていた。本当に呑気に、俺達は見ていた。魔鳥は前に停まっている商人の馬車に集中していて、こっちには見向きもしなかったから。だから俺達は大丈夫だと思っていたのだ。
魔鳥は商人の馬車に積まれている食料を狙っている。魔鳥や魔獣は匂いにも敏感らしい。俺達が馬車の扉を開けて見ていると、あそこの馬車にも人が乗っているぞとでも思ったのだろう。
だって数羽の魔鳥が明らかに此方を見て、キララーンと目が光ったなと分かったから。そこで俺は思い出した。
「あ、おばあしゃま。おやちゅもってるのら」
「あら、そうだったわね」
商人の馬車の上空を飛んでいた魔鳥の群れの一部が、こっちに移動してきてしまった。
「ニコ、ロロ、危険だわ。もっと中に入りなさい」
「お祖母様、だけどあの攻撃をされると馬車の中にいても危ないぞ」
「それでも外にいるよりはマシよ」
「大丈夫だぞ! 俺達もピコピコハンマーを持っているから!」
「しょうなのら!」
そうそう、ピコピコハンマーという武器を持っているのだ。片手を腰にやり、ジャジャジャーンとピコピコハンマーを高く掲げる。せっかくニコ兄と二人でかっちょよく決めていたのに、冷静に割り込んできたピカさん。
「わふん」
「うん、ごめんね」
ピカが、ちょっとどいてね。と、俺達の前に出てきた。馬車の中から魔鳥を確認すると、それに向かってピカが吠えた。
「わおーん!」
ピカの風属性魔法の刃がシュンッと飛んだ。魔法の刃で翼を切断された魔鳥が、クルクルと回転しながら落ちてくる。それを見逃さなかったのは、リア姉とレオ兄だ。
「ニコ! ロロ!」
「もっと中に入りなさい!」
二人で走って来た。そしてリア姉が、炎の様な剣で魔鳥を勢いよく斬り倒した。落ちてきたらこっちのものだ。レオ兄も、風魔法を付与した矢を射って魔鳥を落とす。それをリア姉がぶった切る。良い連係だ。
コッコちゃんとプチゴーレム達も、張り切ってジャンプしている。お祖父様やテオさん達も、剣で魔法の斬撃を飛ばして魔鳥を落としている。商人の護衛らしき人達は、それができないらしくて落ちてきた魔鳥を切ることに専念している。
もう魔鳥が半分以下の数になって、楽勝だろうと思っていた。すると上空に待機して、様子を見ていた一羽の魔鳥が大きな声で鳴いた。
とても鳥だとは思えない鳴き声だった。まるで怪獣の様な、脳がかき回されてしまいそうな声。その声が合図だったのだろう。
「まずいわね、仲間を呼んだのだわ」
「え、お祖母様。大丈夫なのか?」
「大丈夫よ、負けないわ」
森の方から魔鳥の群れが飛んできた。どす黒い赤色の翼を広げて、ギャオーッと獣の様な声で鳴きながらだ。
「ろうしよう! おおいのら!」
「な、多いよな! ロロ、ピコピコハンマーで飛ばすか!?」
「にこにい、たかしゅぎない?」
「そうか?」
そうなのだ。ちょっとピコピコハンマーで、魔法を飛ばすには距離があると思う。やってみようか?
「にこにい、やってみる?」
「おう! やるぞ!」
「ニコ、ロロ、何するの!?」
「お祖母様、大丈夫だ! ロロ、やるぞ!」
「おー!」
「とぉッ!」
ニコ兄が馬車の中ギリギリまで出てピコピコハンマーを思い切り振った。
――ボボーン!
キュイーンと魔法の衝撃波が飛ぶ。が、やっぱりもう少しのところで届かない。




