381ーお祖父様とお祖母様
俺達が乗る馬車も一緒に来ているのだという。だから道中はそんなにスピードを出せなかったと言っていた。これでもゆっくり来た方だと。
そしてその馬車はまだずっと後から来るらしい。自分達だけ先に走って来てくれた。結局馬車は置いてけぼりだ。
いやいや、有り得ない。だって、お祖父様とお祖母様なのだよ。なのに、二人とも魔獣の馬に乗って走って来たのだ。お触れの意味があるのか? て、くらいに時間差で到着している。どれだけ飛ばしてきたのだ?
その二人が、俺達を見た。ゆっくりと歩いて来る、お祖父様とお祖母様。なんだか、かっちょいい。すっと背筋が伸びていて、スレンダーな体型でとてもそんなお歳には見えない。て、お歳を知らないけど。
その内お祖父様が走り出してしまって、お祖母様が慌てて追いかける。
俺達兄弟4人が集まっている前まで走ってきて、そのままガシィッと抱き寄せられた。4人まとめてだ。イシュトさんにも同じ事をされたなぁなんて思い出した。
「やっと会えた! よく無事でいてくれた!」
「貴方達なのね、リア、レオ、ニコ、ロロ、お顔をしっかり見せてちょうだい」
俺はまたまた驚いて固まったままだ。よく抱きしめられる。しかもまた4人一緒にだ。思わず横にいたニコ兄にしがみ付いてしまった。
「あなた、ロロが驚いてますわよ!」
「お、おう。すまんな!」
そこでやっとお祖父様は手を離してくれた。ふぅ、驚いた。
「はじめまして、長女のアウレリアです」
「長男のレオナルトです」
「俺は次男のニコラウスです」
「ボクはろろ」
またガシィッと抱き寄せられた。お祖父様とお祖母様が、俺達を順に抱き寄せながら泣いていた。
どっちかというと、お祖父様の方がボロボロと涙を流している。お祖母様は静かに涙を流す感じでお上品だ。まさかあんなに大きな馬に乗る人だなんて思えない。
「私はお祖父様だぞ! 元気でいてくれて良かった! どれだけ心配した事か!」
「貴方達のお母様のお母様よ。ルイーゼというの。お祖母様と呼んでちょうだいね。こんな事になっているなんて、知らなくてごめんなさい。私達が遠慮せずにもっとちゃんと連絡を取り合っていれば、こんな事にはならなかったのに……ごめんなさいね」
と、何度も俺達に謝ってくれる。そんな事ないのだ。
「いえ、母から連絡を取っていないと聞いていましたから。僕達は大丈夫です」
「あなたがレオ。優しくてしっかりとしたお兄さんなのね。一番クロエに似ているかしら? リアも辛い思いをしたのでしょう? リアはアル似なのね」
「いえ、周りの人達に沢山助けてもらいましたから大丈夫です」
「ニコはロロの面倒を、よくみているのですって?」
「おう、お兄ちゃんだからな」
「偉いわ。ロロはまだ3歳なのね」
「あい」
俺は思わずお祖母様の、涙で濡れたほっぺを手で拭いた。手は汚くないけど、失礼だったかなとその手を引っ込めようとしたのだ。
「ロロ……ありがとう。ごめんなさいね。まだこんなに小さいのに……」
そう言いながら、お祖母様に手を握られてしまった。お祖母様の手はとても温かくて。
「ごめんなしゃいは、いわなくていいのら。きてくれて、ありがとうなのら」
「まあ……!」
ふわりとお祖母様に抱きしめられた。母様のお母様だ。母様もこんな良い匂いがしたのかな? シャボンの様な、お花の様な良い匂いがする。そして、柔らかくて温かい。こんなにスレンダーなのに、柔らかい。
その間、ずっとお祖父様が泣いていた。途中でレオ兄が側にいってハンカチを出したりしていたのに、それでもお祖父様の涙は止まらなかった。
俺達のお祖父様とお祖母様、想像していた感じとは違っていた。
隣国の侯爵様だと聞いていた。それも由緒正しい家系なのだと。だからもっとお貴族様な感じを想像していたのだ。
俺の思う貴族のイメージはルルンデの領主様だ。それよりもっと偉い人。なのに、フリード爺達に雰囲気が近かった。
お祖父様は、ブルクハルト・オードランという。もう侯爵位は母様のお兄さんが継いでいるから前侯爵様だ。
アッシュシルバーのサラサラな髪を短くしていて、精悍さがにじみ出ている。レオ兄や俺と同じラベンダー色の瞳から、大粒の涙を流してくれている。
お祖母様は、ルイーゼ・オードランという。レオ兄やニコ兄と同じ藍色の髪色で、今日は長い髪を上品に上げてまとめている。ブルーの瞳が少しクールに見えるけど、とっても温かい人みたいだ。
一通り挨拶を済ませても、まだお祖父様は泣いていた。
「こんなに可愛い子達に、辛い思いをさせてしまって……!」
「お祖父様、泣いてないでちゃんと見てください」
「テオ、これが泣かずにいられるか!」
「アハハハ、お祖父様。ほら、ロロが固まってますよ」
いや、テオさん。俺に振るのは止めてほしい。俺はどうしたら良いのだ? 本当に固まってしまうぞ。
「ロロの友達も紹介してくれるか?」
「あい。ぴか」
「わふ」
「ぴかれしゅ、しょれとちろ」
ピカの頭に乗っているチロも紹介した。蛇さんだけど怖くないよ。可愛いよ。




