38ーポーション
ギルドに入って俺は超驚いた。
「ぴゃ……」
「あらあら……」
マリーも思わず立ち止まって見ている。
何故ならギルドの長椅子の上に、血まみれの女の人が横たわっていたのだ。
服装を見ると冒険者っぽい。艶々な、くるみ色の髪が血で汚れている。腕とお腹のところが血まみれで、顔色も真っ青なのだ。
うッ……ちょっと俺、無理かも。まともに見ていられないのだ。思わずマリーにしがみついて目を逸らした。
「あらあら、坊ちゃま」
「血がいっぱい出てた。あのぽーしょんれらいじょぶかな?」
「どうでしょうね」
ディさんは中級ポーションだって言ってたけど。でも俺はその中級がどれ位のものなのかを知らない。
だって、あのポーションは擦り傷くらいにしか使った事がないからだ。俺が転んだ時用なのだ。
それよりも……おねーさんに聞いてみよう。
「ねえ、でぃしゃんは?」
「それがね、今日は来ていないのよ。ディさんは、本気で冒険者をやっていないから来ない時もあるのよ」
「へぇ~」
本気で冒険者をしていないのに、SSランクなのかよ。エルフってとんでもねーのだ。
ディさんがいたら、きっと回復魔法で治してくれるだろう。なのに、今日はいない。
肝心な時にいない。どこかで特盛りの野菜サラダを食べているんじゃないか? と、思ってしまったのだ。
「ロロ! ポーションは1本しか持っていないよな!?」
相変わらず、大きな声で話しながらギルマスが近寄って来た。
「ううん、まらある」
「そうか、あるわけないよな……って、あんのか!?」
「うん、ぴかがもってる」
「なんだとぉッ!?」
もう、ほんと声が大きい。
「れも、ぎるます。ここれはだせないのら」
「お、おう! そうだな、奥へ行こうッ!」
ギルマスに付いて行く。と、ピカがこんな騒ぎの中、落ち着いてお座りをしている。欠伸までしているのだ。
こらこら、ピカも行くのだよ。話を聞いていなかったのか? ピカが持っているポーションが必要なのだよ。
「ぴか」
「わふ」
フサフサな尻尾を揺らしながら、のっしのっしとやって来た。
ギルドの1番奥にある扉を開けて入って行く。手で押せば両側に開く扉だ。
入り口が広いのは、大きな魔獣を持って来ても入れるようにかな?
ピカは慣れているみたいなのだ。今までも入った事があるみたいだ。中に居たおじさん達も、ピカに手を振ってくれたりしている。
「ここならいいだろう。ポーションを出してくれるか?」
「うん、ぴか」
「わふぅ?」
「え、わかんない」
『わふぅ?』と、見つめられても俺にはワンちゃん語は分からないぞ。
「わふ……」
ピカが目で訴えている。
直ぐに忘れる、触ったら伝わるのに。て、言われたみたいだ。忘れてないのだ。はいはい、ピカに触りますよ。
ピカの背中を手で触る。ピカに触れていると、何を言いたいのか分かるのだ。
「わふわふ」
「ぎるます、なんほんいるかきいてるのら」
「え? 何本もあんのか?」
「うん。多分、れおにいがもたせてるから。しらないけろ」
「さっき倒れていただろう? あの冒険者の傷が酷くてもう1本必要だ。この後直ぐに、もう1人運ばれてくる。だから、3本くらいあるか?」
「ぴか、3本らって」
「わふッ」
と、ピカが3本ポーションをコロンと出した。どこから出てくるのだ?
「助かった! 2階に案内させるから待っててくれるか!?」
「うん」
「ロロくん、ピカちゃん有難う! じゃあ2階に行きましょうね」
おねーさんが案内してくれる。前にも入ったギルマスの部屋かな?
扉を出て、2階へ向かう階段をマリーに抱っこされて上がっていたのだ。
「ロロ! マリー! ピカ!」
「あ……」
「あらあら、丁度良かったですね」
「ね~」
リア姉とレオ兄が、ギルドに戻って来たのだ。無事で良かったのだ。
「どうしたんだ?」
「たまたま通り掛かったんですよ」
「そうなの? びっくりしちゃったわ」
「ぽーしょんあげたのら」
「ああ、ロロがいつも持ってるのかい?」
「うん。しょれと、ぴかのも」
「そんなに?」
「でも、怪我が酷かったものね」
「ね~」
階段の途中で立ち話をしていたのだ。
「ギルマスが、2階で待っているように言っているので案内しますね」
「私達も行くわ」
「はい、こちらです」
ギルドをよく知っている、リア姉とレオ兄がいると安心だ。何より無事で良かったのだ。
「まりー、よかったね~」
「そうですね。安心ですね」
「わふ」
やっぱマリーも同じ事を考えていたのだ。
前と同じ部屋に案内されて、またお茶を出してくれた。今日はジュースじゃないのだ。俺はちびっ子だからジュースの方が良いんだけど。
「こんな時に、ディさんがいてくれたら良かったのにね」
「本当だ」
「でぃしゃん、いないっていってたのら」
「そうなのよ。滅多にいないの」
「へ~」
「きっとどこかのお店で大量に野菜サラダを食べているのよ」
「姉上」
「ふふふ、それっぽいでしょう?」
「確かにね」
「ぶふふ」
俺もさっき同じことを思ったぞ。みんな思う事は同じなのだ。
「僕達も1年ギルドに通っていて、話したのはあの日が初めてだからね」
「そうね、チラッと見掛ける程度よね」
「ほ~」
ピカが寝そべっている。もしかして、お腹が空いたのか? 背中をナデナデする。
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