385ーお話しした
今日はマリー達も一緒だ。
「まあまあ、マリーは別のお部屋でいただきますよ」
なんて、すっごく恐縮しているのだけど。
「マリー、食べながらでも話を聞きたいから、一緒にいてほしいのよ」
と、お祖母様が言ったからだ。
ルルンデでどんな生活をしていたのか。もうディさんに聞いているはずなのだけど、それでも俺達から聞きたいとお祖父様とお祖母様が言った。初めて聞くみたいに、色んな表情をしながら聞いてくれた。
リア姉が、冒険者として頑張っていると言った。
「リア、あなたは令嬢なのよ」
「アハハハ! しかもその歳でCランクか! 大したものだ!」
学園を退学した時の事をレオ兄が話した。
「レオは優秀だと聞いているわ」
「仕方がなかったとはいえ、退学は勿体なかったな」
ドルフ爺の畑を手伝ったり、薬草を育てているとニコ兄が話した。
「凄いわ、あのドルフ博士なのでしょう?」
「ニコは兄弟の為に、頑張っているのだな」
毎日ピカに乗って、畑をお散歩しているのだと俺が話した。
「まあ、ピカに!?」
「アハハハ! 本当に乗るのか!」
みんなで父様達のお墓参りに行ったとレオ兄が話した。
「そう、お墓参りに行ったのね」
「そうか、そうか。喜んでいるだろう」
また涙ぐむお祖父様とお祖母様。
その時にヒュージスライムを、リア姉とレオ兄で倒したのだとニコ兄が話した。
「まあ! ヒュージスライムですって!?」
「それはディさんから聞いていなかったぞ!」
ふふふ、だってディさんは一緒に行っていないもの。
楽しくて、嬉しくて、心がとんでもなくポカポカして。それに俺はアップルパイとアイスのコラボレーションで、お口がとっても幸せだ。
ここに来てから、こんなに楽しくて幸せな事があるのかと思うくらいなのだ。
「あらあら、ロロ坊ちゃま」
フォークを手に持ちながら、コクリコクリとし出した俺。オヤツでお腹がいっぱいになったら眠気が襲ってきた。全然抵抗できない。
「ふふふ、疲れちゃったのかしら?」
俺はお昼寝したのに、また眠ってしまった。ほんの少しだけどね。多分お昼寝の途中で起こされちゃったからだと思うのだ。でもちゃんと、夕ご飯までには起きた。
お庭を少しお散歩して、それから食堂でみんなが集まるのを待っていた。
「あたッ!」
またリーゼさんの声が、部屋の外から聞こえてきた。
「もうリーゼったら」
「あれは直らないのか?」
「あなた、口を酸っぱくして言っているのですよ」
「あの性格ですからね。仕方ないでっす」
イシュトさんとネリアさん、それにクリスティー先生だ。酷い言われようだ。ラン爺まで、仕方がないなと苦笑している。でもあれでも転けないんだ。それは凄い事だと俺は思う。
「ごめんなさい、遅くなっちゃって!」
リーゼさんが入ってくると、その後ろからフリード爺がやって来た。
「皆早いな。ロロ、起きたのか」
「うん」
「ロロ、今夜は一緒に寝ましょう!」
「これ、リーゼ」
「ね、もう出発しちゃうんでしょう?」
「リーゼ」
「だから、一晩くらい良いでしょう?」
止めるネリアさんの声をスルーして、話しながら俺のそばへと来ようとするのだけど。
「あたッ!」
はい、お決まりだ。絶対にそうなると思っていた。
おっとっとと躓きながら、それでも持ち堪えるリーゼさん。後ろから入って来ていたフリード爺の胸元にパフンと抱きついた。厚い胸板に。
「リーゼ……」
「あ、お祖父様。ごめんなさい」
「リーゼ、何度言っているのかしら?」
「ひゃい、お母様!」
このパターン、リーゼさんの初登場の時にも見た気がする。
毎回これなのかな? ネリアさんも大変だ。
「リーゼはもう少し落ち着きなさい」
「はいぃ、ランお祖父様」
リーゼさんは船の上では平気そうに立っていたのに、どうしてお邸の中ではこうなのだろう? 不思議だ。おっちょこちょいにも、程度ってものがあるぞ。
その日の夕食は、俺はあまり食べられなかった。だってオヤツを食べてその後眠っていただけだから、そんなにお腹が空いてない。
折角の海鮮料理だったのに。アクアパッツァにパエリア、それにクラムチャウダーもある。ルルンデでは手に入らないものばかりだった。前世ではメジャーな料理が並んだ。この世界では珍しいものだ。きっと辺境伯家のご先祖様が開発したのだろう。
その夕食の時にお祖父様が言った。
「皆が疲れていないのなら、明日にでも出発しようと思っている」
「みんなリア達が来るのを待っているのよ」
え、もう行っちゃうのか? そんなに直ぐにとは思わなかった。そうなると、寂しく感じてしまう。
だって、俺達はフリード爺とラン爺に毎日遊んでもらっていたから。それに、クリスティー先生だ。一緒に眠った仲なのだ。
「しぇんしぇい」
「はい、ロロ」
「しゃびしいのら」
「またいつでも会えますよ」
クリスティー先生が、ニッコリとした。俺はこうして離れるだけでも寂しいと思ってしまう。でもクリスティー先生やディさんは、仲の良い人達を送って来た。どれだけ寂しかった事だろう。
俺達だって、ディさんやクリスティー先生より先に逝く。その時、二人は悲しんでくれるかな? うん、きっと悲しく思ってくれるだろう。寂しいなって、楽しかったなって思ってくれると嬉しい。




