392ー魔鳥
次の日も朝から馬車に揺られていた。お昼は宿屋で作ってもらったお弁当を食べた。
ゆっくりと食べ、少し休憩したらまた馬車だ。お祖父様のお邸まではまだ何日も掛かる。
俺はお昼を食べたら眠くなる。それはどこでも変わらない。馬車の中で、お祖母様に抱っこされながらスヤスヤと眠っていた。
どれくらい経っただろう? ガタンと急に馬車が止まった振動で俺は眼が覚めた。
「わふ」
「ん……ぴか?」
ピカが魔獣だと言っている。だから馬車が止まったのかな?
直ぐに馬車の外が騒がしくなって、馬車の扉が開いたと思ったらテオさんがいた。
「お祖母様、魔獣です。馬車から出ないでください」
「テオさん、私達も出るわ!」
「リア、レオ、危険だぞ!」
「大丈夫よ!」
「ええ、手伝いますよ」
「頼む! レオ、弓を使えたよな!?」
「はい!」
「持ってきているか?」
「ええ、もちろんです」
「じゃあ弓を頼む!」
「はい! ピカ、僕の弓を出して」
「わふん」
ピカがレオ兄の弓を出すと、リア姉とレオ兄が自分の武器を手に馬車を降りて行く。
えっとぉ……魔獣だとテオさんが言っていた。俺はまだ寝ぼけ眼をパチパチと瞬いていた。
「ロロ、起きるんだ」
「にこにい、まじゅう?」
「ああ、らしいな。ピカ、俺とロロのピコピコハンマーを出してくれよ」
「わふん」
ピカさんがピコピコハンマーをコロンと二つ出した。そっか、念のため俺達も準備しておかなきゃ。ピカがいるから大丈夫だけど。そうだ、チロだ。
「キュルン」
「ちろ、おねがいなのら」
「キュル」
「にこにい、あけて」
「おう、チロだな」
ニコ兄に馬車の扉を開けてもらって外を見る。
「ニコ、ロロ、危険よ」
「お祖母様、大丈夫だ。チロがみんなを守ってくれるんだ」
「え? チロが?」
そうなのだよ。チロがみんなの防御力をアップさせてくれる。しかも最近では、回避能力も高くしてくれるらしい。と、これはクリスティー先生が教えてくれた。
クリスティー先生は、興味深げにチロを見ていたから。きっと精霊眼で見たのだ。
「ちろ、おねがいなのら」
「キュルン!」
チロが俺の頭の上に乗って、一鳴きした。
「まあ! チロが光ったわ!」
「だろう? これでみんなの防御力ってのが高くなるんだって」
「そうなのね。チロ、有難う」
「キュル」
お祖母様が、俺の頭の上にいるチロをそっと指で撫でた。蛇さんなのに怖くないらしい。まだ小さいし子供だからね。
「チロはとても綺麗ね。ピカピカしているわ」
「しょうなのら。ぴかと、おなじいろなのら」
「あら、そうね。ピカもとても綺麗ですもの」
「わふ」
ピカが、危ないからちゃんと中に入って。と言った。でも俺は見たい。だから馬車の扉を開けたままで、ニコ兄と並んでお外を見ていた。二人でピコピコハンマーを握って。
どんな魔獣なのだろうと思ったら、獣ではなく魔鳥さんだった。だからテオさんがレオ兄に弓をと言っていたのだ。
魔鳥さんと言えば、コッコちゃんなのだけど全く違う。コッコちゃんは飛べないもの。
俺達のすぐ前を走っていた、商人の馬車の一団が魔鳥の群れに襲われていた。それも荷台に幌の掛かった馬車が、集中的に狙われている。
その魔鳥さんはお顔と尾羽は白色で、体はどす黒い赤だ。鮮やかな赤ではない。すこし黒っぽい赤で不気味だ。鋭いゴールドの眼と眼の間に、短い角が二本縦に並んでいる。
不気味な色の翼を広げて、馬車の上空に群れて飛んでいる。一体何羽いるのだろう? そこだけ異様な雰囲気になっている。
「きっとあの馬車に、食料を沢山積んでいるのね。だから狙われたのだわ」
「ひょぉー」
「すげーな、空から落ちるみたいに攻撃してくるぞ」
魔鳥がオレンジ色の鋭い嘴を武器に、幌馬車に突っ込んでいく。そして、狙った獲物を鋭い爪のある大きな足で掴み飛び立つ。翼を広げると、何メートルになるのだろうというくらいに大きい。
でも俺達はお墓参りの時に、もっと大きなロック鳥を見ている。だから大きさに驚きはしなかった。
その魔鳥の群れが、狙いを付けた獲物に向かって体の向きを変え、真っ逆さまになった。そして翼をたたみ鋭い嘴で空気を切り裂き、上空からまるで弾丸の様に急降下してくる。
そのまま馬車の荷台の幌を突き抜け、中の食料を持って行くのだ。
そのスピードには思わず息を呑む。寝起きでまだ少しポヤポヤしていた俺の頭も、一気に目が覚めた。あれはもし中に人が乗っていたら、一溜まりもない。
「ひょぉー! にこにい、こわこわなのら!」
「アハハハ、ロロは怖がりだからな」
だってあんな攻撃、反則だろう? 空から一直線に、目にも留まらぬ速さで突っ込んでくるのだぞ。あんなの避けられない。
その時だ。マリーの大きな声が聞こえた。
「あらあら! 駄目ですよ! 出たら駄目です!」
え? 何だろう? マリーのそういう声が聞こえた直ぐ後に、俺達の馬車の横を走って行く小さな集団があった。
「ピヨ!」
「キャンキャン!」
「ピヨヨ!」
「アンアン!」
ああ、忘れてた。この子達もいたんだ。口々に、出遅れたアルね! やるぞー! なんて言いながら走っている。




