393ーもう手に負えない
コッコちゃんの雛達とプチゴーレム達だ。いやもう雛とは言えないかも知れない大きさだ。リーダーだけが辛うじて雛の大きさだ。統率しないといけないリーダーまで、張り切って一番前を走っている。どういうこと?
ニコ兄も呆れて見ている。それにしても、走るの速いなぁ。
「ロロ、あれどうすんだ?」
「ろうしようもないのら」
「そうだな、けど飛べないのだから届かないだろう?」
「ね~」
「あらあら、まあまあ!」
お祖母様までマリーみたいになっている。
あの子達は本当にやんちゃさんだ。俺の手には負えない。みんなの足を引っ張らないと良いのだけど。そう思って見ていると、お祖父様が剣を空中に向かって大きく振った。すると、ギュイーン! と空気が振動する様な音がして、緑色に光る斬撃が飛び魔鳥の翼を掠めた。
「すげー!」
「ぴゃぁッ!?」
なんだなんだあれは!? お祖父様の剣から何かが飛んだのだ。だけど魔鳥も素早い。大きな体なのに、俊敏に動いて避けている。
「ふふふ、見るのは初めてかしら? 魔力を流した剣から魔法の斬撃を飛ばしているのよ。ああして空中の魔鳥を落とすの」
「お祖父様、すげーな!」
「あれは、フリード様に教えてもらった技よ」
「ふりーろじい!?」
「そうよ。フリード様はとっても強いの」
「俺達の父様の師匠だって聞いたぞ」
「そうね、アルは師事していたわ。貴方達のお父様も強かったのよ」
「へぇー!」
呑気にお祖母様の、そんな話を聞いていた。目の前でみんなが魔鳥と戦っているというのに。
レオ兄が、魔力を流した矢を射って魔鳥を落としている。それでも素早く躱されてなかなか落ちてくれない。それに数が多い。群れで連係して襲ってくるのだ。
もし、俺達が通らなかったらあの馬車の一団は危なかっただろう。人は逃げ出せたとしても、積み荷はきっと壊滅状態になったと思う。その商人の一団の護衛らしき人達も奮戦している。
あの人達は冒険者なのかな? 商人の恰好ではない。リア姉が持っているような剣で戦っている。
馬車から見ていると、リア姉の剣が真っ赤に燃えているように見える。リア姉も剣に魔力を流すことに慣れた。辺境伯領でも色々教わったみたいで、前よりずっとスムーズに魔力を流すようになった。その証拠に刀身が伸びている。元の剣の大きさより長くなっているのだ。これはリア姉、頑張ったのだろう。
そんな目立つリア姉より、淡々と弓を引いているレオ兄の方に注目したらしいお祖母様。
「まあ、レオは凄いわね。魔力操作が上手だわ」
「おばあしゃま、わかるの?」
「ええ、私は魔法の方が得意なの。剣ではなく魔法で戦うのよ」
「ええ!? お祖母様も戦うのか!?」
「もちろんよ。私達の領地も辺境伯領と同じで、魔獣や魔物がいるもの」
そういえば俺達の母様に、魔法を教えたのもお祖母様だと言ってなかったっけ?
「おばあしゃまが?」
「ええ、そうよ。女だって戦う術が必要なこともあるの。貴方達のお母様にもそう言って魔法を教えたわ」
なんだか、かっちょいい。お祖母様が落ち着いているから、俺達も危機感を感じていなかった。
テオさんやジルさんも魔鳥と戦っていた。二人も当然のように剣で斬撃を飛ばしている。みんな強いなぁ、と思いながら見ていたのだ。これはピカさんの出番もないね。
「わふん」
「うん、しょうらね」
「ピヨヨ!」
「キャンキャン!」
え……!? ああ、あの子達も奮戦しているらしい鳴き声が聞こえた。お祖父様達に混じって、ピヨヨ、キャンキャンと鳴きながらジャンプしている。
「ロロ、マジかよ」
「にこにい、もうてにおえないのら」
飛べないし小さいのだから戻っておいでと、リーダー、フォーちゃん、リーちゃん、コーちゃんそれに、いっちー、にっちー、さっちー、よっちー、ごっちーを呼んだ。久しぶりにみんなの名前を全部呼んだ。
「なにしてんの!? あぶない!」
俺は思わず叫んだのだけど、そんなの聞いちゃいない。しかももっと驚いたのがみんなの身体能力だ。今討伐しようとしているのは魔獣だ。それも空を飛ぶ魔鳥さんだ。あの小さな子達が届く訳がない。なのにだ。
魔鳥が翼を閉じて体を細くし一直線に空から落ちてくる。それを目掛けて高くジャンプしているんだ。フォーちゃん達は手羽をバタバタと超動かして、いっちー達は垂れ耳をフワフワと靡かせてジャンプし、落ちてくる魔鳥を蹴落としている。
あれはジャンプなのか? 飛んでいるとは言えないけど、それにしては凄いジャンプ力だ。
「ピヨヨー!」
「アンアン!」
元気よく鳴きながらキックしている。とぉッ! アルね! キックだ! ジャンプするアルね! やるぞー! なんて言って張り切っている。
よく見るとリーダーと、いっちーが下で待機してみんなを蹴り上げている。え? 蹴っちゃって大丈夫なのか?
「あら、あのこ達は凄いわね。全身に薄く魔力を纏わせているんだわ」
なんですと!? そんな事をいつの間にできるようになったのだ?
「あれは身体強化の一種ね。もしかしてフリード様が教えたのかしら?」
「ええ!? フリード爺はそんな事もできんのか!?」
「そうよ、フリード様はランベルト様ほど魔力はないのだけど、使い方が上手なのね」
ああ、それなら納得だ。だってフリード爺にプチゴーレムを作ったもの。




